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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第155話
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そこは、見知らぬ部屋だった。
真夜中なのか、あたりが真っ暗だ。
「...っ!」
体を起こそうとすると、腹部に痛みがはしった。
(...『痛い』?)
そこでようやく気づいた。
そうか、俺は生きているのか。
視界にはいったのは、ベッドに突っ伏している愛しい人。
俺はそっと綺麗な黒髪を梳いた。
「...カムイ?」
ー*ー
一緒に過ごす、楽しい一日。
「メル」
「カムイ...!」
どんどん遠くに行ってしまう。
おばあさまの時と同じ...。
もう独りは嫌。
お願い、私も一緒に...!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うっすらと目を開ける。
(夢、だったんですね)
私はもう一度眠ろうとしたが、髪に何かが触れている気配がしてゆっくりと体を起こした。
「...カムイ?」
「起こ、した...?」
目の前でカムイが喋っている。
「夢じゃ、ないですよね?」
「うん。...おはよう、メル」
私は力いっぱい抱きしめた。
「よかった...!私、カムイ、がっ...いなくなったら、って...っ、思って、それで...」
「...ごめん」
私は溢れる思いを止められなかった。
よかった、生きてる、動いてる...!
もう出ないと思っていた涙がぽたぽたと零れおちる。
カムイは私の顔をあげさせて、何度もごめんねと言っていた。
「もう...泣かせないって、約束、した、のに...」
私が落ち着くまで、ずっと頭を撫でてくれていた。
ー**ー
言葉が上手く出てこない。
本当には言いたいことが沢山あるが、喉につっかえてしまう。
「メル」
ぎゅうっと抱きついてくるメルは、俺の為にずっと泣いてくれている。
「カムイ...っ、好き...ですっ」
嗚咽をもらしながら、一生懸命伝えてくれた。
「いなくっ、ならないで...くださいっ。私を、独りにっ、しない、でっ、ください...」
「ごめん。もう、泣かせない...愛し、てる」
腹部の痛みを堪えながら、ちゃんと伝えられた。
『愛してる』...一番伝えたかった言葉だ。
ごめんもありがとうもだけど、愛してると言いたかった。
(もう悲したせたりしない)
「メル...笑っ、て?」
「はい...っ」
メルはにこっとしてくれた。
そのときも、一筋の涙が頬を伝っていた。
俺はいつの間にか、その涙を舌で掬ってしまっていた。
「ひゃっ...」
メルはくすぐったそうにしていたが、嫌がっている様子はなかった。
(涙って、こんなに甘いものなのか)
「...ちょっと、待ってて」
「カムイ?」
俺はメルの頭を撫でながら、そっと通信機の電源を入れた。
「エリック」
『...おい、おまえ』
「エリック、ごめん...」
『すぐ行く!』
「でも、アイリス、が...起きて、ないんじゃ、ない?」
『起きている。一緒に連れていく』
俺はメルを見てエリックがくると話した。
...いつの間にか、朝陽がのぼりはじめていた。
ー*ー
「カムイ!」
「ごめん。二人にも...心配、かけて」
「動いても平気?」
「うん。問題、ないよ」
カムイは話しづらいのか、途中途中つまりながら話していた。
「起きたんですね。おはようございます。私はあなたの主治医です」
「俺は、医者です。カルテを、見せて...もらえま、せんか?」
「分かりました」
カムイは自分で自分を診察しているようだった。
「思った、より...酷く、なくて、よかった」
「奥様のお陰ですね」
私はその言葉に動揺した。
(なんだか恥ずかしいです!)
「ずっと、ついてて、くれた、から...」
「そうではなく、止血箇所がとてもよかったんです。もう少しずれていたら、臓器が傷ついていたかもしれません。...ご自宅に戻られてもかまいませんが、どうしますか?」
「戻り、ます。...俺たちの、家へ」
「では手続きはこちらで済ませておきます。もし何かあればすぐに知らせてください。馬車を呼んでおきます」
お医者さんはそれだけ言っていなくなってしまった。
私は内心ぎくりとしていた。
(止血したこと、カムイに知られてしまいました...)
「もう無理はするな。いいな?」
「...ごめん」
エリックさんは怒っている様子でそう言っていた。
ー**ー
しばらくして馬車がきた。
馬車に乗ったあと、俺はさりげなく聞いてみた。
「医師が、言って、いたこと...って、どういう、こと?」
「...メル、話した方がいいと思うぞ」
「実は、左眼の力を使いました」
『止血箇所を正確に見つける』なんて、なかなかできることじゃない。
特に俺が負った怪我では、見つけるのは困難なはずだ。
「メルが、見つけ、たの?」
「はい...」
「メルを怒らないで」
「怒ら、ないよ」
「それならいい」
アイリスがじっと俺の方を見ている。
その目は申し訳なさそうにしていて、俺はアイリスが何を思っているのかよく分かった。
「アイリス、自分を、責めなくて、いい。きみの、せいじゃ、ない、から」
「ごめんなさい」
「あれは誰も悪くないだろう」
「アイリスさんのせいじゃないです」
(この状況じゃ、話せそうにないな)
俺はメルと二人きりになってから話そうと思った。
メルの左眼のことを聞くのも、不思議な夢の話も。
二人できちんと話をしようと、そう思った。
真夜中なのか、あたりが真っ暗だ。
「...っ!」
体を起こそうとすると、腹部に痛みがはしった。
(...『痛い』?)
