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泣けないver.
澄みわたる碧
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「おはよう」
「優翔、私...」
「ご飯作ったから、食べながら話そうか」
「うん」
あれから少し話をしているうちに、詩音は安心した様子で眠った。
その間に僕は在学中の大学から言われた作業を終わらせ、そのまま自室に戻って休んだのだ。
ただ、詩音はいつ僕が部屋を出たのかなんて知らないだろう。
もしかすると、一晩中一緒にいさせて迷惑をかけたと思っているのかもしれない。
「ごめんなさい、私...」
「詩音、僕は君が寝た後で部屋に戻ったんだ。作業するのに音がしたら、煩くて起こしちゃいそうだったから。
だから、そんなに申し訳なさそうな顔をすることないんだよ」
「ありがとう。やっぱり優翔は優しいね...」
「僕にとって当たり前のことをしているだけだよ」
こうしてふたり並んで食事をするのは、なんだか久しぶりのような気がする。
僕が詩音の学校に教育実習に向かうまでは、休日にのんびりこのマンションで過ごすことはあった。
寧ろそんな日が多かったような気がする。
だが、最近は人に見つからないようにしなければならないという意識の方が強い。
僕もそうだが、詩音も気をつけてくれているのが手に取るように分かるので申し訳なく思う。
「詩音、周りに気づかれないようにしてくれるのはすごくありがたいんだけど...溜めこまずにもっと来てほしいな」
「でも、もし見つかったら優翔と離ればなれになっちゃうんじゃないかって...。
そう思うと、怖くてなかなか来られない」
やはりそうだ。
自分より人の為に動く...尊敬できる部分だが、それで詩音が傷ついてしまうのは放っておけない。
「確かに、これはいけないことだと思う。端から見れば『生徒を連れこむ教師(仮)』なんだろうなって...。
でも、その前に僕たちは恋人だって証明できるものは沢山持ってるよ」
「...?どういうこと?」
1冊のアルバムを取り出し、それを詩音に渡した。
「確かにこれなら証明になるかもしれない」
そこにあるのは、僕たちが写るものばかり...どれにも日付が刻まれている。
手書きでは証明困難だが、きちんと入っていれば証拠になるはずだ。
「それに、たとえ証明にならなくてもいいんだ。誰に何を言われようと、僕は七海のことが好きだから。
...嫌われちゃうまでは離してあげられそうにない」
「私は嫌いになったりしないよ。...お互い、一生ものの恋なのかもしれないね」
「そうだね。そうだといいな...」
ふたりで食べるご飯は、こんなにも温かい。
空はいつの間にか晴れていて、大きな虹がかかっている。
ふたりの未来もきっと明るいのだと、そんな話をしながら笑いあった。
「優翔、私...」
「ご飯作ったから、食べながら話そうか」
「うん」
あれから少し話をしているうちに、詩音は安心した様子で眠った。
その間に僕は在学中の大学から言われた作業を終わらせ、そのまま自室に戻って休んだのだ。
ただ、詩音はいつ僕が部屋を出たのかなんて知らないだろう。
もしかすると、一晩中一緒にいさせて迷惑をかけたと思っているのかもしれない。
「ごめんなさい、私...」
「詩音、僕は君が寝た後で部屋に戻ったんだ。作業するのに音がしたら、煩くて起こしちゃいそうだったから。
だから、そんなに申し訳なさそうな顔をすることないんだよ」
「ありがとう。やっぱり優翔は優しいね...」
「僕にとって当たり前のことをしているだけだよ」
こうしてふたり並んで食事をするのは、なんだか久しぶりのような気がする。
僕が詩音の学校に教育実習に向かうまでは、休日にのんびりこのマンションで過ごすことはあった。
寧ろそんな日が多かったような気がする。
だが、最近は人に見つからないようにしなければならないという意識の方が強い。
僕もそうだが、詩音も気をつけてくれているのが手に取るように分かるので申し訳なく思う。
「詩音、周りに気づかれないようにしてくれるのはすごくありがたいんだけど...溜めこまずにもっと来てほしいな」
「でも、もし見つかったら優翔と離ればなれになっちゃうんじゃないかって...。
そう思うと、怖くてなかなか来られない」
やはりそうだ。
自分より人の為に動く...尊敬できる部分だが、それで詩音が傷ついてしまうのは放っておけない。
「確かに、これはいけないことだと思う。端から見れば『生徒を連れこむ教師(仮)』なんだろうなって...。
でも、その前に僕たちは恋人だって証明できるものは沢山持ってるよ」
「...?どういうこと?」
1冊のアルバムを取り出し、それを詩音に渡した。
「確かにこれなら証明になるかもしれない」
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「それに、たとえ証明にならなくてもいいんだ。誰に何を言われようと、僕は七海のことが好きだから。
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「そうだね。そうだといいな...」
ふたりで食べるご飯は、こんなにも温かい。
空はいつの間にか晴れていて、大きな虹がかかっている。
ふたりの未来もきっと明るいのだと、そんな話をしながら笑いあった。
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