泣けない、泣かない。

黒蝶

文字の大きさ
上 下
62 / 156
泣かないver.

導き出された選択

しおりを挟む
なんとか説明できるだけしてみよう。
それで駄目なら仕方ないけど、現状が続くよりは気楽にいけるのかもしれない。
「君は休学する前の2年間、真面目に通ってた。
単位を落としてるわけじゃないし、素行不良だったわけでもない」
「それは...そうかもしれない」
「...転入学っていう方式を使ったら、単位はそのまま引き継げる。
だから...上手くいけば、俺と一緒に卒業できるよ」
「本当?」
久遠はぱっと顔をあげ、やや食いぎみに訊いてきた。
「うん。...実は俺、あと1年で卒業できるんだ。
結構長かったけど、楽しかった。
尊敬してる人を近くで見られたし、バイト先に学校を卒業したら正社員にならないかって言われてて...」
「いつものカフェ?」
頷くと、俺よりも嬉しそうにする彼女が可愛らしい。
「俺みたいに前期で卒業せずに、大学を受けて後期で卒業する人も多い。
俺が尊敬してる人もそっちのパターンで...『自分みたいに悩んでいる人を助けたいから』って大学入って、つい最近養護教諭とカウンセラーの資格をとったって言ってた」
「本当にその人のことが大好きなんだね」
「うん。...君がどうしたいかによるけど、色んな選択を持っていいと思うんだ。
ものすごく勇気が必要なことだっていうのは分かってる。
だけど、あの学校に行って君が毎日悲しい思いをするなら...考えてみてほしい」
「その方法をしたら、また行けるようになるかな?」
久遠は高卒を諦めたりしていない。
学校に行けないのが苦しいのだと、何度も話してくれた。
だが、あんなことがあってはあそこに戻るのは難しいだろう。
「試験の勉強しないと」
「後期入学の試験は9月、面接だけ。だから...そんなに気負わなくていい」
「え、そうなの!?」
1本、また1本となくなっていった花火は残り2本。
「あ、もう最後だ。せーのでやろうか。...せーの」
バチバチと音がして、ふたりとも玉が落下する。
ふたりで笑いながら、俺はただひとつだけ訊かずにはいられなかった。
「...ねえ、泣きたいなら泣いてもいいんだよ。
「泣きたくないんだよ...」
「そんな笑顔で言われたら返しようがないな。
それじゃあ、行こうか」
「うん」
手を繋いで歩く、ただそれだけで嬉しかった。
バイクを用意して、後ろに掴まるよう指示する。
そうして少し走ると、彼女の家に辿り着いてしまった。
「楽しかった?」
「うん!花火も、ふたりで乗ったバイクも...こうして話せたことも」
「それならよかった。後で連絡して?多分起きてるから」
「する、絶対する」
「それじゃあ、また」
やっぱり可愛いな、なんて思いつつ後ろ姿を見送る。
久遠の優しい笑顔を守っていけるように、全力を出しきろうと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Tell me eMotion

黒蝶
キャラ文芸
突きつけられるのは、究極の選択。 「生き返るか、僕と一緒にくるか...」 全てに絶望した少女・雪芽は、ある存在と出会う。 そしてその存在は告げる。 「僕には感情がないんだ」 これは、そんな彼と過ごしていくうちにお互いの心を彩づけていく選択の物語。 ※内容が内容なので、念のためレーティングをかけてあります。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ハーフ&ハーフ

黒蝶
恋愛
ある雨の日、野崎七海が助けたのは中津木葉という男。 そんな木葉から告げられたのは、哀しい事実。 「僕には関わらない方がいいよ。...半分とはいえ、人間じゃないから」 ...それから2ヶ月、ふたりは恋人として生きていく選択をしていた。 これは、極々普通?な少女と人間とヴァンパイアのハーフである少年の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...