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Until the day when I get married.-Light of a new request-
番外編『The story spun with you』ーSelect1,Forestー(前篇)
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そこは、深い深い森のなか。
私は独りでただただ進む。
ーーおうちに帰りたい。
そんな言葉が聞こえてきて、私は導かれるように森の奥に進んだ。
(独りは怖いです...)
ー*ー
更に奥へ進むと、そこにはお菓子でできた大きな家があった。
(あそこに人が住んでいるのでしょうか?)
「ごめんください」
「...お困りかい、お嬢さん」
その嗄れた声は、どこか聞き覚えがあった。
「えっと、『森で迷子になってしまったんです』」
...変だ。
言葉が勝手に出てくる。
「おまえには、兄妹がいるんじゃないかい?」
「いえ、私は...『私には、兄がいます』」
(どうなっているんですか、これ...!)
そのあとも言葉が止まらず、やむを得ずその家に入ることになった。
足が勝手に動いて止まらないのだ。
そのとき、どす黒い何かが聞こえた。
《しめしめ、こいつも食ってやろう》
...食べる?
ー**ー
「いきなり何をするんだ!」
がしゃがしゃと牢屋を叩くが、全くびくともしない。
「ひっひっひ...グレーテルがくるまで待ってもらうよ、ヘンゼル」
『グレーテル』『牢のなか』『ヘンゼル』...物語のなかに入った、とでもいうのだろうか。
俺は薄汚れた紙切れを見つけた。
【きみには、能力を選択する権利がある。水なんていうのを授けよう】
...それならここから出して、元の世界に還してくれと願うのは、いけないことだろうか。
「さあ、グレーテル。こちらへおいで」
はっと意識を戻すと、そこには見覚えのある可愛らしい少女がいた。
「メル...!」
「『メル』?誰だいそれは」
「『ごめんなさい、おばあさん。グレーテルを探してくれてありがとう』」
...付け焼き刃でも、何もしないよりはいい。
(どうやってメルと話せばいいんだ)
「グレーテル、私はご飯を作ってくるからここでいい子にしてな!」
「は、はい...」
メルはすっかり怯えている。
(メル...)
「大丈夫ですよ、カムイ。私、人の心が覗けるみたいなので...」
(何を言っているんだ?)
「そう言われても、何故かこうなってしまっていたんです」
俺は悟った。
俺に能力が付与されたとあった。
つまり、メルが同じ状態でもおかしくはないということだ。
ー*ー
自分でも分からない。
だが、何故かそれだけは分かる。
「相手の心が見えるなんて、変な気分です」
「...俺にも能力がついたらしいんだ」
「そうなんですか?」
「メル、魔女の心を視てここの鍵を探すことってできる?」
「はい!やってみます」
「...絶対二人で帰ろう」
「はい!ところでカムイの能力って、」
「なにお喋りしてるんだい!」
「『ごめんなさい、お腹が減っているの』ねえ、おばあさん。この牢の鍵はどこにあるんですか?」
口が勝手に動くのをなんとか抑え、目の前のおばあさんに尋ねてみた。
「ふん!そんなの知らなくていいだろう!」
《暖炉の近くにかけてあるのがそうだなんて、この子は気づかないだろうからね!》
(暖炉の近く...)
「ヘンゼル、変なことを吹きこんだりしてないだろうね!」
「何を言っているの、おばあさん。僕はそんなことしないよ」
こういうとき、カムイは本当にすごいと思う。
私ならきっと、慌ててしまって上手く言えない。
「ねえ、おばあさん。ここから出してよ...。僕もお腹が減ったよ」
「仕方ないねえ...」
開けてくれるのかと思ったが、やはり違うようだ。
小窓のような場所が開き、そこからカムイの食事が運びいれられた。
《やっぱり開けてくれるほど優しくないか...》
《この子にはしっかり食べてもらわないといけないからね...》
二人の心の声が聞こえる。
カムイは嬉しそうに頬張っていた。
《こんなので太るような鍛え方してないし。でもまあ、大人しく食べないとストーリーが進まないからね》
心でそう毒づきながら。
ー**ー
メルが不安がっているのがよく分かる。
心を読むことはできないが、メルの表情は強ばっていた。
そのまま夜になり、メルはそっとベッドを抜け出した。
(見つからないように、気をつけて)
「はい...」
メルが小刻みに震える様子を見て、おまじないをかけることにした。
(二人で還って、ご飯を一緒に食べよう。それからいつもどおりに話して、疲れを癒そう?)
「カムイ...」
やはり心のなかが駄々漏れなのはとてつもなく恥ずかしい。
(メルが見つかりませんように)
メルが戻ってくるまで、俺はあることを試してみることにした。
そうこうしているうちに、メルが小走りで戻ってきた。
どうやら魔女には見つからなかったようだ。
「どれで開けられるんでしょうか...?」
「数が多すぎるね...」
(こんなことを頼みたくはないけど...)
「私が本当に持っている力で探してみますね!」
メルは左眼でじっと見ている。
「これです!」
力は健在らしい。
「メル、作戦をたてよう」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こうしてヘンゼルとグレーテルは、悪い魔女を欺き、元の世界に還る方法を探すことにしました。
ヘンゼルの能力も、必ず役に立つでしょう。
グレーテルの勇気も、きっと。
私は独りでただただ進む。
ーーおうちに帰りたい。
そんな言葉が聞こえてきて、私は導かれるように森の奥に進んだ。
(独りは怖いです...)
