泣けない、泣かない。

黒蝶

文字の大きさ
上 下
88 / 156
泣かないver.

最近の悩み 大翔side

しおりを挟む
「小野、今日ちょっと元気ない?」
「大丈夫です」
「あんまり無理するな。休憩室のベッドで休ませてもらえ」
「...すみません、御舟さん」
実は最近、あまり眠れていない。
疲れてはいるはずなのに、どれだけ寝返りをうっても寝ることができないのだ。
何故そうなってしまったのかは自分では分からない。
「何かあったのか?」
「御舟さん、眠れなくなったことってありますか?」
「いや、俺はそういう経験ないな...」
ちょっと待ってろと言われて5分ほどたち、御舟さんと一緒にやってきたのは恋人の佐藤さんだった。
「すみません、俺邪魔なら、」
「そうじゃなくて、眠れないとかいう悩みならこいつの方が詳しいからきてもらっただけだ」
「小野さん、眠れないんですか...?」
「最近全然眠れなくて、2時間位しか寝てないんだ。佐藤さんも眠れないの?」
彼女は首を小さく縦にふる。
『意思疏通をとるにも照れ屋でなかなか難しいところがあるかもしれない』...店長や御舟さんが言っていたとおりらしい。
「アロマ、とかはどうでしょうか?」
「試したことなかったな...ありがとう、ちょっと買ってみる」
「何かあったらすぐ言えよ」
「はい、ありがとうございます」
親身になって聞いてくれる人がいるというのはこんなにも心強い。
兄貴や久遠以外に相談相手がいない俺にとって、このカフェの人たちは優しさで溢れているかけがえのない存在だ。
(アロマか...キャンドルが主流なのかもな)
バイト終わり、雑貨屋を物色してみる。
男でこれはひかれてしまうのかもしれないが、そんなことは言っていられない。
「大翔?」
「久遠...おまえもきてたのか」
「このお店、品揃えがいいからよく来るんだ」
久遠が持つかごには沢山のものが入っていて、とても楽しそうだ。
「それで、どうしてアロマキャンドルを見てたの?」
「やっぱり男が持ってたら変だよな」
「そんなことないよ!ただ、大翔は匂いがするものって苦手だったなって思っただけで...。
もしかして何か悩み事?」
久遠に隠し事をするのははじめから無理だったらしい。
「実は...」
俺は最近眠れていないこと、バイト先にいる先輩カップルにアドバイスをもらったことを話した。
久遠は話を遮ることなく最後まで真剣に聞いてくれて、様々な種類のアロマキャンドルが置かれているなかからオレンジの香りがするものを指さす。
「このシリーズだと火をつけなくていいからおすすめだよ。照明で少しずつ溶けていって、いい匂いがするの」
「使ったことあるのか?」
「うん。私も眠れないとき色々試したんだ。私のおすすめはバニラだけど、大翔はオレンジが好きそうだなって...」
真剣に悩んでくれるのがこんなにも嬉しいと感じてしまうなんて、俺は重症だろうか。
「久遠、その...久遠さえよければなんだけど、今夜泊まりにこないか?
キャンドルのこととか聞きたいし...」
もっと素直に一緒にいたいと伝えられれば、どんなによかったことか。
断られると思っていたのに、久遠はふたつ返事で来てくれることになった。
「7時に駅に行くから、迎えにきてもらってもいいかな?」
「勿論」
これだけで夜が楽しみになるのだから、本当に不思議だ。
またあとでとだけ言葉を交わして買い物に戻る。
何か久遠が使えそうなものを買っておこう、そう思いながら雑貨屋をぶらぶらした。
...かごには、彼女おすすめのキャンドルを入れて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。
ライト文芸
2023/01/02 ランキング1位いただきました🙌 感謝!! 生まれたての命に恐怖する私は、人間失格ですか。 ーーー ある日。 悩める女性の元へ、不思議なメモを携えたベビーがやって来る。 【この子を預かってください。  三ヶ月後、あなたに審判が下されます】 このベビー、何者。 そして、お隣さんとの恋の行方は──。 アラサー女子と高飛車ベビーが織りなすドタバタ泣き笑いライフ!

