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泣けないver.
ふたりきりの授業
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「この問題、どうやってやるの?」
「それにはこっちの公式をあてはめて...」
最近、家庭教師のような生活が続いているような気がする。
内心苦笑しながら詩音のノートに目をやると、その中身は衝撃的なものだった。
今はあくまで先生として褒めているが、本当はもっと近くで話がしたい。
「如月さん、かなり予習しているのね」
「...少しでも進めておきたかったんです。それに、こうやって問題を解くのは楽しいですから」
保健室にいても味方をしてくれる教師がいる。
正直、その事が詩音に対して働くものすごい大きな力であるような気がした。
「それじゃあ私は会があるからあとはお願いしますね、小野先生」
「任せてください」
僕もああいう先生になりたい。
クリスマス近くで終わってしまう実習期間のうちに、詩音の力になれることは全部しよう。
...そう自分に誓っている。
「...ねえ先生。先生はクリスマスには先生じゃなくなりますか?」
「ぎりぎりなくなります。...終業式が終わったら、僕は先生じゃないんだよ」
そう告げると、詩音は何故かとても嬉しそうに笑った。
「どうしたの、そんなに頬を緩ませて...」
保健室の内鍵を閉めて彼女にじりじりと詰め寄る。
そのまま唇が触れるほどの距離に近づくと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ごめん、言いたくなかったらいいんだ」
「恥ずかしいから、あんまり見ないで...」
本当は今すぐ抱きしめて口づけたい。
だが、それは教師としていけないことだと自制する。
「授業、続けようか。今から渡すプリントに全問正解したらいいところに連れていってあげる。
もし間違えたら、罰ゲームが待ってるからお楽しみに」
「...分かった、頑張る」
いつの間にかふたりともただの恋人に戻ってはいたものの、問題を受け取ってからの詩音はすっかり生徒に戻っていた。
さらさらと仕上げていく音が聞こえているものの、途中で何度かペンが止まっている。
「...できました」
「それじゃあ、答え合わせをします」
その紙はだんだん丸で溢れていくものの...1問だけ解けていなかった。
「ここだけだね」
「...はい」
「ここはこの公式を応用して...」
はじめは分からないから何も書かなかったのだと思っていた。
だが、よく見てみると1度書いて消した痕跡が残っている。
「これ、本当は解けてたんじゃない?」
「...な、何のことでしょう」
「嘘はいけないと思うな...」
じっと見つめていると、視線に耐えられなくなったのか詩音は正直に話しはじめた。
「ご褒美はいつももらっているから、罰ゲームを受けようと思った」
「詩音...」
なんて可愛らしい答えなのだろう。
だが、どのみち僕がやろうと思っていたことは変わらない。
「それじゃあ、罰ゲームね」
「...はい」
「罰ゲームはね...」
「それにはこっちの公式をあてはめて...」
最近、家庭教師のような生活が続いているような気がする。
内心苦笑しながら詩音のノートに目をやると、その中身は衝撃的なものだった。
今はあくまで先生として褒めているが、本当はもっと近くで話がしたい。
「如月さん、かなり予習しているのね」
「...少しでも進めておきたかったんです。それに、こうやって問題を解くのは楽しいですから」
保健室にいても味方をしてくれる教師がいる。
正直、その事が詩音に対して働くものすごい大きな力であるような気がした。
「それじゃあ私は会があるからあとはお願いしますね、小野先生」
「任せてください」
僕もああいう先生になりたい。
クリスマス近くで終わってしまう実習期間のうちに、詩音の力になれることは全部しよう。
...そう自分に誓っている。
「...ねえ先生。先生はクリスマスには先生じゃなくなりますか?」
「ぎりぎりなくなります。...終業式が終わったら、僕は先生じゃないんだよ」
そう告げると、詩音は何故かとても嬉しそうに笑った。
「どうしたの、そんなに頬を緩ませて...」
保健室の内鍵を閉めて彼女にじりじりと詰め寄る。
そのまま唇が触れるほどの距離に近づくと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ごめん、言いたくなかったらいいんだ」
「恥ずかしいから、あんまり見ないで...」
本当は今すぐ抱きしめて口づけたい。
だが、それは教師としていけないことだと自制する。
「授業、続けようか。今から渡すプリントに全問正解したらいいところに連れていってあげる。
もし間違えたら、罰ゲームが待ってるからお楽しみに」
「...分かった、頑張る」
いつの間にかふたりともただの恋人に戻ってはいたものの、問題を受け取ってからの詩音はすっかり生徒に戻っていた。
さらさらと仕上げていく音が聞こえているものの、途中で何度かペンが止まっている。
「...できました」
「それじゃあ、答え合わせをします」
その紙はだんだん丸で溢れていくものの...1問だけ解けていなかった。
「ここだけだね」
「...はい」
「ここはこの公式を応用して...」
はじめは分からないから何も書かなかったのだと思っていた。
だが、よく見てみると1度書いて消した痕跡が残っている。
「これ、本当は解けてたんじゃない?」
「...な、何のことでしょう」
「嘘はいけないと思うな...」
じっと見つめていると、視線に耐えられなくなったのか詩音は正直に話しはじめた。
「ご褒美はいつももらっているから、罰ゲームを受けようと思った」
「詩音...」
なんて可愛らしい答えなのだろう。
だが、どのみち僕がやろうと思っていたことは変わらない。
「それじゃあ、罰ゲームね」
「...はい」
「罰ゲームはね...」
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