路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-Light of a new request-

第152話

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ー*ー
「エリックさん」
「どうした?」
裁判所からの帰り道、私は思いきってエリックさんに聞いてみた。
「エミリーさんのこと、どうして苦手なんですか...?」
「そ、それは...」
「俺もエミリーは疑問だな。オリヴィアやユリシス、サーヤなら分かるけど...」
「その方々もエリックさんのお姉さんなんですか?」
「そうだよ」
そう答えるカムイの横で、エリックさんはとても言いづらそうにしていた。
やっぱり、聞かない方がよかったのだろうか。
「あの、話したくないなら、」
「笑わないと誓うか?」
「はい!」
「...俺は小さい頃、容姿が少女のようだったらしい。自分では分からないが...」
「それでたしか、一度スカ、」
そこまでカムイが言うと、エリックさんはカムイに銃を向けていた。
「待ってください!落ち着いてください...」
「カムイ、次言おうとしたら足が吹き飛ぶと思え」
(エリックさんがこんなに怒るところ、はじめて見ました...)
「ごめんごめん、もう言わないよ」
「...では、続けるぞ」
ー**ー
メルは自分で気づいていないようだが、表情がとても強ばっている。
本当はもう少しエリックをからかいたかったが、メルが泣きだしてしまってはいけないので黙ることにした。
「...エミリーは俺に、いきなりファンデーションを塗ってきたんだ」
...?
「そのあと、アイシャドウを塗ってきて...」
「最後にリップ?」
エリックはとてつもなく恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になっていた。
「お化粧をされてしまった、ということですか?」
「...ああ。そのときに似合うからまたさせてくれと言われて...逃げまどう日々が続いた。だから、俺は姉が苦手なんだ」
メルは目をキラキラとさせて、エリックの方を見た。
「仲良しさんなんですね!」
メルの天然っぷりに、俺は思わず笑ってしまった。
「私、何か変なことを言ってしまいましたか...?」
「ううん、可愛いなって思っただけだよ」
「...別に仲良しじゃない」
「でも、ご家族と楽しく過ごせるのは、とても羨ましいです」
メルはそう言って笑っていたが、俺は笑えなかった。
「俺も、羨ましいなって思ったよ」
俺は兄弟がいたわけじゃない。
だが、普通に家族と過ごした時間はそんなに長くない。
エリックの話が微笑ましく聞こえてしまうのは、きっとそれも理由の一つだろう。
(でも、メルが言うと重みが違うな)
「絶対他の奴に言うなよ?」
「はい、秘密です」
「言わないよ」
エリックは自分の家に向かって歩き出す。
その背中を見送ったあと、俺はメルの腕を掴んだ。
「今日はどこかへ食事に行ってみようか」
ー*ー
「お食事、ですか...?」
「うん。バーじゃなくて、普通にレストランに食事に行ったことなかったなって...」
「レストラン...?」
私はよく分からず、首を傾げた。
カムイはそんな私の手を引いて、入ったことがないお店の扉を開けた。
(わあ...!)
そこは、私が見たことがない世界だった。
キラキラ光る電灯、はじめて見た可愛いお洋服を着ている店員さん...。
「カムイ、あのお洋服は、」
「このお店の制服だよ。メイド服...の方が分かりやすい?」
「はじめて見ました!」
「これはメニュー表。ここに書いてあるものならなんでも置いてあるから、好きなものを頼んでいいよ」
オムレツにハンバーグ...カムイと出会ってから一緒に作ったものが沢山載っていた。
「うーん...」
私が考えこんでいると、カムイが笑顔で店員さんに注文した。
「すいません、ステーキを二人前お願いします」
ー**ー
メルはきょとんとしていた。
ステーキなんて、家であまり作らない。
毎回俺がソースに苦戦してしまうからだ。
母のレシピを参考にしながら作るものの、玉葱が上手く処理できていないようだ。
「ステーキ、美味しいよ」
「でも、」
「マナーなら、メルは完壁だから。それとも...もしかして、何か食べたいものがあった?」
「いえ!ありがとうございます」
そうこうしているうちに、注文したものが運ばれてきた。
メルはなんだかあたふたしている。
(なんで気づかなかったんだ)
今さらながら、メルが何を言いかけたのか分かった。
俺はメルの分を切り分け、口に運んだ。
「はい、口開けて」
「...!」
メルは照れていたが、やがて、小さく口を開けていた。
「美味しいです、多分...」
「多分?」
「むう...」
メルは少し拗ねた様子で頬をふくらませて俺の方を見ていた。
「ごめん。眼帯があったら食べづらいよね」
「気にしないでください」
「じゃあ、俺が食べさせてあげる」
俺は自分の分も切って食べながら、メルの分も丁寧に切り分けてメルの口に運んだ。
「ごちそうさまでした」
最近あまりまともに食べていなかったせいか、二人ともあっという間に完食してしまった。
「メル」
「なんでしょ...っ!」
メルが言い終わる前に、俺はぺろりとソースを舐めとった。
「ごちそうさま、メル」
「突然やるのはやめてください!て、照れてしまいます...」
そう言うと、メルは俯いてしまった。
「...アイリスが釈放されて帰ってきたら、みんなでお祝いしようか」
「はい!」
「また俺と、こうして二人で食事にも行こうね」
「...はい」
すっかり暗くなってしまった夜道を、俺たちは手を繋いで歩いて帰った。
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