77 / 156
泣かないver.
人への恐怖心 久遠side
しおりを挟む
私は今、人混みの中で苦戦している。
少しでも気を抜くと大変なことになるからだ。
実は先日詩音がマスクをしていた理由も、何となくは理解できている。
人が多い場所では酔ってしまいそうになるのもよく分かるのだ。
もしかすると詩音も同じなのだろうか。
(あ、まずい)
そう思ったときには遅かった。
「ねえ、あれってさあ...」「この前、ヤザワさんのお宅が...」「パパ、こっちこっち!」
沢山の音が聴こえて気分が悪い。
私は俗にいうHSPというものだ。
病院からも診断のようなものはおりているけれど、病ではなく個性という扱いなので治療とかいう問題ではないらしい。
(もう逃げたい。お願い、誰か...)
その場で動けずに踞りかけていると、聞き慣れた声がした。
「久遠?」
「あ、大翔...?」
大翔はすぐに状況を察知したのか、私の体をそっと支えてくれる。
「大丈夫だ、俺がついてる。こっちに座れる場所があるから休もう」
「ごめん...」
「気にしなくていい。1人で座っていられそう?」
私は小さく首を横にふることしかできなかった。
本当は縦にふるべきだったのだろうけれど、どうしても今は1人にしないでほしいと思ってしまったのだ。
私は1人の時間が好きだけれど、今の状況ではそれで過ごせる自信がない。
「しばらく休んでいようか」
「それじゃあ、大翔の迷惑に...」
「俺はそんなこと思わない。困っている人がいたら手を差し伸べるのは当たり前だろ?」
目の前の笑顔から嘘は微塵も感じられない。
この温かい感触が私にとってはとても安心するものだ。
「今日は休みでぶらぶらしてただけだし、時間のことなんか気にしなくていい。
そんなに自分を責めなくていいんだよ」
「大翔...」
大翔にはHSPということを話したけれど、次に会うときにはもう沢山の情報を調べてくれていた。
こんなにもいい人を私は他に知らない。
私といて気疲れしないのかと訊いても、全然といつも即答してくれる。
そういう優しさを持っている人なんて、世界中を探してもそんなにはいないだろう。
「大翔」
「さっきより顔色よさそうだな。...これから家に来ない?」
「いいの?」
「今日も誰もいないはずだし、独りだとやることがないから。それに...食材を買いすぎたんだ」
私が気を遣わないように言ってくれていることはすぐに察したけれど、前者も嘘ではないことは分かっているつもりだ。
「それじゃあ、お邪魔してもいいかな?」
「勿論どうぞ」
「ありがとう」
「俺もふたりで過ごしたかったから」
自分の買い物ができる状況ではないので、そのまま手を繋いで外に出る。
その指先からもぬくもりが感じられた。
少しでも気を抜くと大変なことになるからだ。
実は先日詩音がマスクをしていた理由も、何となくは理解できている。
人が多い場所では酔ってしまいそうになるのもよく分かるのだ。
もしかすると詩音も同じなのだろうか。
(あ、まずい)
そう思ったときには遅かった。
「ねえ、あれってさあ...」「この前、ヤザワさんのお宅が...」「パパ、こっちこっち!」
沢山の音が聴こえて気分が悪い。
私は俗にいうHSPというものだ。
病院からも診断のようなものはおりているけれど、病ではなく個性という扱いなので治療とかいう問題ではないらしい。
(もう逃げたい。お願い、誰か...)
その場で動けずに踞りかけていると、聞き慣れた声がした。
「久遠?」
「あ、大翔...?」
大翔はすぐに状況を察知したのか、私の体をそっと支えてくれる。
「大丈夫だ、俺がついてる。こっちに座れる場所があるから休もう」
「ごめん...」
「気にしなくていい。1人で座っていられそう?」
私は小さく首を横にふることしかできなかった。
本当は縦にふるべきだったのだろうけれど、どうしても今は1人にしないでほしいと思ってしまったのだ。
私は1人の時間が好きだけれど、今の状況ではそれで過ごせる自信がない。
「しばらく休んでいようか」
「それじゃあ、大翔の迷惑に...」
「俺はそんなこと思わない。困っている人がいたら手を差し伸べるのは当たり前だろ?」
目の前の笑顔から嘘は微塵も感じられない。
この温かい感触が私にとってはとても安心するものだ。
「今日は休みでぶらぶらしてただけだし、時間のことなんか気にしなくていい。
そんなに自分を責めなくていいんだよ」
「大翔...」
大翔にはHSPということを話したけれど、次に会うときにはもう沢山の情報を調べてくれていた。
こんなにもいい人を私は他に知らない。
私といて気疲れしないのかと訊いても、全然といつも即答してくれる。
そういう優しさを持っている人なんて、世界中を探してもそんなにはいないだろう。
「大翔」
「さっきより顔色よさそうだな。...これから家に来ない?」
「いいの?」
「今日も誰もいないはずだし、独りだとやることがないから。それに...食材を買いすぎたんだ」
私が気を遣わないように言ってくれていることはすぐに察したけれど、前者も嘘ではないことは分かっているつもりだ。
「それじゃあ、お邪魔してもいいかな?」
「勿論どうぞ」
「ありがとう」
「俺もふたりで過ごしたかったから」
自分の買い物ができる状況ではないので、そのまま手を繋いで外に出る。
その指先からもぬくもりが感じられた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の主治医さん
鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。
【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】
※小説家になろう、カクヨムでも公開中※
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※
ハーフ&ハーフ
黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。
そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。
「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」
...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。
これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。

UNNAMED
筆名
ライト文芸
「——彼女は、この紛い物のみたいな僕の人生に現れた、たった一つの光なんです!——」
「——君はね、私にはなーんの影響も及ぼさない。でも、そこが君の良さだよ!——」
自身への影響を第一に考える二人が出会ったのは、まるで絵に書いたような理想のパートナーだった。
紛い物の日々と作り物の事実を求めて、二人の関係は発展してゆく——
これはtrueENDを目指す、世にありふれた物語。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる