泣けない、泣かない。

黒蝶

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泣けないver.

救世主 詩音side

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翌朝、私は校舎の前で固まってしまっていた、
息が苦しい。引き返したいとさえ思う。
...本当は怖い。
今すぐ逃げ出したくなるくらいに...。
けれど、約束は守る為にするものだから。
だから私は、ちゃんと学校には行くことにした。
相談できる人なんて優翔以外にいない。
《これで適当に食べておいて》
そのメモに慣れてしまったのはいつだったか。
共働きの両親はなかなか家にいない。
特にここ数年、まともに会話したことがあっただろうか。...帰りたい。
学校の前に立つと、息が苦しくなる。
困っていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「おはよう。体調が悪そうだね...先生もこれから保健室に行くから、一緒に行こうか」
「...ありがとう、ございます」
本当は目の前にいる優翔に抱きつきたい。
けれど、そんなことをすれば彼を困らせてしまうことは分かっている。
「ちょっと待っててね、鍵は...開いた。
どうぞ、入って。...横になってていいからね」
優翔は本当の先生みたいに振る舞っていて、それを見ているだけで鼓動が速くなる。
「約束、守ってくれてありがとう」
「私が守りたかっただけだから」
「しんどいのに頑張ってきたんでしょ?」
何も言わなくても、優翔には全部伝わっている。
誰かがきてしまったらどうしよう...そんなふうに考えていると、目の前の彼は微笑んだ。
「今日は保健の先生、午後からくるんだ。
だから、午前中はふたりきりでいられるよ」
「でも...」
今ここでは、先生と生徒だ。
いつもみたいに頭を撫でてもらえないのは...少しだけ寂しい。
「心配しなくても、生徒に手を出すような真似はしないから。
ああ、だけどネームプレートをつけて先生になる前にひとつだけ」
「...?」
「君のこと、大好きだよ」
「き、急に言うのは...駄目」
頬に熱が集まるのを感じていると、くすっと笑う声が耳に届く。
「顔、真っ赤になってる...可愛い。
さて、これから先生はここで仕事してるから、ゆっくり休んでて。他の先生には僕が連絡しておくから気にしなくていいよ」
「え、あ、」
「お昼になったら起こすね。
それじゃあ、横になってるように。
...本、貸しておくから読めそうなら読んで」
「分かりました、先生」
敢えてそう呼ぶと、『先生』ははっとした表情を私に向ける。
「いけない、先生モードが崩れちゃった。
それじゃあ、恋人として話すのはまた放課後に...」
「うん」
こうして保健室登校がはじまった。
優翔との関係は伏せたまま、当然親にも話さないまま。
──私にとっての救いは、優翔がいるこの場所しかないんだ。
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