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泣けないver.
甘い罰ゲーム 詩音side
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...どうしてこうなったんだろう。
「本当に、それでいいの?後悔しない?」
「しないよ。こんなこと、こういうときじゃないと頼めないしね。
もっと照れずに言えるとよかったんだけど...」
目の前には、ふたつのお弁当箱。
そして私の箸には、今朝作った卵焼きがおさまっていた。
「目を、閉じててほしいな...」
「分かった、そうする」
優翔から提案された罰ゲームは、新婚夫婦がやるようなことを保健室でやることだった。
「あ、あーん...」
「...わっ、すごくふわふわで美味しい」
「そ、それならよかった」
(よかった、けど)
目を開けた優翔の笑顔は眩しくて、どうしても高鳴る鼓動を抑えられない。
「次は僕がしてもいい?」
「え...」
「...大丈夫、痛くしないから」
そう言った彼の箸にはもうすでに唐揚げがおさまっていた。
ゆっくりと口を開けると、中にかりっとしたものが転がってくる。
「中、じゅわじゅわだ...」
「よかった。実は今日いつもと揚げ方を変えてたんだけど、不味かったらどうしようって思っちゃった。
...こういうの、やっぱりちょっとだけ恥ずかしいね」
彼の無垢な笑顔に私はいつも救われる。
何故か泣き出したくなってきて、ゆっくりと目を閉じた。
そのとき、唇に何か冷たいものが触れる。
「んっ、何...?」
「いい子にはご褒美をあげないと」
口の中に甘さがひろがって、頬に熱が集まるのを感じた。
「ハニーキャンディ?」
「正解。詩音、そういうの好きでしょ?...僕もだけど」
ふたりで笑いあっていると、保健室の扉がたたかれる。
(どうしよう、誰か来た...!)
震えが止まらなくなっていると、きゅっと手を握られる。
「大丈夫だよ。お弁当箱、一旦片づけておくね。それから頭まで布団を被って、寝たふりをして」
優翔はもう1度強く手を握ってくれて、それからすぐぬくもりが遠ざかっていく。
「ごめんなさい、すぐ開けます」
「先生、絆創膏ありますか?」
「傷口は洗ってきた?」
「はい」
声からすると女性だけれど、あの人たちではないらしい。
「先生、恋人はいますか?」
「います」
「...!」
少しだけ動揺して、布団が擦れる音が響いてしまった。
「え、誰か休んでるんですか?」
「うん、ぐっすり寝てる。だから、僕でよければ悩みを聞きます」
「...鋭いですね。実は私にも恋人がいるんですけど、クリスマスどう過ごすか悩んでいて...」
その子の話を優翔はきっと真剣に聞いている。
他の教師たちならそうはならないだろう。
それもあって生徒に慕われるのだろうと、恋人をますます好きになった。
「先生ならどうしますか?」
「なかなか難しい問題だね。ただ、僕ならきっと...」
「本当に、それでいいの?後悔しない?」
「しないよ。こんなこと、こういうときじゃないと頼めないしね。
もっと照れずに言えるとよかったんだけど...」
目の前には、ふたつのお弁当箱。
そして私の箸には、今朝作った卵焼きがおさまっていた。
「目を、閉じててほしいな...」
「分かった、そうする」
優翔から提案された罰ゲームは、新婚夫婦がやるようなことを保健室でやることだった。
「あ、あーん...」
「...わっ、すごくふわふわで美味しい」
「そ、それならよかった」
(よかった、けど)
目を開けた優翔の笑顔は眩しくて、どうしても高鳴る鼓動を抑えられない。
「次は僕がしてもいい?」
「え...」
「...大丈夫、痛くしないから」
そう言った彼の箸にはもうすでに唐揚げがおさまっていた。
ゆっくりと口を開けると、中にかりっとしたものが転がってくる。
「中、じゅわじゅわだ...」
「よかった。実は今日いつもと揚げ方を変えてたんだけど、不味かったらどうしようって思っちゃった。
...こういうの、やっぱりちょっとだけ恥ずかしいね」
彼の無垢な笑顔に私はいつも救われる。
何故か泣き出したくなってきて、ゆっくりと目を閉じた。
そのとき、唇に何か冷たいものが触れる。
「んっ、何...?」
「いい子にはご褒美をあげないと」
口の中に甘さがひろがって、頬に熱が集まるのを感じた。
「ハニーキャンディ?」
「正解。詩音、そういうの好きでしょ?...僕もだけど」
ふたりで笑いあっていると、保健室の扉がたたかれる。
(どうしよう、誰か来た...!)
震えが止まらなくなっていると、きゅっと手を握られる。
「大丈夫だよ。お弁当箱、一旦片づけておくね。それから頭まで布団を被って、寝たふりをして」
優翔はもう1度強く手を握ってくれて、それからすぐぬくもりが遠ざかっていく。
「ごめんなさい、すぐ開けます」
「先生、絆創膏ありますか?」
「傷口は洗ってきた?」
「はい」
声からすると女性だけれど、あの人たちではないらしい。
「先生、恋人はいますか?」
「います」
「...!」
少しだけ動揺して、布団が擦れる音が響いてしまった。
「え、誰か休んでるんですか?」
「うん、ぐっすり寝てる。だから、僕でよければ悩みを聞きます」
「...鋭いですね。実は私にも恋人がいるんですけど、クリスマスどう過ごすか悩んでいて...」
その子の話を優翔はきっと真剣に聞いている。
他の教師たちならそうはならないだろう。
それもあって生徒に慕われるのだろうと、恋人をますます好きになった。
「先生ならどうしますか?」
「なかなか難しい問題だね。ただ、僕ならきっと...」
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