路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-Light of a new request-

第148話

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「それでは、開廷」
木槌が打たれ、周りは一気に緊張漂う空気になる。
「被告人、前へ」
私は無言のまま、言われた位置に立った。
そこから見える人影に、私は目線で頑張ると伝えた。
...エリック、ちゃんと伝わった?
「罪状認否からはじめます。検察側、起訴内容をお願いします」
「はい。被告人は殺人を犯し...」
私はやってない。
やっていないのに、この人たちは最後まで私がやったと言い張っていた。
...私のこと、何も知らないくせに。
知ろうともしなかったくせに。
一体何を根拠に私が殺したと言うのだろう。
証拠がどうとかも、全く聞いていない。
「被告人は罪を認めますか?」
「ううん。私は殺していない」
ざわざわと周りが騒ぎはじめる。
「この人殺し!」
...人殺し?私が?
あの人たちは誰...?
やっぱり、私にはもう...
「傍聴席、今の言葉を撤回しないと退廷だぞ」
エリックの声が聞こえた。
「おまえ、何様だ!」
「一応権利はあるからな」
エリックは不思議なバッジを見せていた。
人々が口々に言葉を発する。
「傍聴席、静粛に!...では次に、証言を聞かせていただきましょう...」
あっという間に静かになったその場所で、みんなと一緒に戦いがはじまった。
私は殺していない。
それを信じてくれる人たちとの、明日がほしいから。
ー**ー
俺は証言台へと無言で向かう。
「なんだその服装は!」
「申し訳ありません。俺は身分を明かせぬ存在...故に、顔を見せることはできません」
『裏警察』は、表社会に名乗り出ることができない。
俺はその決まりを守るため、フードを深く被って参加することにした。
「認めます」
「ありがとうございます、裁判長」
メルがほっとした顔で俺の方を見ているのが目にはいった。
「証人、被告人とはどういう関係ですか?」
検察が鋭い視線を向けてくる。
(悪いけど、全然怖くないんだよね)
いつもの仕事より何倍も命が保障されているので、威圧感など微塵も感じなかった。
「大切な友人...です」
本当は患者でもありますとも言いたかったが、アイリスが不利になるのを避けたかった。
ヘタをすると、過去のことまで問い詰められてしまう...それはきっと、アイリスにとって一番辛いことだろうと判断した。
「彼女の靴が現場に落ちていました。確認していただけますか?」
「はい」
俺はその靴を確認した。
たしかに、その当時はこうだったのかもしれない。
だが、今は...
「それはアイリスさんの靴ではありません」
ー*ー
私はカムイにあることを言われていた。
「俺が証言している間、傍聴席の方を見ていてほしいんだ」
「傍聴席って、何ですか?」
「ただの観客ギャラリーだ」
「見ているだけの人たちっていうことだよ。そのなかにきっとあいつがいるから、もし見つけたら俺の発言を止めて」
今日の裁判は、沢山の人たちが見にくるようだ。
...連続放火殺人事件となると、やっぱり注目されてしまうらしい。
「分かりました!」
私は必ず見つけようと心に誓った。
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「おい、そこの証人!まだ我々はフードの証人に、」
「静粛に。今の話をもっと詳しく聞かせていただけますか?」
「はい」
私は息を大きく吸いこむ。
そして、自信をもって発言した。
「私も彼女のお友だちです。なので、彼女の靴のサイズも分かります」
「現物があるのですか?」
「はい。これが、最近アイリスさんが履いていた靴です」
私はアイリスさんに貸していたストラップシューズを見せた。
「今のアイリスさんの靴のサイズはこれくらいです。でも、その靴は、この靴よりも小さいですよね?」
「...友人だから、庇うおつもりですか?」
「違います。アイリスさんは、人を殺すような人ではありません!自分が一番辛いはずなのに、周りを気遣っていました。そんな優しい人が、人を殺せるはずがありません!」
後ろから見たアイリスさんの肩は、小刻みに震えていた。
「そんなの主観じゃないか!」
「傍聴席の言うとおりです。あなたがどう思おうが関係ない。彼女が殺し、」
「殺していません!」
バシャッ!
...傍聴席からこんな音が聞こえた。
気づくと私の体はずぶ濡れになっていた。
《おまえは要らないんだよ!》
昔のことが、フラッシュバックする。
怖い。
何か話さないといけないのに、言葉が詰まって出てこなかった。
「裁判長、休廷にしてください」
ー**ー
これ以上何かされれば、メルがもたない。
そう判断した俺は、裁判長に休廷を申し入れた。
「傍聴席はそのまま。今このような行動に出た人間を拘束しますので、動かないように。一時休廷とします」
木槌が打たれたあと、俺はメルを連れて裁判所の外へ出た。
「メル、落ち着いて」
「ごめんなさい...」
「ありがとう。ちゃんとあいつを見つけられたよ」
メルはとても震えていた。
恐らく、昔のことを思い出しているのだろう。
俺はその身体を抱きしめた。
「あとはエリックにも手伝ってもらって計画どおりにするから、メルは何も言わなくてもいいんだよ」
「...いいえ、そういうわけにはいきません。アイリスさんが一番戦っているのに、私だけ何もしないなんて、できません...」
メルは震えながら、なんとか言葉を紡いでいる状態だった。
「それなら、怪しい人がいないか見てて。証言は俺がする。だから...無理しないで」
「ごめんなさいっ」
メルは堪えていたものを流しはじめた。
...この法廷は、明らかにおかしい。
普通なら、検察があんなに強く有罪を主張してこないはずだ。
アイリスとメルの為に、早く決着をつけよう。
審理再開まで、俺はずっとメルを強く抱きしめた。
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