14 / 156
泣けないver.
空に差す、一筋の光
しおりを挟む
「...ごめんなさい。ここに来たら迷惑になるって分かっていたのに、結局居場所がなくて...」
詩音は自分に言い聞かせるように小さく告げる。
「気にしないで。頼ってもらえて本当に嬉しかったから。
ただ、今の関係だと隠れて会わないといけないのが辛いけどね」
「...うん」
「でも、だからといって来ないでなんて言うつもりは微塵もないから」
「...ありがとう」
時刻はもう夜の10時、1人で帰らせるのは危ない。
送っていこうかと思っていたそのとき、きゅっと袖を掴まれた。
「詩音?」
「今夜、泊まったら駄目...?」
本当なら断らないといけない。
いくら仮でも、今の僕は詩音の学校の教師なのだから。
だが、もし今ここで断ったら...彼女はどこに向かうのだろうか。
家に帰っても仕方ないからと、以前から何度もネットカフェで見たことがある。
恋人同士になってからは時々ここに泊めて、ごくたまに家まで送るというのを繰り返していた。
「...分かった、いいよ。明日は休みだしね。それに...そんなにぼろぼろになってる詩音に、帰れなんて言えないよ」
「ごめんなさい...」
「これも僕がやりたくてやることだから、君が謝る必要はどこにもないんだよ」
腕の中に閉じこめたまま、いつも貸している部屋のベッドまで誘導する。
「もう遅いから、そのまま横になって。この部屋を最後に掃除したのは一昨日だから、そこまで汚れてないはずだよ。
それじゃあ僕は自室にいるから、何かあったら声をかけて」
出ていこうとすると、後ろから抱きしめられる。
驚いたものの、何を言われるのかは大体予想がついていた。
「お願い、独りにしないで...」
彼女は過去の経験から、1人でいることが苦手だ。
特に、夜はなかなか眠れなくなるらしい。
「ごめん、そうだったね。...手、繋いでいようか」
「いいの?」
「勿論だよ。大丈夫、君が眠るまでちゃんと隣にいるから」
「子どもみたいで、ごめんなさい...」
「気にしないで。誰だって、不安に思うことはあるはずだから」
やがて詩音が目を閉じ、すやすやと寝息をたてはじめる。
僕も目を閉じてみると、少し懐かしい光景が浮かんだ。
『大翔、一緒に寝よう』
『たまにはいいよな、こうやってふたりで話しながら寝るの』
僕につきあってくれているのだと思っていたら、意外と大翔も寂しがり屋で...二人で眺める天井は、いつも違う色のような気がしていた。
「...よし」
僕にはまだやらなければならないことがある。
恋人としてできることは、こうして側にいること。
そして、教師(仮)としてできること、それは...。
絶対に護る。僕より小さな手にそう誓って、そっと部屋を後にした。
詩音は自分に言い聞かせるように小さく告げる。
「気にしないで。頼ってもらえて本当に嬉しかったから。
ただ、今の関係だと隠れて会わないといけないのが辛いけどね」
「...うん」
「でも、だからといって来ないでなんて言うつもりは微塵もないから」
「...ありがとう」
時刻はもう夜の10時、1人で帰らせるのは危ない。
送っていこうかと思っていたそのとき、きゅっと袖を掴まれた。
「詩音?」
「今夜、泊まったら駄目...?」
本当なら断らないといけない。
いくら仮でも、今の僕は詩音の学校の教師なのだから。
だが、もし今ここで断ったら...彼女はどこに向かうのだろうか。
家に帰っても仕方ないからと、以前から何度もネットカフェで見たことがある。
恋人同士になってからは時々ここに泊めて、ごくたまに家まで送るというのを繰り返していた。
「...分かった、いいよ。明日は休みだしね。それに...そんなにぼろぼろになってる詩音に、帰れなんて言えないよ」
「ごめんなさい...」
「これも僕がやりたくてやることだから、君が謝る必要はどこにもないんだよ」
腕の中に閉じこめたまま、いつも貸している部屋のベッドまで誘導する。
「もう遅いから、そのまま横になって。この部屋を最後に掃除したのは一昨日だから、そこまで汚れてないはずだよ。
それじゃあ僕は自室にいるから、何かあったら声をかけて」
出ていこうとすると、後ろから抱きしめられる。
驚いたものの、何を言われるのかは大体予想がついていた。
「お願い、独りにしないで...」
彼女は過去の経験から、1人でいることが苦手だ。
特に、夜はなかなか眠れなくなるらしい。
「ごめん、そうだったね。...手、繋いでいようか」
「いいの?」
「勿論だよ。大丈夫、君が眠るまでちゃんと隣にいるから」
「子どもみたいで、ごめんなさい...」
「気にしないで。誰だって、不安に思うことはあるはずだから」
やがて詩音が目を閉じ、すやすやと寝息をたてはじめる。
