約束のスピカ

黒蝶

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追憶のシグナル

第12項

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翌朝、何事もなかったように登校すると、おさげ眼鏡の少女が教室に佇んでいた。
「……いる」
「今は俺も視えてる。なんでだろ?波長が合ってきたとか?」
陽向の視え方は時々不安定だ。
本人曰く、波長が合ったり満月の夜はいつも以上に視えるらしい。
一般的に満月の夜霊力が強くなり、新月の夜弱くなる。
それは体質に関しても同じで、しかも怪異や妖の力も同じ条件で左右されるらしい。
「あの子に話しかけたら、」
「陽向、おはよう!」
「あ、ああ。おはよう」
「岡副君、今日は何飲んでるの?」
「スポーツドリンクだよ」
人気者の陽向から距離をとって、おさげ眼鏡の少女の表情を確認してみる。
少し離れた場所から見た感じでは、どう言葉で表せばいいのか分からないものだった。
物憂げにも見えるし、憎悪のようなものを隠しているようにも見える。
解決するには、やっぱり直接話してみるしかなさそうだ。
「…あの、放課後話をしませんか?」
相手からの反応はない。
どうしたものかと頭を抱えると、か細い声がかえってきた。
《…あなた、やっぱり私が視えるの?》
その言葉に大きく頷く。
すると、相手はほっとしたように私の手を掴んだ。
《お願い。私は誰も殺したくない。これ以上血で汚したくないの……!》
ぼたぼたと真っ赤な液体が掴まれた腕に降り注ぐ。
……誰も見ないような隅の席で本当によかった。
「なんとかします。今夜、あなたの結界へ行きますから…」
《それなら私も、自分の体に戻らなくては。…といっても、夜までは入れないのだけれど》
「分かりました」
おさげ眼鏡の少女は私から離れて、いつも空いている席に腰掛ける。
その姿は、ただ授業を受ける真面目な生徒にしか見えなかった。
自分の席に座りなおすと、周りからの視線にはっとする。
「あいつまたひとりで喋ってる」
「え、やば…」
「近寄ったら呪われるかもよ?早く行こう」
大丈夫。こんなことは日常茶飯事だ。
【もうおまえ喋るなよ!】
【桜良ちゃん、怖い!】
小さい頃は、少し歌ったり人に話しかけただけでそんな反応がかえってきた。
【あなたのこと、家族とは思えないの】
【気味悪くて人を呼べない。必要な金は振り込むからもう関わらないでくれ】
家族と呼べる存在なんていなかった。
だから別に、もうなんとも……
「陽向、次の体育何やる?」
「俺は弓道選択してるけど…」
「時間あったらサッカーの助っ人来てくれない?」
「岡副君、サッカー上手いの!?やってほしいな」
「えっと…気が向いたらかな」
陽向が笑って過ごせる世界ならそれでいい。
私がどんな目に遭っても、それはきっとあのときの罰だから。
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