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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第146話
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私は今日も小さな窓から空を見る。
「...それ、好きだね」
「あなたは、また出てきたの?」
「ううん。この部屋は窓がついてるから、今日はそこを開けてるだけだよ」
「...そう」
この人は、どうして毎日私に話しかけてくるんだろう。
「つまらなそうだね」
「一人は、寂しい」
「きみはすぐ出られるよ。あの子たちは、絶対にきみを出してくれる」
「どうして私に話しかけてくるの?」
「この間、ぼうやのお友だちに頼まれたからね。きみが寂しい思いをしないように、ずっと相手をしていてくれって」
エリック...。
「それに、僕も一人は嫌だから...かな」
その人はまた寂しそうに笑っていた。
私がここから出られたら、この人がどんな人なのかエリックに聞いてみよう。
今の私の心には、そんな希望が残っている。
...早く会いたい。
ー**ー
「一つ分からないことがあるんだけど...」
「なんだ?」
「アイリスが靴を売った相手って、特定できないかな?」
恐らく、これが一番の問題点だ。
アイリスが売ったとは言え、元々アイリスのものだったのは事実。
それを如何にしてひっくり返すか...実はまだ、策が浮かんでいない。
「靴を売ったのは三ヶ月前。...買ったのは男だったそうだ」
「アイリスさんが言っていたんですか?」
「ああ。顔に傷がある男だったと言っていた」
「...でも、それを立証する方法がない」
本人の証言のみでは、証拠として認められる可能性が極めて低い。
最悪、嘘をついているとみなされ...無罪を主張できないどころか刑が重くなる場合もある。
(アイリスは字が書けなかった。つまり、帳簿もつけられない)
「...こういうのは嫌な気もするのですが、靴を落としたことにはできませんか?」
「偽証は犯罪だぞ」
「...ですよね」
メルは肩を落とした。
だが、俺はその言葉で打開策を思いついた。
「...それ、ありかもしれない」
「え?」
ー*ー
どういうことだろう。
偽証は重罪。
嘘はいけない。
でも、それがいいなんて...。
エリックさんも、意味が分からないという表情を浮かべていた。
「おまえ、まさか偽証するつもりか?」
「そんなわけないでしょ?」
「それなら一体、どういうことですか?」
「...エリック。裁判官の知り合いいたよね?」
「おい、まさか、」
カムイは羊皮紙に何かを書きはじめた。
しばらく沈黙が続いたあと、カムイはそれを綺麗な封筒に入れてエリックさんに渡した。
「『捜査協力依頼書』だよ」
(捜査協力依頼書...?何をする為のものなんでしょうか?)
「...」
「危険なことをしている自覚はある。でも、アイリスを救うには今はこれしか思いつかない。...エリック、届けてくれる?」
「分かった。今回は特例だからな」
「ごめん」
「俺だってアイリスを助けたいのは同じだ」
エリックさんは封筒を持って、急いでどこかへ行ってしまった。
「俺にもっと、知恵があればよかったのにね」
「カムイ...」
カムイはとても辛そうだった。
私にできることはなんだろう...そう考えたとき、みんな疲れていることに気づいた。
「紅茶のおかわりを淹れますね」
私はカムイに少しでも休んでもらえるように、いつもより熱めにアールグレイを淹れた。
ー**ー
結局、メルだけでなくエリックにも気を遣わせてしまった。
(...俺は最低だな)
「本当はカモミールの方がいいと思うのですが、紅茶を飲めば少しは疲れがとれると思います」
メルはにこにこしながら俺にティーカップを差し出してきた。
「ありがとう」
「私も飲みます。...カムイがいいなら、教えてもらえませんか?」
「捜査協力依頼書のこと?」
メルは遠慮がちに頷いた。
「...『本当の犯人が裁判所にくるから、いくつか偽証をします』って書いたんだ」
「え...」
恐らく本物の犯人は、俺たちが絶望するのを見る為に傍聴席に現れるはずだ。
(あのタイプは人が苦しむ姿を見たがる傾向が強いから、こない可能性の方が低い)
「五手先まで読んでおかないと、裏をかかれたら終わるからね」
「でも、犯人さんはくるんでしょうか?」
「俺はそう思う」
読みが甘かったでは済まされない。
だから俺は、相手の心理をつくことにした。
もしこの手に乗ってくれれば、アイリスの無実をより強く主張できる。
...もう、裁判まで時間がない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夕方、エリックがやってきた。
「手紙は渡した。...許可するそうだ」
「よかった」
「アイリスさん、出てこられますか...?」
メルは少し不安そうにしていたが、俺は頭を優しく撫でて、心配しないでと伝えた。
まだ不安そうに瞳が揺れていたが、メルは分かりましたと言っていた。
できることは全てした。
これで大丈夫...な、はずだ。
「ところでエリック」
「なんだ」
「夢監獄でのこと、聞かせて?」
「なっ...」
「私も聞きたいです!」
メルのキラキラした瞳を見て、エリックはアイリスと会った時の話をはじめた。
「あの日、俺は...」
ーーアイリスの裁判まで、あと一日。
「...それ、好きだね」
「あなたは、また出てきたの?」
「ううん。この部屋は窓がついてるから、今日はそこを開けてるだけだよ」
「...そう」
この人は、どうして毎日私に話しかけてくるんだろう。
「つまらなそうだね」
「一人は、寂しい」
「きみはすぐ出られるよ。あの子たちは、絶対にきみを出してくれる」
「どうして私に話しかけてくるの?」
「この間、ぼうやのお友だちに頼まれたからね。きみが寂しい思いをしないように、ずっと相手をしていてくれって」
エリック...。
「それに、僕も一人は嫌だから...かな」
その人はまた寂しそうに笑っていた。
私がここから出られたら、この人がどんな人なのかエリックに聞いてみよう。
今の私の心には、そんな希望が残っている。
...早く会いたい。
ー**ー
「一つ分からないことがあるんだけど...」
「なんだ?」
「アイリスが靴を売った相手って、特定できないかな?」
恐らく、これが一番の問題点だ。
アイリスが売ったとは言え、元々アイリスのものだったのは事実。
それを如何にしてひっくり返すか...実はまだ、策が浮かんでいない。
「靴を売ったのは三ヶ月前。...買ったのは男だったそうだ」
「アイリスさんが言っていたんですか?」
「ああ。顔に傷がある男だったと言っていた」
「...でも、それを立証する方法がない」
本人の証言のみでは、証拠として認められる可能性が極めて低い。
最悪、嘘をついているとみなされ...無罪を主張できないどころか刑が重くなる場合もある。
(アイリスは字が書けなかった。つまり、帳簿もつけられない)
「...こういうのは嫌な気もするのですが、靴を落としたことにはできませんか?」
「偽証は犯罪だぞ」
「...ですよね」
メルは肩を落とした。
だが、俺はその言葉で打開策を思いついた。
「...それ、ありかもしれない」
「え?」
ー*ー
どういうことだろう。
偽証は重罪。
嘘はいけない。
でも、それがいいなんて...。
エリックさんも、意味が分からないという表情を浮かべていた。
「おまえ、まさか偽証するつもりか?」
「そんなわけないでしょ?」
「それなら一体、どういうことですか?」
「...エリック。裁判官の知り合いいたよね?」
「おい、まさか、」
カムイは羊皮紙に何かを書きはじめた。
しばらく沈黙が続いたあと、カムイはそれを綺麗な封筒に入れてエリックさんに渡した。
「『捜査協力依頼書』だよ」
(捜査協力依頼書...?何をする為のものなんでしょうか?)
「...」
「危険なことをしている自覚はある。でも、アイリスを救うには今はこれしか思いつかない。...エリック、届けてくれる?」
「分かった。今回は特例だからな」
「ごめん」
「俺だってアイリスを助けたいのは同じだ」
エリックさんは封筒を持って、急いでどこかへ行ってしまった。
「俺にもっと、知恵があればよかったのにね」
「カムイ...」
カムイはとても辛そうだった。
私にできることはなんだろう...そう考えたとき、みんな疲れていることに気づいた。
「紅茶のおかわりを淹れますね」
私はカムイに少しでも休んでもらえるように、いつもより熱めにアールグレイを淹れた。
ー**ー
結局、メルだけでなくエリックにも気を遣わせてしまった。
(...俺は最低だな)
「本当はカモミールの方がいいと思うのですが、紅茶を飲めば少しは疲れがとれると思います」
メルはにこにこしながら俺にティーカップを差し出してきた。
「ありがとう」
「私も飲みます。...カムイがいいなら、教えてもらえませんか?」
「捜査協力依頼書のこと?」
メルは遠慮がちに頷いた。
「...『本当の犯人が裁判所にくるから、いくつか偽証をします』って書いたんだ」
「え...」
恐らく本物の犯人は、俺たちが絶望するのを見る為に傍聴席に現れるはずだ。
(あのタイプは人が苦しむ姿を見たがる傾向が強いから、こない可能性の方が低い)
「五手先まで読んでおかないと、裏をかかれたら終わるからね」
「でも、犯人さんはくるんでしょうか?」
「俺はそう思う」
読みが甘かったでは済まされない。
だから俺は、相手の心理をつくことにした。
もしこの手に乗ってくれれば、アイリスの無実をより強く主張できる。
...もう、裁判まで時間がない。
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夕方、エリックがやってきた。
「手紙は渡した。...許可するそうだ」
「よかった」
「アイリスさん、出てこられますか...?」
メルは少し不安そうにしていたが、俺は頭を優しく撫でて、心配しないでと伝えた。
まだ不安そうに瞳が揺れていたが、メルは分かりましたと言っていた。
できることは全てした。
これで大丈夫...な、はずだ。
「ところでエリック」
「なんだ」
「夢監獄でのこと、聞かせて?」
「なっ...」
「私も聞きたいです!」
メルのキラキラした瞳を見て、エリックはアイリスと会った時の話をはじめた。
「あの日、俺は...」
ーーアイリスの裁判まで、あと一日。
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