約束のスピカ

黒蝶

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追憶のシグナル

第3項

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「おまたせ!多分これ、今回の件に関係ありそうだからくすねてきた」
「……そう」
随分無茶なことをすると思いながら、ありがたく資料に目を通させてもらうことにした。
「それにしても、監査部ってちょっと不思議な人が揃ってるんだな。初めて会う人ばかりだったけど、先輩がちょっと怖かった」
「今の3年生?」
「お、よく分かったね。今の2年生はひとりしかいなくて、外部受験するらしいからいなくなっちゃうんだって」
「……そう」
陽向はいい人だ。だからこそ、時々騙されないか心配になる。
悪意に鈍感だから、絡まれてしまわないか不安になってしまう。
本人が決めたことなら何も言えないけど、私がいなくても楽しんでほしい。
……面と向かって伝えることはできないけれど。
「で、さっきの掲示板っていつからあるのかな?」
「過去のログを遡ってみたら、いくつか町を賑わせた噂があった」
「この町を狙ってる奴がいるってことなのかな…。まあ、心配しなくてもなんとかするけど」
あのときから陽向は死ねない体になった。
その理由も経緯も私はよく知っているけれど、直接伝えることはできない。
「今夜は学校に張り込みかな」
「定時制の人たちに紛れた方がいいと思う。一旦帰った方がいい」
「それもそっか」
ずっと抱きしめられているような体勢でいるからか、少し緊張してしまった。
それが陽向に伝わったのか、くすっと笑って後ろから回された腕に力がこめられる。
「……何?」
「緊張してるのかなって。あと、パワーチャージ?」
「どうして疑問符…」
「そんなに不安がらなくても大丈夫だよ。監査部も放送部(仮)もちゃんとこなすから」
「ここには無理に顔を出さなくていい」
「そういうわけにもいかないでしょ。彼女を放っておくなんてできないから」
画面越しに見える満面の笑みを前に、何も言葉が出てこなくなる。
陽向の笑顔は本当に狡い。
「それじゃあ、今日の夕飯は何にする?」
「陽向が食べたいもの」
「ええ、桜良が食べたいものにしようと思ったのに…」
こんなに平和な会話をしていても、私たちにはお互いしかいないのだ。
いや、正確に言えば私には彼しかいないが彼は違うのかもしれない。
家族と呼べるような人はいないし、友人なんて作れない。
「じゃあ、帰ろうか」
「…うん」
ふたり手を繋いでマンションの一室まで帰る。
隣同士の部屋に入りながら、届いていた仕送りを確認した。
【二度とうちに入らないで!】
苦い記憶を封じながら、お金が入っている封筒を引き出しに仕舞う。
アルバイトできる年齢になって、それが確実に決まるまでは家賃光熱費などのお金も支払われる。
陽向はおじいさんが理解者だと話していたから、私とは少し違うのだろう。
「桜良、食べよう」
「早い」
ベランダ越しに話してすぐ隣の部屋へ向かう。
……あまりよくない噂の広まりを確認しながら。
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