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Other Story(記念ものが多いです。本篇ネタバレはできるだけ避けます)
Merry,Merry, Christmas!(当日篇)
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ー*ー
当日。
カムイの指示通りにケーキを作っていると、切り株のような形をしたものができあがった。
「カムイ、これは一体なんですか?」
「ああ、それはブッシュ・ド・ノエルっていうんだ。去年は色々あって作れなかったもんね」
「そう、ですね...」
(去年は拐われてしまって...)
思い出すと、また怖くなってきてしまう。
「大丈夫だよ。もうあんな思いは絶対にさせないって誓うから」
「カムイ...ありがとうございます!」
今はカムイがずっと側にいてくれる。
そう思うと、不思議と怖くなくなっていく。
「できました!」
チキンにブッシュ・ド・ノエル、いつもより豪華な紅茶...クリスマスツリーも飾りつけした時より光って見える。
「カムイはやっぱりお料理が上手ですね」
「...っ」
「カムイ...?」
ふと顔をあげると、カムイの瞳からはぽたぽたと涙が零れ落ちていた。
「どうしたんですか?もしかして傷が痛んで、」
「違う...違うんだ。ごめん...」
(急にどうしたんでしょう...?)
ー**ー
準備をしていた時から、実は涙を堪えていた。
懐かしくて、それでいて...思い出すとやはり辛い。
(あの頃は、近くに両親がいるのが当たり前で、いなくなるなんて思ってなかった)
「私でよければ、力にならせてください」
「メル...?」
「守られてばかりじゃなくて、私もカムイを守りたいんです」
(メルになら、話してもいいかもしれない)
「昔のことを、思い出しちゃったんだ」
「...ご両親のことですか?」
「うん」
『カムイはやっぱりお料理が上手ね』
『そうかな?』
『そうよ』
そう言って笑っていた母の顔を思い出す。
明日がくると、そう信じていた。
だが、無情にも平凡な日はこなかった。
「とっても優しいご両親だったんですね」
「...うん」
「それならきっと...カムイが毎日一生懸命な所も、きっとちゃんと視てくれているのではないでしょうか?」
「え?」
「死んでしまった人にはもう会えませんが、きっとどこかでカムイを心配してくださっているのではないかと思うんです」
メルらしい発想だ。
...俺にはできない考えだ。
「だから、これから幸せになることを一緒に考えましょう?」
「...メル」
「カムイは、今のままでいいんだと思います」
そう言ってメルはいつものようにふわふわと笑っていた。
...どうしてメルは、いつも俺が欲しいと思った言葉をくれるんだろうか。
(敵わないな、メルには)
「ありがとう」
その頃には涙はすっかり止まっていて、今度は俺の番だと思った。
「どうしてメルはそわそわしているの?」
ー*ー
カムイに気づかれてしまった。
「えっと、それは...」
「さっきのとは別の理由もあるんだよね?」
どうしてこの人には分かってしまうんだろう。
「おばあさまのことを、思い出していたんです」
「何か思い出があるの?」
「はい。私の家ではごちそうはありませんでしたし、こんなに立派なツリーも勿論ありませんでした。でも、いつもおばあさまが何かプレゼントを買ってきてくださって...」
「メル」
カムイに名前を呼ばれて、そのまま勢いよくぎゅっと抱きしめられる。
「そんな顔しないで。...俺が側にいて、いつだって一緒に考えるから。ちゃんとメルを守るから。だから...我慢しなくていいんだよ」
「...っ」
私はそのまま泣いてしまった。
寒かった日々を思い出して。
カムイのぬくもりに触れて。
...今の時間が決して当たり前じゃないことを理解して。
「カムイ...このまま、ぎゅってしていてもらっても...っ、いいですか?」
「勿論。メルが不安になったら何回だって俺がこうして支えるから」
ー**ー
本当は、傷が痛い。
すぐに横になりたいほど、酷く痛む。
だが、メルの不安がなくなるまではこうしていたい。
(今までのことを思い出して泣いているんだろうな)
そしてこの時間が当然のように訪れるものではないことを、俺たち二人は知っている。
だから、今を大切にしたい。
ずっと大切にして生きていきたい。
「...っ」
メルの髪に触れると、ぴくりと体が反応する。
だが、嫌がっている様子はないので俺はそのまま頭を撫でた。
「カムイ...いなくならないでくださいね?」
「それはこっちの台詞だよ」
俺たちは笑いあう。
ロマンチックとは程遠いものになってしまったが、これが俺たちの愛の形だ。
(人前であんなに泣いたのはいつ以来だろう?)
「俺がメルを守るよ」
「それなら私がカムイを守ります」
窓の外は、雪景色。
真っ白な世界に埋もれながら、俺たちはそっとキスを交わした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読者様方、こんばんは。
ごめんなさい。
切ないというよりは、シリアスに近いものになってしまいました...。
書いているうちに、こんなはずじゃなかったと思いつつ、もう修正のしようがなかった為このままいかせていただきました。
ギリギリセーフ、でしょうか?
