路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-Light of a new request-

閑話『I'd like to meet him that I love...』

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「おい、出ろ」
そう言われて辿り着いたのは、不思議なお部屋だった。
『何を言われてもいうことを聞いちゃダメだよ』
隣の人が言っていたことがどういうことなのか、ここにきて理解した。
これは、私の物語。
《アイリス目線》
「おまえがやったんだろう!」
私はいきなり怒鳴りつけられた。
「私は人を殺したりしない」
「黙れ!」
殴られたりはしなかったものの、おまえが殺したと何度も言われた。
...殺していないのに。
部屋に戻れるまでの時間がとても長く感じた。
「おかえり。大丈夫だった?」
「私は殺していないのに、殺したって何度も言われた」
「だろうね。頭の堅い連中だから、早く事件をお片けできればそれでいいと思ってる」
「あなたもそうだったの?」
その人は、とても答えづらそうにしていた。
「半分正解、半分不正解」
「じゃあ、何か悪いことをしたの?」
「悪いことをしたからここにいるんだよ。でも、やってないこともやったことにされそうになったんだ」
私はその人の腕を見ていて気づいた。
左側の動きに違和感がある。
私がじっと見ていると、その人は教えてくれた。
「ああ、この腕はね...」
キンキンと音がする。
「義手なんだ」
「義手?」
「そう、ここから先は金属でできてる。この間新品のものに変えてもらったばかりだから、まだなれていなくて...」
新しいものに、変える?
「本当は定期的に診てもらった方がいいらしいんだけど、ぼうやの負担にはなりたくないからね」
その人はいつもよりも、ずっと寂しそうにしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お昼、また冷たいお部屋から出された。
またあの人たちの所へ行くのかと思うと、足がとても重く感じた。
すると、さっきとは違う場所に連れてこられた。
「久しぶりだね、アイリス」
そこには、見知った顔があった。
メルもカムイも...エリックも、きてくれた。
私は涙が止まらなかった。
...ううん、止められなかった。
『いい子で待っててね』
そう言ってお母さんはきてくれなかった。
だから、心のどこかでもうきてくれないと思っていた。
独りは寂しいなんて、言えなくて。
「ちゃんと食事はとっているのか?」
いつの間にか二人きりになっていたその空間で、エリックは私を心配してくれていた。
「...う、ん」
「もうすぐ裁判になる。必ず、無実を証明する。だから...ちゃんと終わったそのときは、また俺と暮らしてくれるか?」
「うん...」
「俺はおまえをおいていったりしない。あの二人もだが、俺も絶対に独りにしないから、信じてほしい」
「ありが、とう」
私はつまりつまり言葉を発した。
エリックはいつものように、頭をよしよししてくれた。
...このまま時が止まればいいのに。
「アイリス、一つ教えてほしい。きみから靴を買った人がどんな人だったか覚えていないか?」
靴を買った人...。
「男の人だった。随分前に売ったものだけど、顔に傷があったから覚えてる」
「そうか。ありがとう」
助けられているのは私の方なのに。
「エリック」
「どうした?」
エリックの声はいつもより優しくて、とても安心できた。
「ちゃんと出られたら、またぎゅってしてくれる?」
「...!勿論だ」
私はその言葉さえあれば頑張れる。
帰りを待ってくれている人たちがいる。
私がいてもいいと思ってくれている人たちがいるのなら...私はここから出たい。
「時間です」
「アイリス、また明日」
「うん、明日」
私を迎えにきた偉い人は、なんだか複雑そうな表情をしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「え?じゃあさっきまで、ぼうやたちと会っていたのか」
「うん」
「楽しかった?」
「うん」
「いっぱい話せた?」
「うん」
「きみはうんしか言ってくれないんだね」
また寂しそうにしていたので、思い切って話しかけてみることにした。
「そういうわけじゃない。ただ、私の話を聞いてもつまらないかなって思って」
「そんなことないよ!もっと聞かせて?」
その日の夜、いっぱい話をした。
隣の人が眠るまで私はずっと話していた。
次の日の朝。
とても早く起こされた。
「裁判の為、裁判所へ向かう。支度をしろ」
私には、持っていくものは一つしかなかった。
返し損ねた、エリックのハンカチ。
あとは何もない。
「いってらっしゃい」
隣の人も起きていて、私に手をふってくれた。
それを見て、私も小さくふりかえした。
私は出られるだろうか。
不安に思いながら、信じてほしいと言ってくれたエリックのことを思いうかべた。
(絶対出てみせる)
そして、エリックと一緒にいたい。
こうして、長い戦いがはじまろうとしていた。









裁判まで、あと...
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