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Other Story(記念ものが多いです。本篇ネタバレはできるだけ避けます)
Sweet Christmas.
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「...エリック」
「どうかしたのか?」
目の前の少女は、きっとメルより世間一般とずれている。
...銃で燃えたチキンがそれを物語っていた。
「いいか、アイリス。料理に銃は使わない。このオーブンというもので温めてだな...」
「オーブン?」
(...これ以上なんて説明すればいいんだ)
耳元からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「っ、聞いてたならおまえが説明しろ」
『エリックがしどろもどろしてるの、珍しいから...タンドリーチキンがボムチキンになった?』
通信機から聞こえるカムイののんびりとした声が、余計に俺を混乱させる。
「...頼むから、アイリスに説明してくれ」
『じゃあさ、俺が言ったとおりに説明してみて』
そこからカムイのガイドどおりに話してみると、アイリスはうんうんと頷いた。
「...こんな便利なものがこの世界にあるなんて」
その一言を聞いてはっとした。
...オーブンを見たことがない奴にいきなり使ってみろなんて言うのは、問題ではないだろうか。
(どこから教えれば分かりやすいんだ...?)
「エリック、この野菜切ってもいい?」
「ん?ああ...」
どうやら野菜を切るのはなれているらしく、手際よくこなしていた。
(もしかしたら俺より上手いかもな)
『待って、メル!そのままやると危ないから...っ』
今度は通信機の向こうから少し焦った声が聞こえる。
笑ってしまうのはなんだか申し訳なくて、俺はそのまま料理に集中した。
アイリスの手つきはかなり危ない部分とそうでない部分の差が激しい。
「アイリス、次はこれを切ってくれるか?」
「...分かった」
少し声が沈んでいるような気がする。
(気のせい、か...?)
「手当てしないと」
「どこか怪我したのか?」
「...私じゃなくて、エリックが」
指摘されるまで全く気づかなかったが、指を思いの外深く切ってしまっていた。
血がだばだばと流れていくのを見て、ようやく事の重大さに気づく。
(面倒だな、この体質は)
「痛く、ないの?」
「ああ。言われるまで怪我をしたことにさえ気づいてなかった」
アイリスは少し驚いていたが、そういえばと小さく呟いた。
「...カムイが言ってた。『エリックは痛みを感じづらいから気をつけて』って」
「...そうか」
余計なことを言いやがってという思いと、親友に心配をさせてしまったことへの申し訳なさと...様々な想いが一緒になる。
(後でプレゼントを渡しに行くか)
毎年恒例のバーでの乾杯。
アイリスが寝静まったら行こうと思いながら、手早く料理の準備をすすめた。
「...手当て終わり」
「ありがとう」
アイリスが再び作業に戻ったとき、ふとあることに気づく。
(あれが足りてないな)
「エリック...?」
「おまえ、ツリーは飾ったことあるか?」
アイリスは首を傾げていて、やはり見たことがなかったらしい。
「...一緒に、飾ってみるか?」
「うん」
どうしてか女性相手には余計に不器用になってしまう。
(...くそっ、カムイみたいにスマートにやれればいいのに)
「エリック、それって今すぐできる?」
わくわくした様子で聞かれるものだから、面倒で出していなかったとか、無くても大丈夫だとは言えなくなってしまった。
「料理が冷めるまでに終わらせるぞ」
「うん」
そうして小さなツリーを飾りつけていく。
「これはこっち?」
「ああ。...で、その星はてっぺんだ」
「おお...すごい」
いつからか使わなくなっていたツリー。
まさかこうして飾りつける日がくるとは思っていなかった。
(あとはモールを飾りつければ終わりか)
二人でやればそんなに時間がかからずに終わり、モールを巻こうとした瞬間、ツリーが倒れそうになる。
「...!」
「アイリス!」
二人で押さえ、なんとか元の位置に戻す。
「大丈夫か?」
「...私より、エリックが心配」
アイリスが無事だったとほっとしていると、先程手当てしてもらったばかりの左手をきゅっと掴まれる。
「...!」
(なんなんだ、この感覚...)
