路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-Light of a new request-

閑話『Questioning of the defendant』

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「被告人、前へ」
その一言で、私はとても緊張してしまう。
「...はい」
どんなことを言われるのかな。
少し、怖い。
「それでは検察側、質問をはじめてください」
《アイリス目線》
「被告人、あなたが燃やしたんですよね?」
違うよ。
私はそんなことできないから。
「ううん」
「これはあなたが燃やした家の数々です」
「...」
なんだかよく分からないものを見せられた。
私はやっていないのに。
「ここに死体を持ってきてもいいんですよ?」
「私はいいけど、他の人が嫌だと思う。人が死んでいるものなんて、見たがる人はいないと思う」
「では質問を変えます。これはあなたのですよね?」
見せられたのは、全く知らないマッチの箱。
「知らない」
「あなたの体液を調べてもいいですか?」
「分かっ...」
「異議あり!」
エリックが偉い人の話を止めた。
「被告人は無実なのに、何故そのようなことをしなければならないのでしょうか?」
「それは犯人かどうか確認する為に必要だから、」
「では何故アイリスを犯人だと決めつけるような発言ができるのでしょうか?」
「異議を認めます」
偉い人はなんだか怖い顔をしていた。
怒っているのかもしれない。
「被告人!認めてください」
「やってないことは本当にやってない」
私はばっさり言い放った。
「...そんなこと言っていいのか?」
偉い人のうちの一人が私に近づいてこう囁いた。
「おまえのお友だちをこれ以上騙して何になるんだ?」
私は怒ってしまいそうになるのを抑えながら、やっていないと訴え続けた。
「検察側、何を話しているんですか?内緒話なら私も混ぜていただきたいですね。もっとも...被告人は嫌がっているようですが」
「...っ、すいません!」
どうしてこの人たちは、私を犯人にしたいんだろう。
『恐ろしい人が関わっている』とエリックが言ってたのを思い出した。
...もしかして、偉い人も言いくるめられてしまうくらい怖い人なのかな?
「検察側、他に質問はありますか?」
「いえ、ありません。これで終了です。...今のところはね」
あとでまた嫌なことを聞かれるのかと思うと、涙が出そうになった。
本当にやっていないのに、そのことをやったと言われるのがこんなに辛いことだと、私は全く知らなかった。
「続いて...弁護人代理、お願いします」
「分かりました」
エリックからの質問...正直に答えたらいいよね?
嘘をついたりしなくても、いいんだよね?
エリックは私と目が合った瞬間、心配そうな瞳で見つめていた。
「...私は平気だから、質問を」
私はエリックにそれだけ伝えた。
《エリック目線》
どうやらアイリスに、心配していたのを見透かされたらしい。
(きっちりこなさなくてはならないのに、俺がこんな弱腰でどうするんだ)
「では被告人、質問をはじめます」
「うん」
アイリスのいつもと変わらないマイペースさに、俺は心底安心した。
「被告人は、もし目の前で人が倒れていたらどうしますか?」
「他の人に助けを求める。本当は私だけで助けたいけど、私は非力だから」
「分かりました。では、次の質問です」
俺は何問か、アイリスの性格が分かるような質問をした。
アイリスは正直に答え、真面目な態度を崩すことはなかった。
(今のところ順調だな)
「あの!」
「なんですか、証人」
ついにはじまった。
「ここに、真犯人の手がかりがあります」
民衆はざわめきだす。
証拠があるのは事実。
だが、証拠としてとおるかが問題だ。
(ワイヤーがあるから証拠にはなるはずだ)
「弁護人代理の捜査を手伝ったとき、現場から拾ったものを証拠として提出します」
近くに落ちていたワイヤー、破片を拾い集め、メルが組みたててくれた火炎瓶...。
これだけあれば、アイリスでないことは確かなはずだ。
「それが被告人のものだとしたら...」
「もう罪をなすりつけるのは止めてください。被告人がこんなに高価なワイヤーを購入できると本当に思っていらっしゃるのですか?」
「盗んだのかもしれないだろう!」
俺はつい、舌打ちをしてしまった。
「...ふざけるな」
「あ?」
溢れたものは止められない。
「こんなに優しい子が、人の家に火をつける?そんなことできるわけないだろう!いつだって人優先な彼女がそんなことすると思っているのか...?毎日辛い思いをしながら生きてきた彼女がようやく幸せになれるところを、あんたたちは組織の都合だけで邪魔をするのか。...これだけ証拠があるのに、何故現実を見ないんだ...」
俺の言葉はようやく止まった。
民衆が耳を傾けてくれた。
法廷なのに、拍手が巻きおこった。
「エリック...」
アイリスが泣いている。
涙を拭ってやりたいのに、今はそれができない。
俺はもどかしい気持ちでいっぱいだった。
「...弁護人代理、ありがとうございます。時に証人。何か言いたいことがあるようですね?」
カムイが間をおいて、こう切り出した。
「もう一つ、話したいことがあります。...それは、八年前の殺人事件についてです」
(これで一気にたたみかけられればいいが...)
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