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泣けないver.
前夜の聴取
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僕はただ、詩音に元気になってほしかった。
2学期が始まる前日の夜10時、1人でいたところに話し掛けに行く。
「こんにちは。久しぶりだね」
「優翔...」
「どうかした?なんだか元気ないね...。
あ、さては課題が終わってないとか?」
冗談めかして言うけれど、彼女の反応がおかしい。
「何か心配事?...話、僕でよければ聞こうか?」
「ううん、大丈夫。心配かけてごめんなさい」
本当に大丈夫なら、あんなふうに笑うはずがない。
「そんなに泣きそうな顔をしてる生徒を放っておけるほど、先生は冷たくないんだ。
そこの公園とかどうかな?久しぶりに会えたんだし」
「う、うん...」
「よし、じゃあ取り敢えず座ろうか」
手を繋ぐのは久しぶりで少し緊張したけれど、なんだかいつもより冷たく感じた。
「...はい、飲み物。他の生徒には秘密ね。
それで、何か不安なことがあるの?」
「なんでもないよ」
詩音は頑なだ。
なかなか話そうとはしてくれない。
「話してくれないなら単刀直入に聞くね。
...学校、嫌い?」
「え、どうしてそれを...」
この反応...当たりか。
「なんとなくそんな気はしてたんだ。友だちの話なんて聞いたことないし、どうして学校の話題を避けるのかなって...」
「別に避けてた訳じゃないよ、ただしたくなかっただけで、」
「何度か校舎の中で嫌がらせされてるのを見た」
「...!」
言い逃れなんてさせない。
あんなものを見てしまったのだ、尚更ここでそうですかとなる訳にはいかないのだ。
「ロッカーを掃除してくれたのは、優翔だったの?」
「...そうだよ。破られたノートを直したのも、無くなったって言ってた教科書を見つけてロッカーに入れたのも。
...勝手にやってごめん」
彼女が驚いて話せなくなっているうちに、畳み掛けるように告げる。
「ねえ、詩音。先生には相談しないの?もしかして、無駄だと思ってる?」
「実際、無駄だったよ」
また哀しそうに笑う彼女に、僕は何ができるのだろうか。
「...もうすぐ実習期間が終わる。
その前になんとかしたいって思うけど...先生を信用できない理由があるの?」
「無理だよ、あの人たちのことを信じるなんて」
まただ。また詩音の心は泣いている。
「...それじゃあ、僕のことは?恋人の僕のことなら、信じてくれる?
学校では他の人と同じように振る舞ってるけど、本当は君を抱きしめたかった。
独りじゃないよって、辛かったねって伝えたかった」
詩音はただ黙りこんでしまって、僕はそんな彼女を抱きしめた。
「それなのに、夏休みの間も学校にバレないようにってほとんど連絡とらなくて...本当にごめん。
恋人失格だよね。僕も君と同級生ならよかった。
そうすれば一緒にいられたのに...」
偶然とはいえ、元のただの恋人に戻るまでは周りには言えない...もしかすると、そのことも負担になったのかもしれない。
2学期が始まる前日の夜10時、1人でいたところに話し掛けに行く。
「こんにちは。久しぶりだね」
「優翔...」
「どうかした?なんだか元気ないね...。
あ、さては課題が終わってないとか?」
冗談めかして言うけれど、彼女の反応がおかしい。
「何か心配事?...話、僕でよければ聞こうか?」
「ううん、大丈夫。心配かけてごめんなさい」
本当に大丈夫なら、あんなふうに笑うはずがない。
「そんなに泣きそうな顔をしてる生徒を放っておけるほど、先生は冷たくないんだ。
そこの公園とかどうかな?久しぶりに会えたんだし」
「う、うん...」
「よし、じゃあ取り敢えず座ろうか」
手を繋ぐのは久しぶりで少し緊張したけれど、なんだかいつもより冷たく感じた。
「...はい、飲み物。他の生徒には秘密ね。
それで、何か不安なことがあるの?」
「なんでもないよ」
詩音は頑なだ。
なかなか話そうとはしてくれない。
「話してくれないなら単刀直入に聞くね。
...学校、嫌い?」
「え、どうしてそれを...」
この反応...当たりか。
「なんとなくそんな気はしてたんだ。友だちの話なんて聞いたことないし、どうして学校の話題を避けるのかなって...」
「別に避けてた訳じゃないよ、ただしたくなかっただけで、」
「何度か校舎の中で嫌がらせされてるのを見た」
「...!」
言い逃れなんてさせない。
あんなものを見てしまったのだ、尚更ここでそうですかとなる訳にはいかないのだ。
「ロッカーを掃除してくれたのは、優翔だったの?」
「...そうだよ。破られたノートを直したのも、無くなったって言ってた教科書を見つけてロッカーに入れたのも。
...勝手にやってごめん」
彼女が驚いて話せなくなっているうちに、畳み掛けるように告げる。
「ねえ、詩音。先生には相談しないの?もしかして、無駄だと思ってる?」
「実際、無駄だったよ」
また哀しそうに笑う彼女に、僕は何ができるのだろうか。
「...もうすぐ実習期間が終わる。
その前になんとかしたいって思うけど...先生を信用できない理由があるの?」
「無理だよ、あの人たちのことを信じるなんて」
まただ。また詩音の心は泣いている。
「...それじゃあ、僕のことは?恋人の僕のことなら、信じてくれる?
学校では他の人と同じように振る舞ってるけど、本当は君を抱きしめたかった。
独りじゃないよって、辛かったねって伝えたかった」
詩音はただ黙りこんでしまって、僕はそんな彼女を抱きしめた。
「それなのに、夏休みの間も学校にバレないようにってほとんど連絡とらなくて...本当にごめん。
恋人失格だよね。僕も君と同級生ならよかった。
そうすれば一緒にいられたのに...」
偶然とはいえ、元のただの恋人に戻るまでは周りには言えない...もしかすると、そのことも負担になったのかもしれない。
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