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Other Story(記念ものが多いです。本篇ネタバレはできるだけ避けます)
In already 1, still, 1 year
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まさか、こんなことになるなんて。
あの時は思っていなかった。
「カムイ」
こうして名前を優しく呼ばれることがどれだけ幸せなことか、俺にはよく分かる。
俺も彼女の愛しい名をできるだけ大事に呼ぶ。
「...メル」
ー**ー
俺は傷の影響で、まだ遠くには出掛けられない。
色々あったせいで、すっかり忘れてしまっていたことがある。
(メルは覚えてるかな)
十二月の寒かったあの日。
あれからもう一年経過したのだ。
俺にはその実感があまりない。
「カムイ、無理してないですか...?」
メルは瞳を潤ませてこちらを見ている。
「俺は大丈夫だよ。確かにまだ少し痛むけれど...」
負った傷は思ったより深く、未だに痕が疼く。
だが、言葉はしっかり出るようになった。
それに、お節介な周りによって生活はなんとか上手くいっている。
「おまえ、今日は調子がよさそうだな」
「エリック」
「メル、これで全部?」
「お二人とも、ありがとうございます」
メルを一人で外出させるのは危険と判断し、生活用品の買いだしをエリックたちに頼んでいる。
...今日はエリックに別のものも頼んだのだが。
「メル、少しこいつと話があるからアイリスを頼めるか?」
「はい!」
「...」
アイリスが恨めしそうな目で見ていたのは、気づかなかったことにした。
「...で、おまえに頼まれたものを買ってきたが...」
「ああ、ありがとうエリック」
「おまえはそれで、何をやるつもりだ?」
「それは...」
ー*ー
(二人きりで、ということは...お仕事のお話でしょうか?)
「メル」
「はい!」
「紅茶の淹れ方教えて...ください」
「急にどうしたんですか?」
私はアイリスさんのお願いに少し驚いていた。
(どうして私なんでしょうか?)
エリックさんも淹れられるはずなのにと考えていたけれど、そこまで考えてはっとした。
「エリックさんに淹れる為、ですか?」
「...」
アイリスさんはこくりと頷いた。
「分かりました!そういうことなら...」
私がやってみせると、アイリスさんは慎重に紅茶を注いでいた。
「そこに手を置くと火傷しやすいので、この辺を持って...」
「ちょっと待って、ノートに残しておくから」
アイリスさんはこまめに書いていた。
そうこうしていると、後ろから声をかけられた。
「メル、おまたせ」
「カムイ...」
「渡したいものがあるから、待っててくれる?」
「はい」
「アイリス、帰るぞ」
「うん」
二人を見送ったあと、カムイが奥から出てきた。
「じゃあ、今日は少しだけお祝いしようか」
ー**ー
やはりメルは覚えていなかったようで、首を傾げている。
「今日でメルがこの家にきて、一年になるんだよ」
「もうそんなにたったんですね...!」
(もっと前からいたような気がするんだけどね)
心でそう呟きつつ、こっそり用意した花束を渡した。
「わあ...綺麗です!」
「喜んでもらえてなにより」
「これ、なんていうお花なんですか?」
「胡蝶蘭だよ」
「胡蝶蘭...」
「料理も用意したから食べようか」
「はい!でも無理したんじゃ...」
メルが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だよ」
「それならよかったです」
ふわふわした笑顔でメルはそう言った。
準備する前はもう一年たったのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
(メルの色々な表情を見たい)
まだ一年しか一緒にいなかったのだ。
これからもっと、メルのことを知りたい。
そんなことを思いながら、二人きりの夕食をはじめたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
胡蝶蘭。
私はその花言葉を調べてみた。
こんなふうに思ってくれていたんだと思うと、本当に嬉しい。
明日、ちゃんと気持ちを伝えよう。
私も愛していると。
胡蝶蘭の花言葉
『純粋な愛』
あの時は思っていなかった。
「カムイ」
こうして名前を優しく呼ばれることがどれだけ幸せなことか、俺にはよく分かる。
俺も彼女の愛しい名をできるだけ大事に呼ぶ。
「...メル」
ー**ー
俺は傷の影響で、まだ遠くには出掛けられない。
色々あったせいで、すっかり忘れてしまっていたことがある。
(メルは覚えてるかな)
十二月の寒かったあの日。
あれからもう一年経過したのだ。
俺にはその実感があまりない。
「カムイ、無理してないですか...?」
メルは瞳を潤ませてこちらを見ている。
「俺は大丈夫だよ。確かにまだ少し痛むけれど...」
負った傷は思ったより深く、未だに痕が疼く。
だが、言葉はしっかり出るようになった。
それに、お節介な周りによって生活はなんとか上手くいっている。
「おまえ、今日は調子がよさそうだな」
「エリック」
「メル、これで全部?」
「お二人とも、ありがとうございます」
メルを一人で外出させるのは危険と判断し、生活用品の買いだしをエリックたちに頼んでいる。
...今日はエリックに別のものも頼んだのだが。
「メル、少しこいつと話があるからアイリスを頼めるか?」
「はい!」
「...」
アイリスが恨めしそうな目で見ていたのは、気づかなかったことにした。
「...で、おまえに頼まれたものを買ってきたが...」
「ああ、ありがとうエリック」
「おまえはそれで、何をやるつもりだ?」
「それは...」
ー*ー
(二人きりで、ということは...お仕事のお話でしょうか?)
「メル」
「はい!」
「紅茶の淹れ方教えて...ください」
「急にどうしたんですか?」
私はアイリスさんのお願いに少し驚いていた。
(どうして私なんでしょうか?)
エリックさんも淹れられるはずなのにと考えていたけれど、そこまで考えてはっとした。
「エリックさんに淹れる為、ですか?」
「...」
アイリスさんはこくりと頷いた。
「分かりました!そういうことなら...」
私がやってみせると、アイリスさんは慎重に紅茶を注いでいた。
「そこに手を置くと火傷しやすいので、この辺を持って...」
「ちょっと待って、ノートに残しておくから」
アイリスさんはこまめに書いていた。
そうこうしていると、後ろから声をかけられた。
「メル、おまたせ」
「カムイ...」
「渡したいものがあるから、待っててくれる?」
「はい」
「アイリス、帰るぞ」
「うん」
二人を見送ったあと、カムイが奥から出てきた。
「じゃあ、今日は少しだけお祝いしようか」
ー**ー
やはりメルは覚えていなかったようで、首を傾げている。
「今日でメルがこの家にきて、一年になるんだよ」
「もうそんなにたったんですね...!」
(もっと前からいたような気がするんだけどね)
心でそう呟きつつ、こっそり用意した花束を渡した。
「わあ...綺麗です!」
「喜んでもらえてなにより」
「これ、なんていうお花なんですか?」
「胡蝶蘭だよ」
「胡蝶蘭...」
「料理も用意したから食べようか」
「はい!でも無理したんじゃ...」
メルが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だよ」
「それならよかったです」
ふわふわした笑顔でメルはそう言った。
準備する前はもう一年たったのかと思っていたが、どうやら違ったらしい。
(メルの色々な表情を見たい)
まだ一年しか一緒にいなかったのだ。
これからもっと、メルのことを知りたい。
そんなことを思いながら、二人きりの夕食をはじめたのだった。
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胡蝶蘭。
私はその花言葉を調べてみた。
こんなふうに思ってくれていたんだと思うと、本当に嬉しい。
明日、ちゃんと気持ちを伝えよう。
私も愛していると。
胡蝶蘭の花言葉
『純粋な愛』
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