僕も目を閉じてみると、少し懐かしい光景が浮かんだ。
『大翔、一緒に寝よう』
『たまにはいいよな、こうやってふたりで話しながら寝るの』
僕につきあってくれているのだと思っていたら、意外と大翔も寂しがり屋で...二人で眺める天井は、いつも違う色のような気がしていた。
「...よし」
僕にはまだやらなければならないことがある。
恋人としてできることは、こうして側にいること。
そして、教師(仮)としてできること、それは...。
絶対に護る。僕より小さな手にそう誓って、そっと部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
むこう側から越える者
akaoni_liquid
ライト文芸
ある日自宅におかしな手紙が届く。
そこにはこんな風に書かれていた『あなたの命は危険な状態。放っておいたら死に至る』
※ホラーちっくな導入ですがホラーではないです。
ある日、家に帰ったら。
詠月日和
ライト文芸
「……不法侵入だ」
「わいが言うのもなんやけど、自分、ずれてるって言われん?」
ぽてりと重たそうなまあるい頭につぶらな瞳。
ある日家に帰ったら、ぬいぐるみみたいな『ペンギン』に出迎えられた。
ぺたぺたと足音を立てながら家中を歩き回る。よく食べてよく寝て、私が出掛けている間にテレビを夢中で見ては電気代を底上げする。
20歳をきっかけに一人暮らしを始めたはずの私の生活に、この意味のわからない生き物は現れた。
世界を救うわけでもなく、異世界に迷い込むわけでもなく、特別な使命を課せられたわけでもなく、未知の生物とただ同居してるだけの毎日。
特に何があるわけでもないけれど、話し相手がいるだけで毎日が少しだけ生きやすい気がする。
間違いなく不思議で、でも確かに生活に溶け込んだ今の私の日常について。
【完結】改稿版 ベビー・アレルギー
キツナ月。
ライト文芸
2023/01/02
ランキング1位いただきました🙌
感謝!!
生まれたての命に恐怖する私は、人間失格ですか。
ーーー
ある日。
悩める女性の元へ、不思議なメモを携えたベビーがやって来る。
【この子を預かってください。
三ヶ月後、あなたに審判が下されます】
このベビー、何者。
そして、お隣さんとの恋の行方は──。
アラサー女子と高飛車ベビーが織りなすドタバタ泣き笑いライフ!
ターゲットは旦那様
ガイア
ライト文芸
プロの殺し屋の千草は、ターゲットの男を殺しに岐阜に向かった。
岐阜に住んでいる母親には、ちゃんとした会社で働いていると嘘をついていたが、その母親が最近病院で仲良くなった人の息子とお見合いをしてほしいという。
そのお見合い相手がまさかのターゲット。千草はターゲットの懐に入り込むためにお見合いを承諾するが、ターゲットの男はどうやらかなりの変わり者っぽくて……?
「母ちゃんを安心させるために結婚するフリしくれ」
なんでターゲットと同棲しないといけないのよ……。
薄皮ヨモギの暗中模索
渋谷かな
ライト文芸
悩み事のない人間なんていない。特に思春期の若者であれば、答えも分からずに悩み続ける。自分の悩みは他人に言うこともできず、他人に理解してもらうこともできないと、小さな悩みも大きな悩みにしてしまう。悩み、悩み、悩み事に押しつぶされそうな青春を送る10代の悩みを、幼少期に物心ついた頃から悩み事と共に生きてきた悩み事の申し子、薄皮ヨモギが一緒に悩んでくれるというお話である。おまけに運が良いと悩み事を解決してもらえる・・・らしい。
カクヨム・なろう・アルファ転載
1話1200字前後
WIKI貼り付けなし。
好きなんだからいいじゃない
優蘭みこ
ライト文芸
人にどう思われようが、好きなんだからしょうがないじゃんっていう食べ物、有りません?私、結構ありますよん。特にご飯とインスタント麺が好きな私が愛して止まない、人にどう思われようがどういう舌してるんだって思われようが平気な食べ物を、ぽつりぽつりとご紹介してまいりたいと思います。
花は咲く
柊 仁
ライト文芸
友達ができずなかなか自分を上手く出せない少年、小鳥遊璃都は父の仕事の都合で転校が多かった。
あちらこちらと転校を繰り返していくなかで璃都は人間関係、独特の"空気''にわだかまりを覚え始める。
そんな悩みに耐え切れないまま小学校を卒業し、ついには自分自身を見失っていた。
そんな時、父からまたもや引っ越しが告げられ、岩手県九戸村の祖母の家に住むことに。
そこで出会ったのは九戸の壮大な自然と、ある一人の少女だったーー。
本物の友達とは何か。生きるとは何か。
これは自分を捨てた主人公小鳥遊璃都の成長を紡ぐ、エッセイヒューマンドラマである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる