泣けない、泣かない。

黒蝶

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クロス×ストーリー(通常運転のイベントもの多め)

ハロウィン-泣けないver.-

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綺麗すぎて僕には眩しすぎる。
その言葉は、目の前の女性にこそふさわしいものなのかもしれない。
「詩音、こっちだよ」
「うん...」
緊張しているのか、知り合いがいないか不安なのか。
もしかすると、どちらも抱えているのかもしれない。
「優翔?」
「ごめん、ちょっとだけぼうっとしてた」
辿り着いたのは、予約制のレストラン。
実は2週間前から予約していたというのは、僕だけの秘密だ。
「私の為に予定を空けてくれてありがとう」
詩音は優しく笑って、そのまま料理を食べ進めている。
僕も考え事ばかりせずに、ひとまず料理を口に運ぶ。
「...うん、美味しい」
「何を使っているのかすごく気になる...」
「舌だけで当てないといけないのかな?」
「多分そうだと思うけど...どうかな」
ふたりで笑いあいながら、少しずつ皿は空になっていく。
「次はどこに行きたい?」
「えっと...」
「...僕の家、くる?実家には弟たちがいる可能性があるし...外にいるのが不安なんでしょ?」
詩音が思っていることなんて大体分かる。
「お邪魔します...」
「どうぞ」
ふたり手を繋ぎ、少しだけ近く感じるマンションまでの道を早足で歩いた。
今は生徒と先生という関係以外に見えてしまうのはかなり困る。
流石にこうして一緒にいるところを見られてしまっては、誤魔化しようがなくなってしまう。
意図せず実習に選んだのが恋人の学校だったのだが、未だに誰にも話せていない。
「優翔、ごめんなさい...」
「何も悪いことしてないでしょ?謝らなくていいんだよ」
「今夜泊めてほしい...独りの家にいたくない」
予想外のことに、僕はどんな返事をすればいいのか分からなかった。
「親御さんがいいって言ったら、僕は構わないよ」
「...許可とった」
「早いね」
可愛らしい魔女をうっかり襲ってしまわないよう、大人な対応でとおしてみせる。
なかなか辛い部分もあったが、詩音が安心できるならそれでいい。
「優翔」
「どうしたの?」
「トリック・オア・トリート」
「お菓子なら持ってるよ。はい、どうぞ」
きちんと準備しておいたものを渡し、僕は詩音に訊いてみた。
「詩音、トリック・オア・トリート」
「持ってない、どうしよう...」
「それじゃあ...」
唇を唇に触れあわせると、びくっと動くのが視界の隅に入った。
「これで充分だよ」
「もう...」
詩音が成人するまで、ここから先のステップには進まないと決めている。
「それじゃあ、おやすみ」
「あ、あの...一緒に寝ちゃ駄目?」
恥ずかしそうにするその手を、振り払うことはできない。
オレンジ色に染まる部屋、ふたり寄り添って眠りにつく。
そっと抱きしめていると、いつもよりずっと安心して眠れたような気がした。
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