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約束のスピカ
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やはり複雑な家庭環境を抱えているのは間違いない。
「…その話、もう少し聞いてもいいか?」
「あんまり話したくない」
即答だった。辛いことを何度も思い返させるのは酷だろう。
それを承知のうえだったが、本人が言いたがらないことを無理矢理聞き出すわけにはいかない。
「そうか。なら、」
「話したくない、けど。ちょっとだけならいいよ」
「いいのか?」
「先生になら。…僕の家、誰も僕に興味がないんだ。あの家には可愛い子どもがきたから」
もしかすると、今の両親の間に子どもができたのだろうか。
そうなれば今以上に疎外感を覚えるだろう。
家でも孤独で誰も自分に興味を示さないと分かっているから、毎晩学園の屋上で星を眺めていたのだろうか。
「誰にも名前、呼ばれないから。呼んでほしいって思っちゃったんだ」
誰にも名前を呼ばれないと、その場にいないような気がしてくる。
最終的に自分でも分からなくなってきて、忘れたと気づいたときにはもう遅い。
「本当に大変だったな」
「ねえ、先生。また名前呼んで?」
「俺はいい名前だと思うよ、瞬」
「ありがとう。先生のおかげでちょっと元気になった…気がする。七夕の話の続きするね」
──仕事から帰った男が家を見ると、手紙だけが置かれていた。
『わらじを1000足作って竹の下に埋めてください』
男が手紙のいうとおりにすると、天の国まで行く道ができて無事に再会することができました。
ずっと一緒に過ごせると思ったのも束の間、その光景を気に食わない天女の父親が男に試練を課します。
無事に達成できるか迷っている男に、天女は言われたことと反対のことをすれば達成できると耳打ちしました。
男は言われたとおり最後まで天女の父が言うことと逆の行動を取り続け、ようやく一緒にいる許可をもらいました。
しかし、最後の最後で男は瓜を縦に切るよう天女の父から言われ、その言葉どおり縦に切ってしまいました。
「そこから溢れ出した水によって、ふたりは年に1度しか会うことを許されなくなりました」
「…悲しい話だな」
「酷いよね。頑張っても、最後の最後で潰される。たしかに羽衣を隠したのはいけないことだと思う。
でも、神様が人間を救ってくれるなら、どうして働き者で一途に想ってた男を救ってくれなかったんだろう」
流山の瞳が闇一色に染まり、なんとなく自分に重ねているように見える。
ここでも俺はどう言葉をかければいいのか分からず黙ってしまった。
「ごめん。先生を困らせるつもりじゃなかったんだ。…流星群、もうすぐだね」
「そうだな」
「冬になったら、またプレアデスを探したいな」
「それまでに他の流星群もあるかもしれない。見られる日が楽しみだ」
「そうだね。…僕もここで見られるのを楽しみにしてる」
流山は少しだけ明るい表情をして、今夜は戻ると図鑑を抱え帰っていった。
今夜の笑みはいつもより穏やかだった気がする。
《アノ子、美味シイ?》
「…しつこい」
目の前に現れたのは、最近人間を喰うと噂になっている怪異だ。
いつものように手袋をはめ、相手に糸を向ける。
…残念ながら、俺は穏やかな夜を過ごせそうにない。
「…その話、もう少し聞いてもいいか?」
「あんまり話したくない」
即答だった。辛いことを何度も思い返させるのは酷だろう。
それを承知のうえだったが、本人が言いたがらないことを無理矢理聞き出すわけにはいかない。
「そうか。なら、」
「話したくない、けど。ちょっとだけならいいよ」
「いいのか?」
「先生になら。…僕の家、誰も僕に興味がないんだ。あの家には可愛い子どもがきたから」
もしかすると、今の両親の間に子どもができたのだろうか。
そうなれば今以上に疎外感を覚えるだろう。
家でも孤独で誰も自分に興味を示さないと分かっているから、毎晩学園の屋上で星を眺めていたのだろうか。
「誰にも名前、呼ばれないから。呼んでほしいって思っちゃったんだ」
誰にも名前を呼ばれないと、その場にいないような気がしてくる。
最終的に自分でも分からなくなってきて、忘れたと気づいたときにはもう遅い。
「本当に大変だったな」
「ねえ、先生。また名前呼んで?」
「俺はいい名前だと思うよ、瞬」
「ありがとう。先生のおかげでちょっと元気になった…気がする。七夕の話の続きするね」
──仕事から帰った男が家を見ると、手紙だけが置かれていた。
『わらじを1000足作って竹の下に埋めてください』
男が手紙のいうとおりにすると、天の国まで行く道ができて無事に再会することができました。
ずっと一緒に過ごせると思ったのも束の間、その光景を気に食わない天女の父親が男に試練を課します。
無事に達成できるか迷っている男に、天女は言われたことと反対のことをすれば達成できると耳打ちしました。
男は言われたとおり最後まで天女の父が言うことと逆の行動を取り続け、ようやく一緒にいる許可をもらいました。
しかし、最後の最後で男は瓜を縦に切るよう天女の父から言われ、その言葉どおり縦に切ってしまいました。
「そこから溢れ出した水によって、ふたりは年に1度しか会うことを許されなくなりました」
「…悲しい話だな」
「酷いよね。頑張っても、最後の最後で潰される。たしかに羽衣を隠したのはいけないことだと思う。
でも、神様が人間を救ってくれるなら、どうして働き者で一途に想ってた男を救ってくれなかったんだろう」
流山の瞳が闇一色に染まり、なんとなく自分に重ねているように見える。
ここでも俺はどう言葉をかければいいのか分からず黙ってしまった。
「ごめん。先生を困らせるつもりじゃなかったんだ。…流星群、もうすぐだね」
「そうだな」
「冬になったら、またプレアデスを探したいな」
「それまでに他の流星群もあるかもしれない。見られる日が楽しみだ」
「そうだね。…僕もここで見られるのを楽しみにしてる」
流山は少しだけ明るい表情をして、今夜は戻ると図鑑を抱え帰っていった。
今夜の笑みはいつもより穏やかだった気がする。
《アノ子、美味シイ?》
「…しつこい」
目の前に現れたのは、最近人間を喰うと噂になっている怪異だ。
いつものように手袋をはめ、相手に糸を向ける。
…残念ながら、俺は穏やかな夜を過ごせそうにない。
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