4 / 156
泣けないver.
救世主 詩音side
しおりを挟む
翌朝、私は校舎の前で固まってしまっていた、
息が苦しい。引き返したいとさえ思う。
...本当は怖い。
今すぐ逃げ出したくなるくらいに...。
けれど、約束は守る為にするものだから。
だから私は、ちゃんと学校には行くことにした。
相談できる人なんて優翔以外にいない。
《これで適当に食べておいて》
そのメモに慣れてしまったのはいつだったか。
共働きの両親はなかなか家にいない。
特にここ数年、まともに会話したことがあっただろうか。...帰りたい。
学校の前に立つと、息が苦しくなる。
困っていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「おはよう。体調が悪そうだね...先生もこれから保健室に行くから、一緒に行こうか」
「...ありがとう、ございます」
本当は目の前にいる優翔に抱きつきたい。
けれど、そんなことをすれば彼を困らせてしまうことは分かっている。
「ちょっと待っててね、鍵は...開いた。
どうぞ、入って。...横になってていいからね」
優翔は本当の先生みたいに振る舞っていて、それを見ているだけで鼓動が速くなる。
「約束、守ってくれてありがとう」
「私が守りたかっただけだから」
「しんどいのに頑張ってきたんでしょ?」
何も言わなくても、優翔には全部伝わっている。
誰かがきてしまったらどうしよう...そんなふうに考えていると、目の前の彼は微笑んだ。
「今日は保健の先生、午後からくるんだ。
だから、午前中はふたりきりでいられるよ」
「でも...」
今ここでは、先生と生徒だ。
いつもみたいに頭を撫でてもらえないのは...少しだけ寂しい。
「心配しなくても、生徒に手を出すような真似はしないから。
ああ、だけどネームプレートをつけて先生になる前にひとつだけ」
「...?」
「君のこと、大好きだよ」
「き、急に言うのは...駄目」
頬に熱が集まるのを感じていると、くすっと笑う声が耳に届く。
「顔、真っ赤になってる...可愛い。
さて、これから先生はここで仕事してるから、ゆっくり休んでて。他の先生には僕が連絡しておくから気にしなくていいよ」
「え、あ、」
「お昼になったら起こすね。
それじゃあ、横になってるように。
...本、貸しておくから読めそうなら読んで」
「分かりました、先生」
敢えてそう呼ぶと、『先生』ははっとした表情を私に向ける。
「いけない、先生モードが崩れちゃった。
それじゃあ、恋人として話すのはまた放課後に...」
「うん」
こうして保健室登校がはじまった。
優翔との関係は伏せたまま、当然親にも話さないまま。
──私にとっての救いは、優翔がいるこの場所しかないんだ。
息が苦しい。引き返したいとさえ思う。
...本当は怖い。
今すぐ逃げ出したくなるくらいに...。
けれど、約束は守る為にするものだから。
だから私は、ちゃんと学校には行くことにした。
相談できる人なんて優翔以外にいない。
《これで適当に食べておいて》
そのメモに慣れてしまったのはいつだったか。
共働きの両親はなかなか家にいない。
特にここ数年、まともに会話したことがあっただろうか。...帰りたい。
学校の前に立つと、息が苦しくなる。
困っていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「おはよう。体調が悪そうだね...先生もこれから保健室に行くから、一緒に行こうか」
「...ありがとう、ございます」
本当は目の前にいる優翔に抱きつきたい。
けれど、そんなことをすれば彼を困らせてしまうことは分かっている。
「ちょっと待っててね、鍵は...開いた。
どうぞ、入って。...横になってていいからね」
優翔は本当の先生みたいに振る舞っていて、それを見ているだけで鼓動が速くなる。
「約束、守ってくれてありがとう」
「私が守りたかっただけだから」
「しんどいのに頑張ってきたんでしょ?」
何も言わなくても、優翔には全部伝わっている。
誰かがきてしまったらどうしよう...そんなふうに考えていると、目の前の彼は微笑んだ。
「今日は保健の先生、午後からくるんだ。
だから、午前中はふたりきりでいられるよ」
「でも...」
今ここでは、先生と生徒だ。
いつもみたいに頭を撫でてもらえないのは...少しだけ寂しい。
「心配しなくても、生徒に手を出すような真似はしないから。
ああ、だけどネームプレートをつけて先生になる前にひとつだけ」
「...?」
「君のこと、大好きだよ」
「き、急に言うのは...駄目」
