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追憶のシグナル
第6項
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吊るしているのはあの案内人だということは証明された。
ただ、大樹に魅入られた子どもたちのことや吊るされた人間たちのことなどまだ分からないことが多い。
「桜良」
「あ……」
「そんなに申し訳なさそうにしないで。桜良のせいじゃないから。
あと、多分だけどあそこにいる人たちは生きてる」
それなら陽向が死んだことに説明がつかない。
一瞬そう思ったけれど、ひとつの仮説に納得してしまった。
「…わざと、死んだの?」
「旧校舎の理科準備室って色々な薬があるから助かるよ。…結界の中は流れる時間が遅いみたいだから、まだ誰も死んでない」
粒状のホウ酸を見せながら、陽向はにっこり笑っている。
だんだん死ぬことに対して抵抗がなくなってきているのだと見ていて強く感じた。
とても複雑な気持ちにはなるけれど、どう伝えればいいのか分からない。
言葉で言い表せない感情に押しつぶされそうになりながら、なんとかこちらを見ている陽向を見つめ返す。
「何かあった?」
「…何も」
声がかすれる。今更後遺症のような症状が現れたことに少し戸惑いながらも、なんとか会話を続けようとした。
一言話そうとした瞬間、遠くでチャイムが響き渡る。
「やば、朝のホームルームは出ておかないと。行こう」
「…うん」
久しぶりに授業を受けようと思ってはいるものの、この前みたいなことにならないかすごく不安だ。
それを悟られてしまったのか、大丈夫だと手を強く握られる。
そのぬくもりをできるだけ長く感じていたかった。
「体の調子はどうだ?」
「まだ、少し…」
「そうか。体調が悪くなったらすぐ言ってくれ」
「ありがとうございます」
マスクをつけていれば、周りはなんとなく察してくれる。
……普段から陽向以外とは極力接触しないようにしているから、関係ないのかもしれないけれど。
「この問題の解き方は…」
ふとおさげ眼鏡の子が気になって席を確認してみると、無表情で椅子に腰掛けていた。
流石に授業中に話しかけるわけにはいかないし、教科書とノートもあるようなので安堵する。
あれから嫌な思いをさせられていないか、少し気になっていたから。
「木嶋、この問題分かるか?」
教師の目が若干小馬鹿にしたように向けられ、うんざりしながら黒板に向かう。
授業に出るのをやめる前からこんなふうに敵意ある眼差しを向けられている。
きっかけは特になく、たまたま目をつけられたようだった。
解き終わって無言で席に戻ると、小さく舌打ちをしながら解説をくわえていく。
「なんだ、また声が出ないのか?説明くらいしてもらわないと──」
「先生。それ以上の暴言は聞き流せませんよ」
立ち上がった陽向は、腕章とバッジを見せながら教師に言い放つ。
表情ははっきりと見えないけれど、周りの生徒たちはざわついていた。
馬鹿にされるのなんて慣れているのに、いつだって助けてくれる。
「ひ、一先ず解説するぞ」
気まずそうな反応をする教師に殺意をこめた視線をおくりながら、自らの体質を恨んだ。
ただ、大樹に魅入られた子どもたちのことや吊るされた人間たちのことなどまだ分からないことが多い。
「桜良」
「あ……」
「そんなに申し訳なさそうにしないで。桜良のせいじゃないから。
あと、多分だけどあそこにいる人たちは生きてる」
それなら陽向が死んだことに説明がつかない。
一瞬そう思ったけれど、ひとつの仮説に納得してしまった。
「…わざと、死んだの?」
「旧校舎の理科準備室って色々な薬があるから助かるよ。…結界の中は流れる時間が遅いみたいだから、まだ誰も死んでない」
粒状のホウ酸を見せながら、陽向はにっこり笑っている。
だんだん死ぬことに対して抵抗がなくなってきているのだと見ていて強く感じた。
とても複雑な気持ちにはなるけれど、どう伝えればいいのか分からない。
言葉で言い表せない感情に押しつぶされそうになりながら、なんとかこちらを見ている陽向を見つめ返す。
「何かあった?」
「…何も」
声がかすれる。今更後遺症のような症状が現れたことに少し戸惑いながらも、なんとか会話を続けようとした。
一言話そうとした瞬間、遠くでチャイムが響き渡る。
「やば、朝のホームルームは出ておかないと。行こう」
「…うん」
久しぶりに授業を受けようと思ってはいるものの、この前みたいなことにならないかすごく不安だ。
それを悟られてしまったのか、大丈夫だと手を強く握られる。
そのぬくもりをできるだけ長く感じていたかった。
「体の調子はどうだ?」
「まだ、少し…」
「そうか。体調が悪くなったらすぐ言ってくれ」
「ありがとうございます」
マスクをつけていれば、周りはなんとなく察してくれる。
……普段から陽向以外とは極力接触しないようにしているから、関係ないのかもしれないけれど。
「この問題の解き方は…」
ふとおさげ眼鏡の子が気になって席を確認してみると、無表情で椅子に腰掛けていた。
流石に授業中に話しかけるわけにはいかないし、教科書とノートもあるようなので安堵する。
あれから嫌な思いをさせられていないか、少し気になっていたから。
「木嶋、この問題分かるか?」
教師の目が若干小馬鹿にしたように向けられ、うんざりしながら黒板に向かう。
授業に出るのをやめる前からこんなふうに敵意ある眼差しを向けられている。
きっかけは特になく、たまたま目をつけられたようだった。
解き終わって無言で席に戻ると、小さく舌打ちをしながら解説をくわえていく。
「なんだ、また声が出ないのか?説明くらいしてもらわないと──」
「先生。それ以上の暴言は聞き流せませんよ」
立ち上がった陽向は、腕章とバッジを見せながら教師に言い放つ。
表情ははっきりと見えないけれど、周りの生徒たちはざわついていた。
馬鹿にされるのなんて慣れているのに、いつだって助けてくれる。
「ひ、一先ず解説するぞ」
気まずそうな反応をする教師に殺意をこめた視線をおくりながら、自らの体質を恨んだ。
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