泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣かないver.

進む覚悟 久遠side

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「もしもし」
『夜遅いのにごめんね。もう声が聞きたくなっちゃった』
はじめは驚いたけれど、落ち着いた声を聞くとなんだか安心する。
「私も声が聞きたかった」
『そう思ってもらえてるのは嬉しい』
ふたりでしばらく全く当たり障りのない話を続けていたけれど、私は本題を振ることにする。
ちょっと怖いけれど、ここから進む為に。
「あの、ね...大翔に聞いてほしいことがあるんだ」
『...おう』
「私、頑張って面接を受けてみようと思ってるんだけど...」
少しだけ沈黙が流れた後、電話越しに私を安心させる声が聞こえた。
『大丈夫、面接は絶対受かるよ』
「私、人前であんまり話せないよ...?」
『大丈夫、そのあたりも先生はちゃんと見てるはずだから。
あとは必要なもののことだけど...』
メモを取りながら少しだけ怖くなる。
もしまた独りだったらどうしよう。
『...とまあ、そんな感じ。明日からはどうするか決めた?』
「もう1ヶ月休学することにした」
そう、あんな学校でも席を置いておく必要がある。
それで単位が残るのなら本望だ。
『そっか...。こんなことを言ったら駄目なのかもしれないけど、よかった。
君が傷つく姿を見たくないなって思ってたから...』
「大翔...ありがとう」
私が外に出られなくなっても、ほとんど毎日家にきてくれた大翔。
今私がこうしていられるのは彼のおかげだ。
『あ、えっと、また後でまとめてメールする。
勉強、また分からなかったら聞きにきて。
明日はバイトだから、休憩時間に一緒にしよう』
「いいの?」
『うん。午後に2時間休憩あるし、そっちに行くから...お菓子、また作ってくれる?』
「勿論」
『ありがとう。楽しみだな...』
「私も楽しみ」
ふたりでいられる時間が、私にとって大きな支えになっている。
浴びせられる冷たい視線にも、大翔がいてくれたから耐えられた。
頑張って合格して、もっと近くにいたい。
『それじゃあ、おやすみ』
「うん、おやすみ」
寂しいけれど、大翔の明日は早いはずだ。
引き留めて負担になるようなことだけはしたくない。
『久遠!』
「どうかしたの?」
電話を切ろうとしたとき、名前を呼ばれて動きを止める。
『最後にひとつだけ。...俺はずっと君の味方だから』
どうして大翔は、私が1番ほしい言葉をくれるんだろう。
いつだってその仕草ひとつひとつに支えられているような気がする。
「大翔、大好き」
『い、いきなりそれは反則!...また明日』
電話は忙しく切れた。
私はただ空を見上げる。
星が綺麗に輝いていて、まるで夢の世界にいるようだった。
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