読者様方もどうか楽しい聖夜をお過ごしください。
当日。
カムイの指示通りにケーキを作っていると、切り株のような形をしたものができあがった。
「カムイ、これは一体なんですか?」
「ああ、それはブッシュ・ド・ノエルっていうんだ。去年は色々あって作れなかったもんね」
「そう、ですね...」
(去年は拐われてしまって...)
思い出すと、また怖くなってきてしまう。
「大丈夫だよ。もうあんな思いは絶対にさせないって誓うから」
「カムイ...ありがとうございます!」
今はカムイがずっと側にいてくれる。
そう思うと、不思議と怖くなくなっていく。
「できました!」
チキンにブッシュ・ド・ノエル、いつもより豪華な紅茶...クリスマスツリーも飾りつけした時より光って見える。
「カムイはやっぱりお料理が上手ですね」
「...っ」
「カムイ...?」
ふと顔をあげると、カムイの瞳からはぽたぽたと涙が零れ落ちていた。
「どうしたんですか?もしかして傷が痛んで、」
「違う...違うんだ。ごめん...」
(急にどうしたんでしょう...?)
ー**ー
準備をしていた時から、実は涙を堪えていた。
懐かしくて、それでいて...思い出すとやはり辛い。
(あの頃は、近くに両親がいるのが当たり前で、いなくなるなんて思ってなかった)
「私でよければ、力にならせてください」
「メル...?」
「守られてばかりじゃなくて、私もカムイを守りたいんです」
(メルになら、話してもいいかもしれない)
「昔のことを、思い出しちゃったんだ」
「...ご両親のことですか?」
「うん」
『カムイはやっぱりお料理が上手ね』
『そうかな?』
『そうよ』
そう言って笑っていた母の顔を思い出す。
明日がくると、そう信じていた。
だが、無情にも平凡な日はこなかった。
「とっても優しいご両親だったんですね」
「...うん」
「それならきっと...カムイが毎日一生懸命な所も、きっとちゃんと視てくれているのではないでしょうか?」
「え?」
「死んでしまった人にはもう会えませんが、きっとどこかでカムイを心配してくださっているのではないかと思うんです」
メルらしい発想だ。
...俺にはできない考えだ。
「だから、これから幸せになることを一緒に考えましょう?」
「...メル」
「カムイは、今のままでいいんだと思います」
そう言ってメルはいつものようにふわふわと笑っていた。
...どうしてメルは、いつも俺が欲しいと思った言葉をくれるんだろうか。
(敵わないな、メルには)
「ありがとう」
その頃には涙はすっかり止まっていて、今度は俺の番だと思った。
「どうしてメルはそわそわしているの?」
ー*ー
カムイに気づかれてしまった。
「えっと、それは...」
「さっきのとは別の理由もあるんだよね?」
どうしてこの人には分かってしまうんだろう。
「おばあさまのことを、思い出していたんです」
「何か思い出があるの?」
「はい。私の家ではごちそうはありませんでしたし、こんなに立派なツリーも勿論ありませんでした。でも、いつもおばあさまが何かプレゼントを買ってきてくださって...」
「メル」
カムイに名前を呼ばれて、そのまま勢いよくぎゅっと抱きしめられる。
「そんな顔しないで。...俺が側にいて、いつだって一緒に考えるから。ちゃんとメルを守るから。だから...我慢しなくていいんだよ」
「...っ」
私はそのまま泣いてしまった。
寒かった日々を思い出して。
カムイのぬくもりに触れて。
...今の時間が決して当たり前じゃないことを理解して。
「カムイ...このまま、ぎゅってしていてもらっても...っ、いいですか?」
「勿論。メルが不安になったら何回だって俺がこうして支えるから」
ー**ー
本当は、傷が痛い。
すぐに横になりたいほど、酷く痛む。
だが、メルの不安がなくなるまではこうしていたい。
(今までのことを思い出して泣いているんだろうな)
そしてこの時間が当然のように訪れるものではないことを、俺たち二人は知っている。
だから、今を大切にしたい。
ずっと大切にして生きていきたい。
「...っ」
メルの髪に触れると、ぴくりと体が反応する。
だが、嫌がっている様子はないので俺はそのまま頭を撫でた。
「カムイ...いなくならないでくださいね?」
「それはこっちの台詞だよ」
俺たちは笑いあう。
ロマンチックとは程遠いものになってしまったが、これが俺たちの愛の形だ。
(人前であんなに泣いたのはいつ以来だろう?)
「俺がメルを守るよ」
「それなら私がカムイを守ります」
窓の外は、雪景色。
真っ白な世界に埋もれながら、俺たちはそっとキスを交わした。
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読者様方、こんばんは。
ごめんなさい。
切ないというよりは、シリアスに近いものになってしまいました...。
書いているうちに、こんなはずじゃなかったと思いつつ、もう修正のしようがなかった為このままいかせていただきました。
ギリギリセーフ、でしょうか?
読者様方もどうか楽しい聖夜をお過ごしください。
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