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クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)
兄貴のいいところ-大翔×詩音-
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「...ん?」
見知った道...兄貴のアパートまでの細道を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目にはいる。
「彼女さん?」
「え、あ、こんにちは...」
彼女さんはおどおどした様子でじっと俺の方を見つめている。
「もしかしなくても、兄貴を待ってる?」
「そうなんだけど、その...あんまりここにいたら迷惑になるかなって」
そうだった。彼女さんと兄貴の今の関係は、教育実習の先生とその学校の生徒になってしまっている。
「もし嫌じゃなければだけど、近くのファミレスで話さない?
俺も兄貴に用があったんだけど、彼女さんの方が優先だし...それに、兄貴はきっと喜ぶと思う」
すぐ近くのファミレスで、彼女さんは遠慮がちに告げた。
「あの、彼女さんではなく名前で呼んでほしい...です」
「どうしてそこだけ敬語?分かった、なら詩音さんって呼ばせて」
「それじゃあ、大翔君...?」
「うん、それでいい」
笑いあって、そのまま話を続ける。
兄貴のどんなところが好きになったのか、なんて訊けないのでそれに近い質問をしてみることにした。
「詩音さんが思う兄貴のいいところは?」
「沢山あるけれど、やっぱり優しいところかな。相手のことをよく見ているし、すごいなって思うんだ」
「なんかそれ、分かる。吃驚するくらい人のこと見てるよね」
詩音さんはいつも緊張しているような気がして、できるだけリラックスしてもらおうとそう答える。
実際、兄貴の観察眼は鋭い。
どうしてそこまで分かったのかとつっこみたくなるほど、周りのことを把握している。
...それはきっと、他の人間ではできないことだ。
「大翔君から見た優翔はどんな人?」
「優秀すぎる自慢の兄貴、かな。ちょっと言葉で表現するのは難しい」
ふたりで温かい飲み物を口にしながら、そんな話をする。
兄貴は昔から優しくてかっこよくて、俺にとってはヒーローのような存在だったのだと。
「ただ、ちょっと心配なところもある」
「心配なところ?」
「兄貴にも色々あったけど、人のことを疑わずに真っ直ぐ生きているから...騙されて傷つくことがないか不安になる」
「大翔君はお兄さんのことが本当に大切なんだね」
「普段はあんまり言えないけど、一応感謝もしてる」
彼女なら、兄貴のことを傷つけないでいてくれるかもしれない。
ただの直感だがそんな気がした。
「兄貴は時々抜けてるところもあるけど、どうかこれからもお願いします」
「え、あ、はい...!」
時計に目をやると、そろそろ帰っているであろう頃だった。
「これ飲んだら出よう。あと、恥ずかしいからさっきの話は内緒」
「うん」
茜色の空を見上げながら、そんなに長くない道を歩く。
影がゆらゆらと揺れていて、これから兄貴に会えることを喜んでいるようだった。
見知った道...兄貴のアパートまでの細道を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目にはいる。
「彼女さん?」
「え、あ、こんにちは...」
彼女さんはおどおどした様子でじっと俺の方を見つめている。
「もしかしなくても、兄貴を待ってる?」
「そうなんだけど、その...あんまりここにいたら迷惑になるかなって」
そうだった。彼女さんと兄貴の今の関係は、教育実習の先生とその学校の生徒になってしまっている。
「もし嫌じゃなければだけど、近くのファミレスで話さない?
俺も兄貴に用があったんだけど、彼女さんの方が優先だし...それに、兄貴はきっと喜ぶと思う」
すぐ近くのファミレスで、彼女さんは遠慮がちに告げた。
「あの、彼女さんではなく名前で呼んでほしい...です」
「どうしてそこだけ敬語?分かった、なら詩音さんって呼ばせて」
「それじゃあ、大翔君...?」
「うん、それでいい」
笑いあって、そのまま話を続ける。
兄貴のどんなところが好きになったのか、なんて訊けないのでそれに近い質問をしてみることにした。
「詩音さんが思う兄貴のいいところは?」
「沢山あるけれど、やっぱり優しいところかな。相手のことをよく見ているし、すごいなって思うんだ」
「なんかそれ、分かる。吃驚するくらい人のこと見てるよね」
詩音さんはいつも緊張しているような気がして、できるだけリラックスしてもらおうとそう答える。
実際、兄貴の観察眼は鋭い。
どうしてそこまで分かったのかとつっこみたくなるほど、周りのことを把握している。
...それはきっと、他の人間ではできないことだ。
「大翔君から見た優翔はどんな人?」
「優秀すぎる自慢の兄貴、かな。ちょっと言葉で表現するのは難しい」
ふたりで温かい飲み物を口にしながら、そんな話をする。
兄貴は昔から優しくてかっこよくて、俺にとってはヒーローのような存在だったのだと。
「ただ、ちょっと心配なところもある」
「心配なところ?」
「兄貴にも色々あったけど、人のことを疑わずに真っ直ぐ生きているから...騙されて傷つくことがないか不安になる」
「大翔君はお兄さんのことが本当に大切なんだね」
「普段はあんまり言えないけど、一応感謝もしてる」
彼女なら、兄貴のことを傷つけないでいてくれるかもしれない。
ただの直感だがそんな気がした。
「兄貴は時々抜けてるところもあるけど、どうかこれからもお願いします」
「え、あ、はい...!」
時計に目をやると、そろそろ帰っているであろう頃だった。
「これ飲んだら出よう。あと、恥ずかしいからさっきの話は内緒」
「うん」
茜色の空を見上げながら、そんなに長くない道を歩く。
影がゆらゆらと揺れていて、これから兄貴に会えることを喜んでいるようだった。
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