11 / 156
泣けないver.
安心できる場所
しおりを挟む
そこは、何もない海だった。
波の音だけで、他には何もない。
「...すごい」
「綺麗だね。もう夕方だから人通りも少ない」
場所選びひとつ取っても、いつもこうして私を気遣ってくれる。
「...ここなら本当にふたりだけの世界かもしれない」
「詩音...そうだ、お腹すいてない?」
そういえば、お昼は食べられなかったのだ。
私のお弁当は、砂弁当になっていたから。
思い出すと少しだけ息苦しい。
「食べようか」
「い、いただきます」
ふたりで同じものを食べて、同じ景色を見る。
それが私をひどく安心させた。
「その塩むすび、塩控えめにしてみたんだけど...美味しくなかった?」
「ううん、すごく美味し、」
そのとき、優翔に抱きしめられた。
...私の目元が潤んでいたことに気づいたからだろうか。
「大丈夫だよ」
とんとんと背中を優しくたたかれ、また涙が零れ落ちる。
(どうしよう、止まらない...)
他の人に同じことを言われたら、何が大丈夫なの?と訊いているだろう。
だが、優翔に対してだけはそんなことを思わないのだ。
涙なんて枯れたと思っていたのに、溢れ出して全然止まらない。
これからが不安で堪らない。
優翔がいなくなったら、私はあの学校に居場所なんてなくなる。
きっとまた生きるのが辛くなってしまうのだろう。
「詩音」
私の名前を呼ぶ声が、抱きしめてくれる腕の中が、私を否定しないでいてくれることが1番安心する。
...ここになら帰ってきてもいいのだと思えるから。
「優翔、いつもありがとう」
ひとしきり泣いた後、彼は他のおかずも分けてくれた。
卵料理に野菜、スープ...デザートには沢山のフルーツを手渡してくれる。
その度に、絶対に離さないとでも言うように力強くてを握ってくれた。
私が安心して帰れる場所は、もうここしかない。
「残念だけどそろそろ行かないと...」
「...そうだね。今日はありがとう」
せいいっぱいの笑顔を作ってみるけれど、彼には誤魔化せないようだ。
「寂しいって思ってくれてる?」
「うん。本当はすごく寂しい。ずっと側にいたいって思う。
だから、その...」
「そうだね。『ただの恋人』に戻った後、いつでも泊まりにおいで。
君が嫌がることは絶対にしないから」
「うん。楽しみにしてる」
こんなふうに未来の約束ができることは、決して当たり前じゃない。
こんなふうに毎日話して会えるのも、決して当たり前じゃないのだ。
「それじゃあ、行こうか」
「...うん」
我儘を言って困らせるつもりはない。
今はまだ聞き分けのいい子でいよう。
差し出された小指に、そっと自分の小指を絡ませる。
──波の音だけが、いつまでも反芻していた。
波の音だけで、他には何もない。
「...すごい」
「綺麗だね。もう夕方だから人通りも少ない」
場所選びひとつ取っても、いつもこうして私を気遣ってくれる。
「...ここなら本当にふたりだけの世界かもしれない」
「詩音...そうだ、お腹すいてない?」
そういえば、お昼は食べられなかったのだ。
私のお弁当は、砂弁当になっていたから。
思い出すと少しだけ息苦しい。
「食べようか」
「い、いただきます」
ふたりで同じものを食べて、同じ景色を見る。
それが私をひどく安心させた。
「その塩むすび、塩控えめにしてみたんだけど...美味しくなかった?」
「ううん、すごく美味し、」
そのとき、優翔に抱きしめられた。
...私の目元が潤んでいたことに気づいたからだろうか。
「大丈夫だよ」
とんとんと背中を優しくたたかれ、また涙が零れ落ちる。
(どうしよう、止まらない...)
他の人に同じことを言われたら、何が大丈夫なの?と訊いているだろう。
だが、優翔に対してだけはそんなことを思わないのだ。
涙なんて枯れたと思っていたのに、溢れ出して全然止まらない。
これからが不安で堪らない。
優翔がいなくなったら、私はあの学校に居場所なんてなくなる。
きっとまた生きるのが辛くなってしまうのだろう。
「詩音」
私の名前を呼ぶ声が、抱きしめてくれる腕の中が、私を否定しないでいてくれることが1番安心する。
...ここになら帰ってきてもいいのだと思えるから。
「優翔、いつもありがとう」
ひとしきり泣いた後、彼は他のおかずも分けてくれた。
卵料理に野菜、スープ...デザートには沢山のフルーツを手渡してくれる。
その度に、絶対に離さないとでも言うように力強くてを握ってくれた。
私が安心して帰れる場所は、もうここしかない。
「残念だけどそろそろ行かないと...」
「...そうだね。今日はありがとう」
せいいっぱいの笑顔を作ってみるけれど、彼には誤魔化せないようだ。
「寂しいって思ってくれてる?」
「うん。本当はすごく寂しい。ずっと側にいたいって思う。
だから、その...」
「そうだね。『ただの恋人』に戻った後、いつでも泊まりにおいで。
君が嫌がることは絶対にしないから」
「うん。楽しみにしてる」
こんなふうに未来の約束ができることは、決して当たり前じゃない。
こんなふうに毎日話して会えるのも、決して当たり前じゃないのだ。
「それじゃあ、行こうか」
「...うん」
我儘を言って困らせるつもりはない。
今はまだ聞き分けのいい子でいよう。
差し出された小指に、そっと自分の小指を絡ませる。
──波の音だけが、いつまでも反芻していた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
Tell me eMotion
黒蝶
キャラ文芸
突きつけられるのは、究極の選択。
「生き返るか、僕と一緒にくるか...」
全てに絶望した少女・雪芽は、ある存在と出会う。
そしてその存在は告げる。
「僕には感情がないんだ」
これは、そんな彼と過ごしていくうちにお互いの心を彩づけていく選択の物語。
※内容が内容なので、念のためレーティングをかけてあります。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ハーフ&ハーフ
黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。
そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。
「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」
...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。
これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる