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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第147話
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「...おい、出ろ」
その日、私は外に出られた。
隣のお部屋の人は、顔も出していない。
さっきまで話していたのが嘘みたいだった。
《あいつらに何を言われても、言うことを聞いちゃダメだよ》
あの人はそう言っていた。
...言うことを聞かないと、悪い子になるんじゃないの?
大丈夫なのかな...。
私は色々考えながら、不思議な部屋に連れてこられた。
「...被告人側の方々、どうぞご自由に話してください」
変なものを持ったその男の人は、それだけ言って去っていく。
目の前には、会いたかった人たちがいた。
「久しぶりだね、アイリス」
ー**ー
久しぶりに見たアイリスの瞳は虚ろで、見た目は少し痩せて見えた。
(ちゃんと食べてなかったのか?)
「これ、食べられそう?」
俺はポリッジを手渡した。
「...いいの?」
「はい!アイリスさんに食べてほしくて、みんなで作ったんです」
これは、メルのアイデアだ。
《お腹が空いていたら、話したいこともまとまらないんじゃないでしょうか?私もそうだったので...》
その一言を聞いたとき、俺はメルとはじめて会った時の事を思い出した。
メルは空腹で、衰弱していて...俺が守りたいと思った。
あの頃に比べれば、メルはとても元気になっている。
だが、もし何かあったら...その時、俺は守れるのだろうか。
「カムイ?」
「ごめん、ぼうっとしてた」
「...美味しい。ありがとう」
アイリスが弱々しく微笑んでいた。
その笑顔はとても儚く、月下美人のようにすぐに崩れてしまいそうだった。
「どこか体で変な所はない?」
「うん」
「明日、ここで裁判が開かれる」
「...裁判?何をするの?」
やはりアイリスは、ここの司法制度を知らないようだ。
「ここは裁判をする場所なんだ。それで、さっきいた男の人は法廷の主なんだ」
「法廷の主...?」
どうやって説明しようと悩んでいると、メルが口を開いた。
「法廷の主というのは、裁判する人のなかで一番偉い人です」
ー*ー
「一番偉い人...」
「はい!裁判長さんって言うんですよ」
いきなり裁判長さんですと言っても、多分アイリスさんは分からない。
だから、アイリスさんに分かる言葉で説明しようと思った。
「法律というものがあって、それを使って有罪か無罪かを決めるんです」
「有罪?無罪?」
「えっと...」
「今回の場合はアイリスが人を殺したか殺していないかを判断して、罰を考えるんだ」
カムイがフォローを入れてくれて、なんとか説明することはできた。
アイリスさんは肩を震わせて、小さいけれどはっきりとこう言った。
「私は人を殺してない」
「はい、アイリスさんが殺していないのは分かっています。でも、それを裁判官の人たちに証明しないといけなくて...」
「どうやって?」
「その為に俺たちがいる」
エリックさんはアイリスさんの頭を撫でながら、宥めるように呟いた。
「証拠は集めた。本当は証人がいればもっとよかったのだが、その時間はなくてな...」
「...ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
カムイにそう聞かれても、アイリスさんは俯いたまま、拳をぎゅっと握りしめていた。
「いいか、アイリス。これは俺たちが勝手にやっていることだ。だから、そんなに申し訳なさそうな顔をするな。いいな?」
「エリック...」
エリックさんはアイリスさんの小さな体を抱きしめていた。
少し遠くからでも、アイリスさんの目から一筋の雫が零れるのが見えた。
ー**ー
まさか、女の子が苦手なエリックがこんな行動に出るとは思っていなかった。
「メル、外に出ていよう」
俺が小声で言うと、メルはこくりと頷いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
裁判所の外、もう陽が傾きはじめている。
「裁判の説明は、エリックがしているはずだよ」
「そうですね」
メルは安心したような表情をみせる。
...俺もエリックに見習って、たまには素直に伝えてみよう。
「メル」
「はい...っ!」
俺が突然抱きしめたものだから、メルはとても驚いていた。
「さっきはありがとう。アイリスにどう説明すればいいのか、分からなくて...」
「お役にたててよかったです」
「それと、考え事をしていて」
身体を離してメルの表情を窺うと、心配の色が見てとれた。
「明日、もしあの男にメルが何かされたらってどうしようって、ずっとそればかり考えちゃって...」
「私はどこにも行きません」
メルは真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。
そして、いつものようににこにこして俺の手に手を添えた。
「ずっと、カムイの側にいます」
「ありがとう」
夕陽が見守るなか、俺たちはそっと口づけを交わした。
しばらくして、裁判所からエリックが出てきた。
「アイリスは?」
「牢屋に戻った」
「そっか」
「明日で終わらせましょうね」
「ああ」
「そうだね」
俺たちはそう誓って、家路を急いだ。
...いよいよ明日はアイリスの運命を決める、重要な裁判だ。
夜遅くまで、みんなで打ち合わせをした。
(この作戦で、上手く決める!)
