約束のスピカ

黒蝶

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約束のスピカ

問11

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部屋に籠もって図鑑に目を通しながら、2年くらい前のことを思い出す。
…それは、あまりいい思い出とはいえないものだった。


1年生の5月、クラスで泣いている子がいた。
なんとなくその子に話しかけてみようとこっそり後をつける。
『お願い、もうやめて…』
『小学校からの馴染みじゃん?そんなこと言わずにさあ…』
『俺様に偉うな口利いていいと思ってんのか?』
『ひっ……』
違うクラスの生徒たちに囲まれたその子の姿は家での僕を見ているみたいだった。
…ついでにいうと、視えるというのが普通じゃないってことを知らなかった小学生時代を思い出す。
視えることを知られた僕は徹底的に避けられた。
おばあちゃんが死ぬ前に約束していたこともあってこの烏合学園うごうがくえんを受験したけど、そうならなかったら今の僕はあの子の位置にいたかもしれない。
『何してるの?嫌がってるよ?』
『はあ?おまえ誰だよ』
『えっと…その子のクラスメイト。授業遅れちゃうから行こう』
後ろが騒がしかったけど、そんなの無視してその子の手を引く。
『あ、あの!』
『ごめん』
急に手を引っ張られたら誰だって怖い。
『そうじゃなくて…助けてくれてありがとう』
『…見ているだけなんて嫌だったから。じゃあ、えっと、また』
このまま何事もなく終わればよかったのに、次の日から標的は僕になった。
落書きを消して片づけていると、昨日の子が手伝ってくれたんだ。
『あの、味方でいるから!』
いきなりそんなことを言われて戸惑ったけど、曖昧に笑って返した。
『ありがとう』
それからしばらくは話していたけど、2学期が始まる前にその子は転校していった。
僕が知らないところで嫌がらせを受けていたのかもしれない。
それとも、怖かったからなのかもしれない。
…ひとつ分かったのは、ずっとなんて存在しないことだけだ。


「……嫌なことを思い出したな」
かたんと部屋の扉の前で音がして慌てて開けると、色々な教科の問題集といじめの最終報告書が置かれていた。
【暇だろうからよければ使って。しばらく忙しくなりそうだから会いに行けないかもしれない。
ありがとう。昨日の言葉、すごく嬉しかったよ】
新聞記事の切り抜きに、先生の名前が載った報告書、クロスワードや辞典まで色々なものが置いてあった。
「…何かあったのかな」
部屋にあるぬいぐるみに話しかけながら、外が朝になるのを待つ。
誰にも見られないだろうと分かっていても、やっぱり人が多い場所は苦手だ。
「…でさ、影を操る何かの噂って聞いた?」
「聞いた聞いた!影に乗りうつられて、最後は取り殺されちゃうんだって」
「怖っ…襲われたら終わりじゃん」
無意味だと分かっていても、叫ばずにはいられない。
「違う!おかげさんは、そんなことしない!」
誰にも届かない声が虚しく響く。
がやがやと騒ぐ人たちは何も知らないだろうけど、すごくいい人なんだ。
……しばらく会えないって書いてあったのは、今流行っている噂が原因なのかもしれない。
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