約束のスピカ

黒蝶

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追憶のシグナル

第2項

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私は普段、担任の室星先生から許可をもらって旧校舎の放送室にいさせてもらっている。
…正確に言えば、部員ひとりの放送部を作ってもらったのだ。
そこが隠れ家になっていて、授業に出られそうにないときは独りで勉強している。
「桜良、クラスの子たちから話を聞き出してきたよ!」
「…もう少し静かに」
「ごめん。目立たないようにしてるんだっけ」
陽向は室星先生に声をかけられて、職員室に行っていたはずだ。
何があったのか訊いてもいいだろうか。
そんな考えを見透かされたように、陽向はにっこり笑って腕章とバッジを見せてくれた。
「さっき先生に、監査部に入らないかってスカウトされたんだ。入るって即答して、印になるものをもらってきた」
監査部というのは、学園全体でおこる問題を解決していく部署だ。
室星先生からスカウトされないと入れない、数年前にできた制度…陽向は人から話を聞き出すのが上手いし向いている。
「もしかして、嫌だった?」
「嫌じゃない」
「これで資料も手に入れやすくなるし、誰かのためになるなら一石二鳥かなって」
「聞き上手には向くと思う」
監査部室内には、学園内でおきた事件のほとんどが資料として残されている。
私たちが集めている新聞の切り抜きなんて比べ物にならない量の暗い事件が眠っているかもしれない。
「ほんとに俺に向いてると思う?」
「向いてない人をスカウトしないと思う」
「そっか…」
できるだけ言葉少なく会話を終わらせようとするのに、なかなか離れてくれない。
「監査部の仕事はしなくていいの?」
「そうだった!それじゃあこれ、一応目を通しておいて」
ぱたぱたと走り去っていく音を聞きながら、メモされた内容を整理していく。
なんでも願いを叶えてくれる存在の噂というものが広まっているようで、特に悪意は感じなかった。
ただ、ひとつ引っかかることがある。
パソコンを使って掲示板に侵入すると、やっぱり噂にはなっていないことが書かれていた。
「…陽向、今少しいい?」
『ちょうど会議が終わって、資料漁ってるところだけど…何かあった?』
「URL送ったから見て」
スマホでやりとりしながら情報を集める。
本当はもっと手っ取り早い方法があるけれど、力が無自覚に発動してしまったので今はあまり使いたくない。
『吊るされた人のカード?』
「代償、らしい」
『つまり、吊るされて殺されるってこと!?願いが叶うはずなのに、どうして……』
「無事に帰されるとは一言も書かれてない」
願いを叶えて帰ってきた人の証言がどこにもないのは、みんな捕まってしまっているからじゃないだろうか。
あくまで仮説だけど、調べて見る必要がありそうだ。
『気になるものを見つけたからそっちに行くよ。このサイト、もうちょっと詳しく見たいしね』
「分かった」
陽向を待つ間、柑橘系のお茶を淹れて来るのを待つ。
どんなものが見つかったのか、少し不安に思いながら。
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