そこでようやく気づいた。
そうか、俺は生きているのか。
視界にはいったのは、ベッドに突っ伏している愛しい人。
俺はそっと綺麗な黒髪を梳いた。
「...カムイ?」
ー*ー
一緒に過ごす、楽しい一日。
「メル」
「カムイ...!」
どんどん遠くに行ってしまう。
おばあさまの時と同じ...。
もう独りは嫌。
お願い、私も一緒に...!
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うっすらと目を開ける。
(夢、だったんですね)
私はもう一度眠ろうとしたが、髪に何かが触れている気配がしてゆっくりと体を起こした。
「...カムイ?」
「起こ、した...?」
目の前でカムイが喋っている。
「夢じゃ、ないですよね?」
「うん。...おはよう、メル」
私は力いっぱい抱きしめた。
「よかった...!私、カムイ、がっ...いなくなったら、って...っ、思って、それで...」
「...ごめん」
私は溢れる思いを止められなかった。
よかった、生きてる、動いてる...!
もう出ないと思っていた涙がぽたぽたと零れおちる。
カムイは私の顔をあげさせて、何度もごめんねと言っていた。
「もう...泣かせないって、約束、した、のに...」
私が落ち着くまで、ずっと頭を撫でてくれていた。
ー**ー
言葉が上手く出てこない。
本当には言いたいことが沢山あるが、喉につっかえてしまう。
「メル」
ぎゅうっと抱きついてくるメルは、俺の為にずっと泣いてくれている。
「カムイ...っ、好き...ですっ」
嗚咽をもらしながら、一生懸命伝えてくれた。
「いなくっ、ならないで...くださいっ。私を、独りにっ、しない、でっ、ください...」
「ごめん。もう、泣かせない...愛し、てる」
腹部の痛みを堪えながら、ちゃんと伝えられた。
『愛してる』...一番伝えたかった言葉だ。
ごめんもありがとうもだけど、愛してると言いたかった。
(もう悲したせたりしない)
「メル...笑っ、て?」
「はい...っ」
メルはにこっとしてくれた。
そのときも、一筋の涙が頬を伝っていた。
俺はいつの間にか、その涙を舌で掬ってしまっていた。
「ひゃっ...」
メルはくすぐったそうにしていたが、嫌がっている様子はなかった。
(涙って、こんなに甘いものなのか)
「...ちょっと、待ってて」
「カムイ?」
俺はメルの頭を撫でながら、そっと通信機の電源を入れた。
「エリック」
『...おい、おまえ』
「エリック、ごめん...」
『すぐ行く!』
「でも、アイリス、が...起きて、ないんじゃ、ない?」
『起きている。一緒に連れていく』
俺はメルを見てエリックがくると話した。
...いつの間にか、朝陽がのぼりはじめていた。
ー*ー
「カムイ!」
「ごめん。二人にも...心配、かけて」
「動いても平気?」
「うん。問題、ないよ」
カムイは話しづらいのか、途中途中つまりながら話していた。
「起きたんですね。おはようございます。私はあなたの主治医です」
「俺は、医者です。カルテを、見せて...もらえま、せんか?」
「分かりました」
カムイは自分で自分を診察しているようだった。
「思った、より...酷く、なくて、よかった」
「奥様のお陰ですね」
私はその言葉に動揺した。
(なんだか恥ずかしいです!)
「ずっと、ついてて、くれた、から...」
「そうではなく、止血箇所がとてもよかったんです。もう少しずれていたら、臓器が傷ついていたかもしれません。...ご自宅に戻られてもかまいませんが、どうしますか?」
「戻り、ます。...俺たちの、家へ」
「では手続きはこちらで済ませておきます。もし何かあればすぐに知らせてください。馬車を呼んでおきます」
お医者さんはそれだけ言っていなくなってしまった。
私は内心ぎくりとしていた。
(止血したこと、カムイに知られてしまいました...)
「もう無理はするな。いいな?」
「...ごめん」
エリックさんは怒っている様子でそう言っていた。
ー**ー
しばらくして馬車がきた。
馬車に乗ったあと、俺はさりげなく聞いてみた。
「医師が、言って、いたこと...って、どういう、こと?」
「...メル、話した方がいいと思うぞ」
「実は、左眼の力を使いました」
『止血箇所を正確に見つける』なんて、なかなかできることじゃない。
特に俺が負った怪我では、見つけるのは困難なはずだ。
「メルが、見つけ、たの?」
「はい...」
「メルを怒らないで」
「怒ら、ないよ」
「それならいい」
アイリスがじっと俺の方を見ている。
その目は申し訳なさそうにしていて、俺はアイリスが何を思っているのかよく分かった。
「アイリス、自分を、責めなくて、いい。きみの、せいじゃ、ない、から」
「ごめんなさい」
「あれは誰も悪くないだろう」
「アイリスさんのせいじゃないです」
(この状況じゃ、話せそうにないな)
俺はメルと二人きりになってから話そうと思った。
メルの左眼のことを聞くのも、不思議な夢の話も。
二人できちんと話をしようと、そう思った。
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