ーーアイリスの裁判まで、あと十時間。
その日、私は外に出られた。
隣のお部屋の人は、顔も出していない。
さっきまで話していたのが嘘みたいだった。
《あいつらに何を言われても、言うことを聞いちゃダメだよ》
あの人はそう言っていた。
...言うことを聞かないと、悪い子になるんじゃないの?
大丈夫なのかな...。
私は色々考えながら、不思議な部屋に連れてこられた。
「...被告人側の方々、どうぞご自由に話してください」
変なものを持ったその男の人は、それだけ言って去っていく。
目の前には、会いたかった人たちがいた。
「久しぶりだね、アイリス」
ー**ー
久しぶりに見たアイリスの瞳は虚ろで、見た目は少し痩せて見えた。
(ちゃんと食べてなかったのか?)
「これ、食べられそう?」
俺はポリッジを手渡した。
「...いいの?」
「はい!アイリスさんに食べてほしくて、みんなで作ったんです」
これは、メルのアイデアだ。
《お腹が空いていたら、話したいこともまとまらないんじゃないでしょうか?私もそうだったので...》
その一言を聞いたとき、俺はメルとはじめて会った時の事を思い出した。
メルは空腹で、衰弱していて...俺が守りたいと思った。
あの頃に比べれば、メルはとても元気になっている。
だが、もし何かあったら...その時、俺は守れるのだろうか。
「カムイ?」
「ごめん、ぼうっとしてた」
「...美味しい。ありがとう」
アイリスが弱々しく微笑んでいた。
その笑顔はとても儚く、月下美人のようにすぐに崩れてしまいそうだった。
「どこか体で変な所はない?」
「うん」
「明日、ここで裁判が開かれる」
「...裁判?何をするの?」
やはりアイリスは、ここの司法制度を知らないようだ。
「ここは裁判をする場所なんだ。それで、さっきいた男の人は法廷の主なんだ」
「法廷の主...?」
どうやって説明しようと悩んでいると、メルが口を開いた。
「法廷の主というのは、裁判する人のなかで一番偉い人です」
ー*ー
「一番偉い人...」
「はい!裁判長さんって言うんですよ」
いきなり裁判長さんですと言っても、多分アイリスさんは分からない。
だから、アイリスさんに分かる言葉で説明しようと思った。
「法律というものがあって、それを使って有罪か無罪かを決めるんです」
「有罪?無罪?」
「えっと...」
「今回の場合はアイリスが人を殺したか殺していないかを判断して、罰を考えるんだ」
カムイがフォローを入れてくれて、なんとか説明することはできた。
アイリスさんは肩を震わせて、小さいけれどはっきりとこう言った。
「私は人を殺してない」
「はい、アイリスさんが殺していないのは分かっています。でも、それを裁判官の人たちに証明しないといけなくて...」
「どうやって?」
「その為に俺たちがいる」
エリックさんはアイリスさんの頭を撫でながら、宥めるように呟いた。
「証拠は集めた。本当は証人がいればもっとよかったのだが、その時間はなくてな...」
「...ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
カムイにそう聞かれても、アイリスさんは俯いたまま、拳をぎゅっと握りしめていた。
「いいか、アイリス。これは俺たちが勝手にやっていることだ。だから、そんなに申し訳なさそうな顔をするな。いいな?」
「エリック...」
エリックさんはアイリスさんの小さな体を抱きしめていた。
少し遠くからでも、アイリスさんの目から一筋の雫が零れるのが見えた。
ー**ー
まさか、女の子が苦手なエリックがこんな行動に出るとは思っていなかった。
「メル、外に出ていよう」
俺が小声で言うと、メルはこくりと頷いた。
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裁判所の外、もう陽が傾きはじめている。
「裁判の説明は、エリックがしているはずだよ」
「そうですね」
メルは安心したような表情をみせる。
...俺もエリックに見習って、たまには素直に伝えてみよう。
「メル」
「はい...っ!」
俺が突然抱きしめたものだから、メルはとても驚いていた。
「さっきはありがとう。アイリスにどう説明すればいいのか、分からなくて...」
「お役にたててよかったです」
「それと、考え事をしていて」
身体を離してメルの表情を窺うと、心配の色が見てとれた。
「明日、もしあの男にメルが何かされたらってどうしようって、ずっとそればかり考えちゃって...」
「私はどこにも行きません」
メルは真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。
そして、いつものようににこにこして俺の手に手を添えた。
「ずっと、カムイの側にいます」
「ありがとう」
夕陽が見守るなか、俺たちはそっと口づけを交わした。
しばらくして、裁判所からエリックが出てきた。
「アイリスは?」
「牢屋に戻った」
「そっか」
「明日で終わらせましょうね」
「ああ」
「そうだね」
俺たちはそう誓って、家路を急いだ。
...いよいよ明日はアイリスの運命を決める、重要な裁判だ。
夜遅くまで、みんなで打ち合わせをした。
(この作戦で、上手く決める!)
ーーアイリスの裁判まで、あと十時間。
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