頬に熱が集まるのを感じていると、くすっと笑う声が耳に届く。
「顔、真っ赤になってる...可愛い。
さて、これから先生はここで仕事してるから、ゆっくり休んでて。他の先生には僕が連絡しておくから気にしなくていいよ」
「え、あ、」
「お昼になったら起こすね。
それじゃあ、横になってるように。
...本、貸しておくから読めそうなら読んで」
「分かりました、先生」
敢えてそう呼ぶと、『先生』ははっとした表情を私に向ける。
「いけない、先生モードが崩れちゃった。
それじゃあ、恋人として話すのはまた放課後に...」
「うん」
こうして保健室登校がはじまった。
優翔との関係は伏せたまま、当然親にも話さないまま。
──私にとっての救いは、優翔がいるこの場所しかないんだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
すみません、妻です
まんまるムーン
ライト文芸
結婚した友達が言うには、結婚したら稼ぎは妻に持っていかれるし、夫に対してはお小遣いと称して月何万円かを恵んでもらうようになるらしい。そして挙句の果てには、嫁と子供と、場合によっては舅、姑、時に小姑まで、よってかかって夫の敵となり痛めつけるという。ホラーか? 俺は生涯独身でいようと心に決めていた。個人経営の司法書士事務所も、他人がいる煩わしさを避けるために従業員は雇わないようにしていた。なのに、なのに、ある日おふくろが持ってきた見合いのせいで、俺の人生の歯車は狂っていった。ああ誰か! 俺の平穏なシングルライフを取り戻してくれ~! 結婚したくない男と奇行癖を持つ女のラブコメディー。
※小説家になろうでも連載しています。
※本作はすでに最後まで書き終えているので、安心してご覧になれます。
世界の中心は君だった
KOROU
現代文学
体は男性、心は女性の主人公【狐】。取り巻く環境と向かう人生は苛烈か易しさか。
迎えうつのは性別違和、いじめ、不登校、就職難、精神障害などの荒波。
それでも狐が信じてやまないのは自身の理想かそれとも他者か。
あなたの心に何かを残す現代文学の物語へようこそ。
【完結】鏡鑑の夏と、曼珠沙華
水無月彩椰
ライト文芸
初恋の相手が、死んでいた夏。
それは、かつての"白い眩しさ"を探す夏になった。
"理想の夏"を探す夏になった。
僕はそれを求めて、あの田舎へと帰省した。
"四年間の贖罪"をする夏にもなった。
"四年前"に縛られる夏にもなった。
"残り僅かな夏休み"を楽しむ夏にもなった。
四年間を生きた僕と、四年前に死んだあやめは、何も変わっていなかった。
──僕だけに見えるあやめの姿。そうして、彼女から告げられた死の告白と、悲痛な"もう一つの事実"。文芸部員の僕が決意したのは、彼女に『色を分ける』ことだった。
失った四年間を取り戻すなかで、僕とあやめは"夏の眩しさ"、"夏の色"を見つけていく。そして、ずっと触れずにいたあやめの死の真相も。唯一の親友、小夜が語る、胸に秘めていた後悔とは──?
そんなある日を境に、タイムリミットが目に見えて迫るようになる。これは最期の夏休みをともに過ごす二人の、再会から別れまでを描いた恋物語。ただ夏だけを描き続けた、懐かしくも儚い幻想綺譚。
Cocktail Story
夜代 朔
ライト文芸
「カクテル言葉」をテーマにした作品。
朗読・声劇の台本としてもご使用頂けます。
許可取り不要 自作発言禁止。
使用報告頂けたら嬉しいです。
使用時は作者名の表記をお願いします。
※表示画像には五百式カクテルメーカーで作成させて頂いたものを使用しています。
夢見るディナータイム
あろまりん
ライト文芸
いらっしゃいませ。
ここは小さなレストラン。
きっと貴方をご満足させられる1品に出会えることでしょう。
『理想の場所』へようこそ!
******************
『第3回ライト文芸大賞』にて『読者賞』をいただきました!
皆様が読んでくれたおかげです!ありがとうございます😊
こちらの作品は、かつて二次創作として自サイトにてアップしていた作品を改稿したものとなります。
無断転載・複写はお断りいたします。
更新日は5日おきになります。
こちらは完結しておりますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
とりあえず、最終話は50皿目となります。
その後、SSを3話載せております。
楽しんで読んでいただければと思います😤
表紙はフリー素材よりいただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる