泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣けないver.

届かなかった声 詩音side

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遠足という名の地獄...今日は保健室にいてもいいのだろうか。
「...行ってきます」
誰もいない家にそんな言葉を告げる。
私には、家族というものが分からない。
そんなものとは無縁で生きてきた。
本当は話したいことも沢山あったはずだけれど、あの人たちは私には無関心だ。
『失敗作!』『恥さらしが!』
掛けられた言葉を思い出すと、すくんで動けなくなりそうになる。
ちゃんと学校には行こうとした。
けれど、途中で動けなくなってしまったのだ。
「それでさ、あの人が──で!」
「分かる!あそこは...べきだよね!」
笑い声を聞くと、膝をついてしまった。
息ができない。
苦しくて、その場に立っているのもやっとだった。
「──よう。だい...ぶ?」
誰かに話しかけられたような気がするけれど、答えることさえできない。
(口の中、からからで...駄目だ、何も話せない)
そのまま意識を手離して、深い眠りに落ちていく。
耳元で聞こえた言葉は、大丈夫だからという掠れたものだった。
「はい、分かりました。それでは、失礼いたします。
大丈夫です、ちゃんと彼女の意思を尊重するようにしますので」
そんな言葉が聞こえて目を開けたとき、真っ白なベッドの上に寝かされていた。
「私...」
「詩音、大丈夫?君は通学中に倒れたんだよ。
変だと思って話しかけたけど、そのときにはもう限界だったみたいだね」
「ご、ごめんなさい...」
起きあがろうとした私を、優翔は片手で止めた。
「...遠足、行きたくない?」
「でも、行かないと迷惑がかかっちゃう」
「先生にも、『生徒の意思を尊重するように』って言われてるから...休みたかったら休んでいいんだよ?」
「それは、いつもの保健室の先生?」
優翔は頷いて、笑顔をこちらに向けてくれた。
「あの先生、『倒れた生徒を無理矢理行かせることはできない』って他の先生に話してたんだ。
出席扱いにはなるから、一緒にここに残っても大丈夫!」
「それなら...残りたい」
あの人たちと顔を合わせることになると思うと...行きたくない。
疲れてまた過呼吸をおこすより、ここで優翔と一緒にいた方が...ううん、そうしたいんだ。
「よし、じゃあ先生には連絡しておくからゆっくり寝てて。
親御さんには連絡しなくていい?」
「あの人たちにはしないで、絶対...」
ねちねち嫌なことを言われるだけなんて、そんな状況を一体誰が望むのか。
祖父母が遺してくれた家...あそこだけが私の居場所なのだ。
こられても困る。
「もう少し顔色がよくなったら、学校探検でもしようか」
「学校探検...?」
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