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泣かないver.
早めの登校で見られるもの
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「おはようございます」
「あら、大翔君」
今朝は早いのね、なんて言いながら笑うお母さんの表情はとても柔らかいものだった。
久遠はきっと、この人に心配をかけないようにしているのだろう。
「おはよう」
「おはよう。それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
彼女は家族にも気を遣っているのだろうか。
その態度には俺も少し見に覚えがあった。
『なんであんたは優秀じゃないの!?』
...もうすぐだ。もうすぐあの場所から出られる。
「大翔?どうかしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっとだけ寄り道していかないか?」
「すごく楽しそう...!どこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
ふたりでそんな話をしながら道なりに進むと、目の前に朝陽がさしこむ。
この場所がいい眺めだということを、俺はよく知っていた。
バイトで早いときや独りになりたいとき、度々訪れているから。
「すごく綺麗だね...なんて普通のことしか言えないんだけど、本当に綺麗」
「俺のとっておきのうちのひとつ。気に入ってもらえたならよかった」
こうして隣を歩いて手を繋いで...大袈裟だと言われてしまいそうだが、そんな関係になれる相手が現れるとは思っていなかった。
俺は一生駄目なんだと言い聞かせていたのに、いつだって久遠が世界を彩づけてくれるのだ。
ありがとうなんて恥ずかしくて言えないが、本当はとても感謝している。
「よし、そろそろ駅に行って電車に乗るか」
「うん」
そうして辿り着いた学校からの景色もまた別の美しさがあった。
「教室が輝いて見える...幻想的だね」
「人がいない校舎って不思議だろ?いつもあんなにわいわいしてるのに、今ここには俺たちしかいない」
「そう考えると、この景色はとても贅沢なものだね」
「...そうだな」
以前独りで立ち尽くしていた日とは見え方が違う。
あのときより更に輝きを増し、全てを包みこんでくれそうなほど眩しい。
それに、なんだか胸が温かくなっていくのを感じる。
独りよりふたり、よくそういう言葉が出てくるがそのとおりらしい。
「先生はまだ来てないの?」
「この時間帯なら通信制用職員室にいるけど、ここまでは来ない」
「そうなんだ...」
「ちょっとだけこっち来て」
首を傾げている久遠にそっと口づける。
「...!」
「今日1日頑張る為のパワーをもらった。誰も見てないし大丈夫だろ」
「そういうことじゃなくて、こういう場所では恥ずかしいというか、その...嬉しくてにやけちゃうよ」
「別にいいだろ。...可愛いんだから」
小さく付け加えたつもりだったのに、ばっちり久遠の耳に届いていたらしい。
真っ赤になった彼女の唇にもう1度だけキスをする。
朝陽だけに見守られながら、どんなことも頑張ってみようと誓ったのだった。
「あら、大翔君」
今朝は早いのね、なんて言いながら笑うお母さんの表情はとても柔らかいものだった。
久遠はきっと、この人に心配をかけないようにしているのだろう。
「おはよう」
「おはよう。それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
彼女は家族にも気を遣っているのだろうか。
その態度には俺も少し見に覚えがあった。
『なんであんたは優秀じゃないの!?』
...もうすぐだ。もうすぐあの場所から出られる。
「大翔?どうかしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっとだけ寄り道していかないか?」
「すごく楽しそう...!どこに行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
ふたりでそんな話をしながら道なりに進むと、目の前に朝陽がさしこむ。
この場所がいい眺めだということを、俺はよく知っていた。
バイトで早いときや独りになりたいとき、度々訪れているから。
「すごく綺麗だね...なんて普通のことしか言えないんだけど、本当に綺麗」
「俺のとっておきのうちのひとつ。気に入ってもらえたならよかった」
こうして隣を歩いて手を繋いで...大袈裟だと言われてしまいそうだが、そんな関係になれる相手が現れるとは思っていなかった。
俺は一生駄目なんだと言い聞かせていたのに、いつだって久遠が世界を彩づけてくれるのだ。
ありがとうなんて恥ずかしくて言えないが、本当はとても感謝している。
「よし、そろそろ駅に行って電車に乗るか」
「うん」
そうして辿り着いた学校からの景色もまた別の美しさがあった。
「教室が輝いて見える...幻想的だね」
「人がいない校舎って不思議だろ?いつもあんなにわいわいしてるのに、今ここには俺たちしかいない」
「そう考えると、この景色はとても贅沢なものだね」
「...そうだな」
以前独りで立ち尽くしていた日とは見え方が違う。
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それに、なんだか胸が温かくなっていくのを感じる。
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「先生はまだ来てないの?」
「この時間帯なら通信制用職員室にいるけど、ここまでは来ない」
「そうなんだ...」
「ちょっとだけこっち来て」
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「...!」
「今日1日頑張る為のパワーをもらった。誰も見てないし大丈夫だろ」
「そういうことじゃなくて、こういう場所では恥ずかしいというか、その...嬉しくてにやけちゃうよ」
「別にいいだろ。...可愛いんだから」
小さく付け加えたつもりだったのに、ばっちり久遠の耳に届いていたらしい。
真っ赤になった彼女の唇にもう1度だけキスをする。
朝陽だけに見守られながら、どんなことも頑張ってみようと誓ったのだった。
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