泣けない、泣かない。

黒蝶

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クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)

教えてください、先生。-詩音×久遠-

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こうして出掛けるのはどのくらいぶりだろう。
ショッピングモールの中は、やっぱり人でごった返している。
(用事を済ませたらすぐ帰ろう)
人が多い場所は相変わらず苦手だ。
ただ、今日はどうしても頑張って出掛けたかった。
どうしてもそうする必要があったのだ。
自分の奮い立たせながらお店を見て回っていると、なんだか具合が悪そうな人を見つけた。
「あれ、詩音?」
「久遠...」
なんだか疲れているように見えて声をかけてみたけれど、やっぱりふらふらしているように思う。
「こっちで休もう」
「でも、久遠の用事が、」
「私は何かを決めてここに来た訳じゃないから、気にする必要なんかないんだよ」
「...ごめんなさい」
マスク姿の詩音は座った途端に俯いて、すっかり黙りこんでしまった。
「大丈夫だよ」
「でも、予定が...」
「今日は本当に何もないんだ。ただクリスマスが近いから、小さいツリーとかないかなって思っただけで、」
「ツリー...私も買おうかな」
「本当?ミニチュアのとかスノードームとか、そういうのでいいんだけど...」
自分用のも探すけれど、それより大翔に何を渡すかで迷っている。
「優翔に何をあげようか考えていたんだけど、なんとなく決まりそう」
「そうだったんだ...。ねえ、よかったら一緒にお店を見てみない?」
「久遠がいいなら」
「じゃあ決まり!」
このままふらふらの詩音を1人にしておくのは心配だった。
この際、足りなくなってきたものをすべて買ってしまおう。
「...久遠」
「どうしたの?」
「私、どんなものを贈ればいいのか分からない...」
「私もちょっと考え中」
相手がほしいものを想像するというのは結構大変だ。
それに、普段使えるもの渡すべきかかなり迷ってしまう。
「久遠のおすすめは?」
「詩音があげたいもの」
「...そうだね」
ふたりでそんな会話を続けながら歩いていく。
やがて端の方に辿り着くと、そこは立派な雑貨屋さんだった。
「ここで探そうか」
「うん」
中で何度もあれはこれはと見せあって、なんとか決めることができた。
「ねえ、詩音。もしよかったらだけど一緒に何か食べない?
あっちの角にクレープ屋さんのコーナーができたらしいんだ」
「行きたい...!でも私、食べたことがない」
真面目な詩音が微笑ましくて少しだけ笑ってしまった。
彼女は少しだけ照れくさそうにしながら笑いかえしてくれる。
大翔以外の誰かとご飯を食べるのは久しぶりな気がして、わくわくして頬が緩むのを抑えられない。
詩音の好みを聞かせてもらいながら、師走の訪れが少しだけ楽しみになった。
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