泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣かないver.

当日・自由行動 大翔side

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「この店に入ってみよう」
「うん」
食事を終えた後の予定はばっちりだった。
久遠に楽しんでほしい...その思いで彼女が休んでいる間にこっそり兄貴と連絡をとったのだ。
《それなら、可愛いテディベアのお店があるはずだよ。
大翔はあんまり好みじゃないかもしれないけど、久遠さんは喜んでくれるんじゃないかな?》
礼と土産を買って帰ると返信して、それからは一切見ないようにしている。
画面を見つめるより、久遠と目を合わせて話をした方がいい。
「兄貴にお土産買いたいから、どうしてもここには入りたい」
「それじゃあ、私も詩音に何か渡そうかな...」
ふたりでお土産を選んで、それから兄貴おすすめの店に並んで踏みいる。
「可愛らしいカップルのお客さん、ゆっくりしていってね」
「か、かか、」
「ありがとうございます」
緊張して話せなくなっている久遠の隣で堂々と答える。
本当は少し照れくさかったが、ふたりとも固まってしまっては折角話しかけてくれた店主に悪いと思うと...自然にそういった反応が出ていた。
「私たち、ちゃんとそういうふうに見えるんだね」
「...俺もちょっとだけ吃驚した」
目の前には沢山のぬいぐるみたちが並んでいて、久遠はとても嬉しそうに店内を見て回っている。
「この子可愛い...」
それは茶色いテディベアで、リボンを首に巻かれたものだった。
「...その子貸して」
「ん?うん...」
レジに向かって突進し、会計を済ませる。
「大翔、それは流石に申し訳ないよ」
「...俺がバイトで会えないとき、俺だと思って持っててほしい」
俺はこんなに可愛くないけど、なんて付け加えて紙袋を差し出す。
「ありがとう。それじゃあ...」
久遠はそう言うとレジで何かを買って、俺に渡してくれた。
「これって...手ぬぐい?」
「あんまり高くないけど、大翔に持っててほしいな」
きっと、男でも持ち歩けるようにと考えてくれたのだろう。
ありがたく受け取って鞄にしまった。
その店をメインに他の場所も回ったりして...時刻は午後2時。
「まずい、集合時間30分前だ」
「もうそんなに時間がたってたんだ...」
バスに転がりこむようにして乗りこみ、ふたりで隣り合わせに座る。
この後もバスで帰るのに...そう思ったが、確実に間に合わせる為にはこうするしかない。
「楽しめた?」
「大翔がいてくれたからすごく楽しかったよ。...ありがとう」
「俺の方こそありがとう。行きたい場所にだって行けたし...今度はふたりでどこか近場へ旅行に行こう」
「...それも楽しいかもしれないね」
しばらく話していると目的地に辿り着く。
帰りのバスから見える景色は紅葉1色で、目に焼きつけておこうと魅入っていた。
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