ー*ー
更に奥へ進むと、そこにはお菓子でできた大きな家があった。
(あそこに人が住んでいるのでしょうか?)
「ごめんください」
「...お困りかい、お嬢さん」
その嗄れた声は、どこか聞き覚えがあった。
「えっと、『森で迷子になってしまったんです』」
...変だ。
言葉が勝手に出てくる。
「おまえには、兄妹がいるんじゃないかい?」
「いえ、私は...『私には、兄がいます』」
(どうなっているんですか、これ...!)
そのあとも言葉が止まらず、やむを得ずその家に入ることになった。
足が勝手に動いて止まらないのだ。
そのとき、どす黒い何かが聞こえた。
《しめしめ、こいつも食ってやろう》
...食べる?
ー**ー
「いきなり何をするんだ!」
がしゃがしゃと牢屋を叩くが、全くびくともしない。
「ひっひっひ...グレーテルがくるまで待ってもらうよ、ヘンゼル」
『グレーテル』『牢のなか』『ヘンゼル』...物語のなかに入った、とでもいうのだろうか。
俺は薄汚れた紙切れを見つけた。
【きみには、能力を選択する権利がある。水なんていうのを授けよう】
...それならここから出して、元の世界に還してくれと願うのは、いけないことだろうか。
「さあ、グレーテル。こちらへおいで」
はっと意識を戻すと、そこには見覚えのある可愛らしい少女がいた。
「メル...!」
「『メル』?誰だいそれは」
「『ごめんなさい、おばあさん。グレーテルを探してくれてありがとう』」
...付け焼き刃でも、何もしないよりはいい。
(どうやってメルと話せばいいんだ)
「グレーテル、私はご飯を作ってくるからここでいい子にしてな!」
「は、はい...」
メルはすっかり怯えている。
(メル...)
「大丈夫ですよ、カムイ。私、人の心が覗けるみたいなので...」
(何を言っているんだ?)
「そう言われても、何故かこうなってしまっていたんです」
俺は悟った。
俺に能力が付与されたとあった。
つまり、メルが同じ状態でもおかしくはないということだ。
ー*ー
自分でも分からない。
だが、何故かそれだけは分かる。
「相手の心が見えるなんて、変な気分です」
「...俺にも能力がついたらしいんだ」
「そうなんですか?」
「メル、魔女の心を視てここの鍵を探すことってできる?」
「はい!やってみます」
「...絶対二人で帰ろう」
「はい!ところでカムイの能力って、」
「なにお喋りしてるんだい!」
「『ごめんなさい、お腹が減っているの』ねえ、おばあさん。この牢の鍵はどこにあるんですか?」
口が勝手に動くのをなんとか抑え、目の前のおばあさんに尋ねてみた。
「ふん!そんなの知らなくていいだろう!」
《暖炉の近くにかけてあるのがそうだなんて、この子は気づかないだろうからね!》
(暖炉の近く...)
「ヘンゼル、変なことを吹きこんだりしてないだろうね!」
「何を言っているの、おばあさん。僕はそんなことしないよ」
こういうとき、カムイは本当にすごいと思う。
私ならきっと、慌ててしまって上手く言えない。
「ねえ、おばあさん。ここから出してよ...。僕もお腹が減ったよ」
「仕方ないねえ...」
開けてくれるのかと思ったが、やはり違うようだ。
小窓のような場所が開き、そこからカムイの食事が運びいれられた。
《やっぱり開けてくれるほど優しくないか...》
《この子にはしっかり食べてもらわないといけないからね...》
二人の心の声が聞こえる。
カムイは嬉しそうに頬張っていた。
《こんなので太るような鍛え方してないし。でもまあ、大人しく食べないとストーリーが進まないからね》
心でそう毒づきながら。
ー**ー
メルが不安がっているのがよく分かる。
心を読むことはできないが、メルの表情は強ばっていた。
そのまま夜になり、メルはそっとベッドを抜け出した。
(見つからないように、気をつけて)
「はい...」
メルが小刻みに震える様子を見て、おまじないをかけることにした。
(二人で還って、ご飯を一緒に食べよう。それからいつもどおりに話して、疲れを癒そう?)
「カムイ...」
やはり心のなかが駄々漏れなのはとてつもなく恥ずかしい。
(メルが見つかりませんように)
メルが戻ってくるまで、俺はあることを試してみることにした。
そうこうしているうちに、メルが小走りで戻ってきた。
どうやら魔女には見つからなかったようだ。
「どれで開けられるんでしょうか...?」
「数が多すぎるね...」
(こんなことを頼みたくはないけど...)
「私が本当に持っている力で探してみますね!」
メルは左眼でじっと見ている。
「これです!」
力は健在らしい。
「メル、作戦をたてよう」
「はい!」
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こうしてヘンゼルとグレーテルは、悪い魔女を欺き、元の世界に還る方法を探すことにしました。
ヘンゼルの能力も、必ず役に立つでしょう。
グレーテルの勇気も、きっと。
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