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クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)
クリスマス-泣けない、泣かない。ver.-(episode:泣けない)
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「兄貴、よかったら一緒に来てくれない?」
マンションを訪れた大翔にそう告げられ、そのままついていった。
「パーティーをするなら料理も持っていくよ」
「それは助かる」
作ったはいいが、詩音に渡すことは叶わなかった料理が大量に余っている。
本当なら、一緒に食べたかった。
ただそれだけのことでさえ、今は叶えることが難しい。
そして辿り着いたのは、疎遠になっている実家だった。
そこには先客がいて、同じように驚いた表情をしている。
「説明して、大翔」
「兄貴たちが人目を忍んで会うのって難しいだろ?だったらいっそ、昼間は4人でパーティーを楽しんだ方がいいんじゃないかって思ったんだ。
...それで夜は、俺たちはここを出る。『パーティーから人が抜けてたまたまふたりきりになる』のは問題ないだろ?」
まさかそんなことを考えてくれていたとは思っていなかった。
「大翔、久遠さん。...ありがとう」
今日はもう詩音には会えないと諦めていた。
どんなに頑張っても無理だと思いこむようにしていたのは事実だ。
そう思っていないと、寂しい思いが増幅するような気がして...考えないようにしていた。
「それじゃあ、まずは4人でパーティーしようぜ。兄貴の料理の量、多すぎるけどな」
「酷いなあ、そこまでじゃないのに」
料理を置き、緊張した様子の詩音に声をかける。
「取り敢えず今はパーティーを楽しもう」
「う、うん...」
彼女はやはりどこか固くて、何に対してそれだけ緊張しているのだろうと気になって仕方がない。
「大翔、ケーキはもうちょっと等分になるように切らないと...」
「こんな感じか?」
「そうそう、ちゃんとできてる」
ふたりが話しているのを聞きながら、詩音にこそこそ話し掛ける。
「ねえ詩音。ローストビーフを切るから手伝ってもらってもいいかな?」
「これ、優翔が作ったの?」
「うん。上手くできたか自信がないんだけど...」
「優翔の料理はなんだって美味しいし、私は好きだよ」
詩音の口から時折出てくる真っ直ぐな言葉は、どんなものよりも甘い気がする。
頬に熱が集まるのを感じて、彼女から顔をそらす。
「優翔?」
「ああ、ごめん。...ちょっとにやけちゃいそうで、あんまり見られたくないんだ」
「楽しいならそれでいいと思うんだけどな...」
楽しいからにやけていると思われているらしい。
それが全くないとは言わないが...やはり時々抜けている。
「ほら、準備できたぞ」
「ふたりとも、まずは一緒に食べよう」
そんな賑やかな声に包まれて、少しだけ笑ってしまう。
いつか、こんなふうにわいわいと騒がしいくらいに楽しく食べてみたいと思っていた。
...それが今こうして現実になっている。
僕にとっては、それだけでもすごいことだ。
「...いただきます」
マンションを訪れた大翔にそう告げられ、そのままついていった。
「パーティーをするなら料理も持っていくよ」
「それは助かる」
作ったはいいが、詩音に渡すことは叶わなかった料理が大量に余っている。
本当なら、一緒に食べたかった。
ただそれだけのことでさえ、今は叶えることが難しい。
そして辿り着いたのは、疎遠になっている実家だった。
そこには先客がいて、同じように驚いた表情をしている。
「説明して、大翔」
「兄貴たちが人目を忍んで会うのって難しいだろ?だったらいっそ、昼間は4人でパーティーを楽しんだ方がいいんじゃないかって思ったんだ。
...それで夜は、俺たちはここを出る。『パーティーから人が抜けてたまたまふたりきりになる』のは問題ないだろ?」
まさかそんなことを考えてくれていたとは思っていなかった。
「大翔、久遠さん。...ありがとう」
今日はもう詩音には会えないと諦めていた。
どんなに頑張っても無理だと思いこむようにしていたのは事実だ。
そう思っていないと、寂しい思いが増幅するような気がして...考えないようにしていた。
「それじゃあ、まずは4人でパーティーしようぜ。兄貴の料理の量、多すぎるけどな」
「酷いなあ、そこまでじゃないのに」
料理を置き、緊張した様子の詩音に声をかける。
「取り敢えず今はパーティーを楽しもう」
「う、うん...」
彼女はやはりどこか固くて、何に対してそれだけ緊張しているのだろうと気になって仕方がない。
「大翔、ケーキはもうちょっと等分になるように切らないと...」
「こんな感じか?」
「そうそう、ちゃんとできてる」
ふたりが話しているのを聞きながら、詩音にこそこそ話し掛ける。
「ねえ詩音。ローストビーフを切るから手伝ってもらってもいいかな?」
「これ、優翔が作ったの?」
「うん。上手くできたか自信がないんだけど...」
「優翔の料理はなんだって美味しいし、私は好きだよ」
詩音の口から時折出てくる真っ直ぐな言葉は、どんなものよりも甘い気がする。
頬に熱が集まるのを感じて、彼女から顔をそらす。
「優翔?」
「ああ、ごめん。...ちょっとにやけちゃいそうで、あんまり見られたくないんだ」
「楽しいならそれでいいと思うんだけどな...」
楽しいからにやけていると思われているらしい。
それが全くないとは言わないが...やはり時々抜けている。
「ほら、準備できたぞ」
「ふたりとも、まずは一緒に食べよう」
そんな賑やかな声に包まれて、少しだけ笑ってしまう。
いつか、こんなふうにわいわいと騒がしいくらいに楽しく食べてみたいと思っていた。
...それが今こうして現実になっている。
僕にとっては、それだけでもすごいことだ。
「...いただきます」
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