泣けない、泣かない。

黒蝶

文字の大きさ
上 下
65 / 156
泣かないver.

入学式

しおりを挟む
「久遠、本当についていかなくて大丈夫?」
「...うん。心配かけてごめんね、お母さん」
お母さんは私を女手ひとつで育ててくれた。
小さい頃にお父さんはある事件に巻きこまれて死んでしまったから...それから毎日働いてくれた。
「おはようございます」
「あら、大翔君。おはよう」
大翔とはお母さん公認の仲だ。
こっそり付き合っていたのが、ある拍子にバレてしまったから。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい。大翔君、久遠のことをよろしくお願いします」
「勿論です。任せてください」
そうしてふたりで駅へと急ぐ。
電車で10分ほど、そこから徒歩5分圏内にある場所はすぐ分かった。
そうして学校にはきてみたけれど、だんだん頭が痛くなってくる。
「久遠?」
「ごめんなさい、大丈夫。大翔、これからどこに行ったらいいんだっけ...」
「こっちだよ。もし具合が悪くなったらすぐ言って」
「うん...」
多分このとき、大翔には見破られていた。
それでも黙っていてくれたのはどうしてだろう。
「おはようございます」
「...!お、おはようございます」
「これからよろしく」
「は、はい...」
先生と話すのでさえ緊張してしまう。
どうしても怖くなって身構えてしまうのだ。
『それでは、後期入学式を始めます』
なんだか頭痛が酷くなったような気がするけど、耐えるしかない。
『生徒会挨拶。生徒会長、小野大翔』
「...はい」
大翔が、生徒会長?...初めて知った。
どうして教えてくれなかったのだろう。
だんだん息苦しくなってきて、このままでは倒れるというところまできた。
「保健室行こうか」
「ご、ごめんなさい...」
先生が連れ出してくれて、そのおかげでなんとかなった。
保健室のベッドで反省していると、誰かが入ってくる音がした。
「大丈夫?」
「大翔...」
「無理せず寝てていいから」
「先生に言ってくれたの、大翔でしょ?...ありがとう」
「具合が悪くなったらすぐ言えって言ったのに...」
迷惑をかけたくなかったのに、結局迷惑になってしまった。
...何をどうすればよかったのだろう。
「今は何も考えなくていいから、取り敢えず寝た方がいい。
また今度、学校案内してあげるから」
「ごめん...」
目を閉じると、少しずつ意識が落ちていく。
大翔がいてくれるおかげで、いつもよりずっと熟睡できた。
「生徒会の仕事が終わるまで待ってもらってごめん」
「ううん、気にしないで」
ふたりで歩く帰り道はとにかく新鮮で、楽しくて仕方ない。
駅に着くと、大翔とは雰囲気が正反対の男性が待っていた。
「大翔、おか...あれ?邪魔だった?」
「なんでここにいるの、兄貴」
「え、お兄さん...?」
いつも元気っぽい大翔と大人の雰囲気を持ったその人は、確かに顔が似ていた。
「ごめんごめん。先に帰ってるから、きたかったらおいで。
...今日もマンションの方だから」
「分かった。悪い、後で連絡するから」
「...よかったの?」
「うん。...兄貴はすごいいい人だから」
大翔は目をきらきらさせながらそう告げる。
きっとそれが、憧れというものなのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

救済

古明地 蓮
ライト文芸
本作には精神的苦痛を与える可能性のある描写があります。精神状態がよろしくない方は読まれないことを推奨いたします。 「夏休み明けから一緒に学校にいかない?」 高校一年生で不登校になり毎日ゲームをしていた晴飛 夏休み最終日に晴飛のもとに現れたのはかつての親友の桃花と美雪だった。 彼女らに誘われて高校に復学すると、予想以上に楽しい生活が待っていて... 晴飛が不登校になって原因はなんだったのか。それを克服することができるのか。

灰かぶり姫の落とした靴は

佐竹りふれ
ライト文芸
中谷茉里は、30手前にして自身の優柔不断すぎる性格を持て余していた。 春から新しい部署となった茉里は、先輩に頼まれて仕方なく参加した合コンの店先で、末田皓人と運命的な出会いを果たす。順調に彼との距離を縮めていく茉莉。時には、職場の先輩である菊地玄也の助けを借りながら、順調に思えた茉里の日常はあることをきっかけに思いもよらない展開を見せる……。 第1回ピッコマノベルズ大賞の落選作品に加筆修正を加えた作品となります。

雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!

谷島修一
ライト文芸
雑司ヶ谷高校1年生の武田純也は、図書室で絡まれた2年生の上杉紗夜に無理やり歴史研究部に入部させられる。 部長の伊達恵梨香などと共に、その部の活動として、なし崩し的に日本100名城をすべて回る破目になってしまう。 水曜、土曜更新予定 ※この小説を読んでも歴史やお城に詳しくなれません(笑) ※数年前の取材の情報も含まれますので、お城などの施設の開・休館などの情報、交通経路および料金は正しくない場合があります。 (表紙&挿絵:長野アキラ 様) (写真:著者撮影)

一歩の重さ

burazu
ライト文芸
最年少四段昇段を期待された長谷一輝は最年少四段昇段は果たせず16歳の秋に四段昇段を決めたものの、プロの壁は厚く、くすぶっていた。これはそんな彼がプロの頂点を目指していく物語である。 この作品は小説家になろうさん、エブリスタさん、ノベルアッププラスさん、カクヨムさんでも投稿しています。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

恋もバイトも24時間営業?

鏡野ゆう
ライト文芸
とある事情で、今までとは違うコンビニでバイトを始めることになった、あや。 そのお店があるのは、ちょっと変わった人達がいる場所でした。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中です※ ※第3回ほっこり・じんわり大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※ ※第6回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※

『Happiness 幸福というもの』 

設樂理沙
ライト文芸
息子の恋人との顔会わせをする段になった時「あんな~~~な女なんて 絶対家になんて上げないわよ!どこか他所の場所で充分でしょ!!」と言い放つ鬼畜母。 そんな親を持ってしまった息子に幸せは訪れるでしょうか? 最後のほうでほんのちょこっとですが、わたしの好きな仔猫や小さな子が出て来ます。 2つの小さな幸せを描いています。❀.(*´◡`*)❀. 追記: 一生懸命生きてる二人の女性が寂しさや悲しみを 抱えながらも、運命の男性との出会いで幸せに なってゆく・・物語です。  人の振れ合いや暖かさみたいなものを 感じていただければ幸いです。 注意 年の差婚、再婚されてる方、不快に思われる台詞が    ありますのでご注意ください。(ごめんなさい)    ちな、私も、こんな非道な発言をするような姑は    嫌いどす。 ・(旧) Puzzleの加筆修正版になります。(2016年4月上旬~掲載) 『Happiness 幸福というもの』  ❦ イラストはAI生成有償画像 OBAKERON様 ◇再掲載は2021.10.14~2021.12.22

夢見るディナータイム

あろまりん
ライト文芸
いらっしゃいませ。 ここは小さなレストラン。 きっと貴方をご満足させられる1品に出会えることでしょう。 『理想の場所』へようこそ! ****************** 『第3回ライト文芸大賞』にて『読者賞』をいただきました! 皆様が読んでくれたおかげです!ありがとうございます😊 こちらの作品は、かつて二次創作として自サイトにてアップしていた作品を改稿したものとなります。 無断転載・複写はお断りいたします。 更新日は5日おきになります。 こちらは完結しておりますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。 とりあえず、最終話は50皿目となります。 その後、SSを3話載せております。 楽しんで読んでいただければと思います😤 表紙はフリー素材よりいただいております。

処理中です...