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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第149話
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私のせいで、メルが傷つけられてしまった。
私が捕まらずに逃げ切れていれば、
私があの日、カムイに治療されなければ、
そのあとエリックにお世話にならなければ、
あの時、みんなに...
「アイリス」
「...エリック」
いつの間にか近くにきていたエリックは、私の肩を掴んで真っ直ぐこちらを見ていた。
「俺たちに出会わなければなんて考えているだろうが、それは間違いだからな」
本当にエリックには、なんでも分かってしまう。
「どうして間違いだって言い切れるの?」
「俺はおまえと出会った事を、全く後悔していないからだ。少しとはいえ...おまえは俺たちと過ごして、楽しくなかったのか?」
「ううん」
エリックは自分がいた位置まで私を引きずっていく。
一呼吸間をおいて、エリックは話してくれた。
「それならきっと、これは運命だったんだ。俺みたいな奴で悪いが、逃げるのは諦めろ」
「...うん」
「被告人、もうよろしいですか?」
「うん」
私は偉い人に呼ばれて、元の位置へ戻った。
その時、エリックが任せろと小さく呟いたのを聞き逃さなかった。
ー**ー
「そろそろだよ」
「もう平気です。ありがとうございます」
メルは力強く頷いた。
俺はメルの手を握りなおし、法廷へと足を踏み入れた。
「それでは、裁判を再開します。証人、前へ」
「はい」
(どのタイミングで言おうか)
俺は傍聴席に再び目をやる。
男がほくそ笑んでいるのが目にはいった。
...必ず刑務所にいれてやる。
「検察、質問を続けてください」
「はい。では証人、答えていただきたい」
「なんでしょう?」
「被告人は人殺しですよね?」
...こんな奴等、人間じゃない。
真実なんてどうでもいいのか?
だから俺は裏側にたったんだ。
奴等が知りたいのは真実じゃない。
勿論、事実でもない。
自分たちが正解だという確証だ。
「...人は思いこむと、その考えから抜け出せなくなる。あなた方がいい例だ。自分たちが正解だと思いこんで、冤罪を造りだそうとしているんですよね?」
「証人が何を言っているのか分かりません」
検察は苛立った様子で俺の方を見た。
「『検察の威信』などというくだらないものが大切なんですよね」
「なんだと!」
俺は殴りかかられそうになる。
「検察!それが検察がとる行動ですか?気にいらなければ暴行するというのなら、退廷を命じますよ?」
威圧感のある声を聞き、検察でさえ沈黙した。
(流石は裁判長だな)
「証人も、できるだけ挑発するような発言は控えてください」
「申し訳ありませんでした」
「それでは続けます」
俺はその質問に、正確に答えていった。
失敗は許されない。
だから、もう少しタイミングを見計らうことにした。
(次はエリックへの攻撃か)
ー*ー
「それでは弁護人代理、前へ」
「...はい」
今度はエリックさんが呼ばれた。
カムイは私にだけ聞こえる声で話しはじめた。
「感情をコントロールできなくなるところだった」
「カムイ、お疲れ様でした」
私は周りの人たちに見えないように、そっと手を繋いだ。
「ありがとう」
「弁護人代理、あなたは何故弁護人代理をしているのですか?」
『あなたは何故あなたなの?』というようなフレーズが、妙に耳に残ってしまった。
(なんだか絵本の中に似たようなものがあったような...)
私は緊急事態なのに、そんなことを呑気に考えていた。
「警部補のくせに、何故弁護人代理なんです?あなたはこちら側の人間...」
「俺はそういう考えを持ち合わせていない。間違っていることを間違っていると言って何が悪い?俺はあんたらのそういうやり方が気に入りません。まあ、別に気にいられようとも思っていませんが」
エリックさんが冷静さを失いつつあるのが見ていてすぐに分かった。
カムイはそんなエリックさんを、黙ってじっと見ていた。
「この野郎...」
「失礼しました。俺は間違っていることを間違いだと伝えたくて、この場に立っています。ですが...逆にいくつか聞きたいことがあります」
「なんだ?」
「何故その靴がアイリスの物だと思ったんですか?」
その途端、検察は焦りはじめた。
たしかに決めつけることはできないはず。
なのに何故、最初からアイリスさんの物だと言い切っているのか...今さらになって気になった。
「エリックの追及作戦がはじまったみたい」
「追及作戦?」
「うん。相手が答えられないような質問ばかり聞き続けるんだ」
どうやらエリックさんが取り調べの時に使うやり方らしい。
「これが上手くいけば、相手もボロを出しやすくなる」
私はアイリスさんの方を見た。
口の動きで、何を言っているのか分かった。
「...アイリスさんのせいじゃないのに」
「どうしたの?」
「今、アイリスさんが言ったんです。勿論声は出していませんでしたけど...」
アイリスさんは確かにこう言ったのだ。
...『ごめんなさい』
その言葉が何を意味しているのか、私にはなんとなく分かった。
早くアイリスさんを出してあげたい。
私のなかで、その思いは強くなるばかりだ。
私が捕まらずに逃げ切れていれば、
私があの日、カムイに治療されなければ、
そのあとエリックにお世話にならなければ、
あの時、みんなに...