コバヤシ君の日報

彼方
ライト文芸
 日報。それは上司や他の責任者への一日の報告書。必ずしも書かないといけないものではないが(データを送るだけでもいい)昇級を狙う責任者たちは社長や会長という普段接点のないお偉いさんへアピールする場であるためなるべく書くようにと上司に指示される。  麻雀『アクアリウム』という全国展開している大手雀荘には日報をグループLINFでやり取りするというシステムを採用しており、そこにひと際異彩を放つ日報書きがいた。  彼の名は小林賢。通称『日報の小林』 【登場人物】 小林賢 こばやしけん 主人公。いつも一生懸命な麻雀アクアリウム渋谷店バイトリーダー。 渡辺健司 わたなべけんじ 麻雀アクアリウム渋谷店副店長。小林の相棒。 鈴乃木大河 すずのきたいが 麻雀アクアリウム会長。現場は引退して側近たちに任せている。 上村大地 かみむらだいち 麻雀アクアリウムの関東エリア担当スーパーバイザーにして会長側近の1人。 杜若蘭 かきつばたらん 麻雀アクアリウム上野店のチーフ。ギャルをそのまま大人にしたような女性。スタイル抜群で背も高い魅力的な上野店の主力スタッフ。

好きなんだからいいじゃない

優蘭みこ
ライト文芸
人にどう思われようが、好きなんだからしょうがないじゃんっていう食べ物、有りません?私、結構ありますよん。特にご飯とインスタント麺が好きな私が愛して止まない、人にどう思われようがどういう舌してるんだって思われようが平気な食べ物を、ぽつりぽつりとご紹介してまいりたいと思います。

いじめ?やり返すけど?

チョコキラー
恋愛
主人公の優希は転校先の金持ち校でいじめの標的にされてしまう…。が、どんなイジメをされようとも、案外平気じゃーん。と鋼のメンタル発揮!? 逆に笑顔でやり返しちゃう♡ いじめられっ子なのに…、女の子なのに…、イケメン!! そんな真っ直ぐな彼女に引かれ、いじめっ子達も少しずつ変わっていく……? 1人の少女のいじめと仕返しと恋の物語をご覧あれ!!

ターゲットは旦那様

ガイア
ライト文芸
プロの殺し屋の千草は、ターゲットの男を殺しに岐阜に向かった。 岐阜に住んでいる母親には、ちゃんとした会社で働いていると嘘をついていたが、その母親が最近病院で仲良くなった人の息子とお見合いをしてほしいという。 そのお見合い相手がまさかのターゲット。千草はターゲットの懐に入り込むためにお見合いを承諾するが、ターゲットの男はどうやらかなりの変わり者っぽくて……? 「母ちゃんを安心させるために結婚するフリしくれ」 なんでターゲットと同棲しないといけないのよ……。

これに呼び名をつけるなら

ありと
ライト文芸
何でもない毎日に投げ込まれた、折り畳まれた誰かの想い。それはイタズラか間違いか。 ・・・私に向けられた、それは何と呼べば良いのだろう。

放課後の秘密~放課後変身部の活動記録~

八星 こはく
児童書・童話
 中学二年生の望結は、真面目な委員長。でも、『真面目な委員長キャラ』な自分に少しもやもやしてしまっている。  ある日望結は、放課後に中庭で王子様みたいな男子生徒と遭遇する。しかし実は、王子様の正体は保健室登校のクラスメート・姫乃(女子)で……!?  姫乃は放課後にだけ変身する、『放課後変身部』の部員だったのだ!  変わりたい。いつもと違う自分になりたい。……だけど、急には変われない。  でも、放課後だけなら?  これは、「違う自分になってみたい」という気持ちを持った少年少女たちの物語。

藤堂正道と伊藤ほのかのおしゃべり

Keitetsu003
ライト文芸
 このお話は「風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-」の番外編です。  藤堂正道と伊藤ほのか、その他風紀委員のちょっと役に立つかもしれないトレビア、雑談が展開されます。(ときには恋愛もあり)  *小説内に書かれている内容は作者の個人的意見です。諸説あるもの、勘違いしているものがあっても、ご容赦ください。

処理中です...