いつもなら拒絶したくなるはずなのに、この瞬間が続けばいいのにと思っている自分に戸惑う。
「料理が冷める。...食べよう」
「そう、だな」
そうぎこちなく答えて、二人で黙々と食べていく。
後でアイリスに渡すプレゼントのことやバーに行くことを考えようとしたが、何故かつい先程の出来事ばかり思い浮かんでしまう。
調味料を変えたわけでもないのに、いつもと少し違った甘い味がしたような気がした。
ーーその後会話を全て聞いていたカムイにからかわれることになったのは、言うまでもない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
久しぶりに書きました。
『エリックとアイリスのクリスマス』、楽しんでいただけていれば幸いです。
エリック視点オンリーって意外と難しかった...。
「どうかしたのか?」
目の前の少女は、きっとメルより世間一般とずれている。
...銃で燃えたチキンがそれを物語っていた。
「いいか、アイリス。料理に銃は使わない。このオーブンというもので温めてだな...」
「オーブン?」
(...これ以上なんて説明すればいいんだ)
耳元からくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「っ、聞いてたならおまえが説明しろ」
『エリックがしどろもどろしてるの、珍しいから...タンドリーチキンがボムチキンになった?』
通信機から聞こえるカムイののんびりとした声が、余計に俺を混乱させる。
「...頼むから、アイリスに説明してくれ」
『じゃあさ、俺が言ったとおりに説明してみて』
そこからカムイのガイドどおりに話してみると、アイリスはうんうんと頷いた。
「...こんな便利なものがこの世界にあるなんて」
その一言を聞いてはっとした。
...オーブンを見たことがない奴にいきなり使ってみろなんて言うのは、問題ではないだろうか。
(どこから教えれば分かりやすいんだ...?)
「エリック、この野菜切ってもいい?」
「ん?ああ...」
どうやら野菜を切るのはなれているらしく、手際よくこなしていた。
(もしかしたら俺より上手いかもな)
『待って、メル!そのままやると危ないから...っ』
今度は通信機の向こうから少し焦った声が聞こえる。
笑ってしまうのはなんだか申し訳なくて、俺はそのまま料理に集中した。
アイリスの手つきはかなり危ない部分とそうでない部分の差が激しい。
「アイリス、次はこれを切ってくれるか?」
「...分かった」
少し声が沈んでいるような気がする。
(気のせい、か...?)
「手当てしないと」
「どこか怪我したのか?」
「...私じゃなくて、エリックが」
指摘されるまで全く気づかなかったが、指を思いの外深く切ってしまっていた。
血がだばだばと流れていくのを見て、ようやく事の重大さに気づく。
(面倒だな、この体質は)
「痛く、ないの?」
「ああ。言われるまで怪我をしたことにさえ気づいてなかった」
アイリスは少し驚いていたが、そういえばと小さく呟いた。
「...カムイが言ってた。『エリックは痛みを感じづらいから気をつけて』って」
「...そうか」
余計なことを言いやがってという思いと、親友に心配をさせてしまったことへの申し訳なさと...様々な想いが一緒になる。
(後でプレゼントを渡しに行くか)
毎年恒例のバーでの乾杯。
アイリスが寝静まったら行こうと思いながら、手早く料理の準備をすすめた。
「...手当て終わり」
「ありがとう」
アイリスが再び作業に戻ったとき、ふとあることに気づく。
(あれが足りてないな)
「エリック...?」
「おまえ、ツリーは飾ったことあるか?」
アイリスは首を傾げていて、やはり見たことがなかったらしい。
「...一緒に、飾ってみるか?」
「うん」
どうしてか女性相手には余計に不器用になってしまう。
(...くそっ、カムイみたいにスマートにやれればいいのに)
「エリック、それって今すぐできる?」
わくわくした様子で聞かれるものだから、面倒で出していなかったとか、無くても大丈夫だとは言えなくなってしまった。
「料理が冷めるまでに終わらせるぞ」
「うん」
そうして小さなツリーを飾りつけていく。
「これはこっち?」
「ああ。...で、その星はてっぺんだ」
「おお...すごい」
いつからか使わなくなっていたツリー。
まさかこうして飾りつける日がくるとは思っていなかった。
(あとはモールを飾りつければ終わりか)
二人でやればそんなに時間がかからずに終わり、モールを巻こうとした瞬間、ツリーが倒れそうになる。
「...!」
「アイリス!」
二人で押さえ、なんとか元の位置に戻す。
「大丈夫か?」
「...私より、エリックが心配」
アイリスが無事だったとほっとしていると、先程手当てしてもらったばかりの左手をきゅっと掴まれる。
「...!」
(なんなんだ、この感覚...)
いつもなら拒絶したくなるはずなのに、この瞬間が続けばいいのにと思っている自分に戸惑う。
「料理が冷める。...食べよう」
「そう、だな」
そうぎこちなく答えて、二人で黙々と食べていく。
後でアイリスに渡すプレゼントのことやバーに行くことを考えようとしたが、何故かつい先程の出来事ばかり思い浮かんでしまう。
調味料を変えたわけでもないのに、いつもと少し違った甘い味がしたような気がした。
ーーその後会話を全て聞いていたカムイにからかわれることになったのは、言うまでもない。
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久しぶりに書きました。
『エリックとアイリスのクリスマス』、楽しんでいただけていれば幸いです。
エリック視点オンリーって意外と難しかった...。
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