「アイリス」
「...エリック」
いつの間にか近くにきていたエリックは、私の肩を掴んで真っ直ぐこちらを見ていた。
「俺たちに出会わなければなんて考えているだろうが、それは間違いだからな」
本当にエリックには、なんでも分かってしまう。
「どうして間違いだって言い切れるの?」
「俺はおまえと出会った事を、全く後悔していないからだ。少しとはいえ...おまえは俺たちと過ごして、楽しくなかったのか?」
「ううん」
エリックは自分がいた位置まで私を引きずっていく。
一呼吸間をおいて、エリックは話してくれた。
「それならきっと、これは運命だったんだ。俺みたいな奴で悪いが、逃げるのは諦めろ」
「...うん」
「被告人、もうよろしいですか?」
「うん」
私は偉い人に呼ばれて、元の位置へ戻った。
その時、エリックが任せろと小さく呟いたのを聞き逃さなかった。
ー**ー
「そろそろだよ」
「もう平気です。ありがとうございます」
メルは力強く頷いた。
俺はメルの手を握りなおし、法廷へと足を踏み入れた。
「それでは、裁判を再開します。証人、前へ」
「はい」
(どのタイミングで言おうか)
俺は傍聴席に再び目をやる。
男がほくそ笑んでいるのが目にはいった。
...必ず刑務所にいれてやる。
「検察、質問を続けてください」
「はい。では証人、答えていただきたい」
「なんでしょう?」
「被告人は人殺しですよね?」
...こんな奴等、人間じゃない。
真実なんてどうでもいいのか?
だから俺は裏側にたったんだ。
奴等が知りたいのは真実じゃない。
勿論、事実でもない。
自分たちが正解だという確証だ。
「...人は思いこむと、その考えから抜け出せなくなる。あなた方がいい例だ。自分たちが正解だと思いこんで、冤罪を造りだそうとしているんですよね?」
「証人が何を言っているのか分かりません」
検察は苛立った様子で俺の方を見た。
「『検察の威信』などというくだらないものが大切なんですよね」
「なんだと!」
俺は殴りかかられそうになる。
「検察!それが検察がとる行動ですか?気にいらなければ暴行するというのなら、退廷を命じますよ?」
威圧感のある声を聞き、検察でさえ沈黙した。
(流石は裁判長だな)
「証人も、できるだけ挑発するような発言は控えてください」
「申し訳ありませんでした」
「それでは続けます」
俺はその質問に、正確に答えていった。
失敗は許されない。
だから、もう少しタイミングを見計らうことにした。
(次はエリックへの攻撃か)
ー*ー
「それでは弁護人代理、前へ」
「...はい」
今度はエリックさんが呼ばれた。
カムイは私にだけ聞こえる声で話しはじめた。
「感情をコントロールできなくなるところだった」
「カムイ、お疲れ様でした」
私は周りの人たちに見えないように、そっと手を繋いだ。
「ありがとう」
「弁護人代理、あなたは何故弁護人代理をしているのですか?」
『あなたは何故あなたなの?』というようなフレーズが、妙に耳に残ってしまった。
(なんだか絵本の中に似たようなものがあったような...)
私は緊急事態なのに、そんなことを呑気に考えていた。
「警部補のくせに、何故弁護人代理なんです?あなたはこちら側の人間...」
「俺はそういう考えを持ち合わせていない。間違っていることを間違っていると言って何が悪い?俺はあんたらのそういうやり方が気に入りません。まあ、別に気にいられようとも思っていませんが」
エリックさんが冷静さを失いつつあるのが見ていてすぐに分かった。
カムイはそんなエリックさんを、黙ってじっと見ていた。
「この野郎...」
「失礼しました。俺は間違っていることを間違いだと伝えたくて、この場に立っています。ですが...逆にいくつか聞きたいことがあります」
「なんだ?」
「何故その靴がアイリスの物だと思ったんですか?」
その途端、検察は焦りはじめた。
たしかに決めつけることはできないはず。
なのに何故、最初からアイリスさんの物だと言い切っているのか...今さらになって気になった。
「エリックの追及作戦がはじまったみたい」
「追及作戦?」
「うん。相手が答えられないような質問ばかり聞き続けるんだ」
どうやらエリックさんが取り調べの時に使うやり方らしい。
「これが上手くいけば、相手もボロを出しやすくなる」
私はアイリスさんの方を見た。
口の動きで、何を言っているのか分かった。
「...アイリスさんのせいじゃないのに」
「どうしたの?」
「今、アイリスさんが言ったんです。勿論声は出していませんでしたけど...」
アイリスさんは確かにこう言ったのだ。
...『ごめんなさい』
その言葉が何を意味しているのか、私にはなんとなく分かった。
早くアイリスさんを出してあげたい。
私のなかで、その思いは強くなるばかりだ。
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