路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-Light of a new request-

第145話

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みんなが、調べてくれている。
本当は私も何かしたいけれど...今は、何もできない。
「ねえ」
声がした方を向くと、また隣の人が部屋を抜け出していた。
「あなたはどうしてまたお部屋を出られたの?」
「...出してあげよっか?」
「いい。そうしたらエリックたちに迷惑がかかるから」
「ふーん。まあ、あの子たちが絶対出してくれるよ」
「あなたは、エリックのお友だち?」
「さあね」
その人が寂しそうに言うのを見て、言ってはいけないことだったのだと気づいた。
ここから早く出たい。
もし出られたその時は...
ー**ー
「ありがとう、エリック」
「いや、気にするな」
そう言ったエリックは、かなり疲れているのが見てとれた。
「...部屋を貸すから、ちょっと寝て?『夢監獄』での話は後で聞かせてくれればいいから」
「すまない」
エリックは力なくそう言って、そのまま部屋で寝息をたてていた。
「おはようございます、カムイ」
「おはよう。その部屋にエリックがいるけど、今は起こさないであげてね」
「分かりました。紅茶を淹れますね」
メルはいつもより小声で話してくれた。
俺はメルが紅茶を淹れてくれている間に、エリックが預かってきた資料に目を通す。
(『男には傷痕があったという証言あり』...やっぱり、犯人は一人しかいない)
俺は資料と一緒にあった紙袋の中を、そっと見てみる。
その中には、破片が入っていた。
(メルに頼むしかないな...)
俺の気分は一気に沈んだ。
またメルに頼らなければならないことを、俺はとても申し訳なく思った。
「カムイ、私にできることはありますか?」
ー*ー
ふとテーブルの方を見ると、カムイが複雑な表情をしていた。
その視線の先には、先程までなかった紙袋。
(もしかすると、私がお役にたてることなのかもしれません)
「カムイ、私にできることはありますか?」
「...この破片、組みたてられる?」
「はい、できると思います」
なんだかカムイが辛そうな表情をしているような気がした。
「カムイ...?」
カムイに突然抱きしめられたと思うと、震える手で私を包みながらぽつりぽつりと話しはじめた。
「俺は結局、またメルにこんなものを押しつけなければいけない...」
「...」
「守るって言ったのに、何もできてない」
そんなことないと言いたいのに、それだけでは足りないような気がした。
「ごめんね、散々巻きこんで...」
このままでは、またカムイは自分一人を責めてしまう。
(とにかく今は、破片を直すことにしましょう)
「気にしないでください。...私に、任せてください」
ー**ー
また、酷なことを頼んでしまった。
「本当にごめん...」
(もっと俺がなんとかできればいいのに)
しばらくして、メルが完成させてくれた。
「これは...」
「はい、多分そうだと思います」
「ありがとう、メル」
「私はカムイの為ならなんだってできます」
「...?」
「二人一緒なら、無敵です」
メルはにこにこして俺の方を優しい瞳で見つめていた。
「メル...」
『二人一緒なら』...俺はその言葉が嫌いじゃない。
(ずっとメルの側にいたい)
「ごめん...ありがとう、メル」
気づけば俺の目から、一筋の滴が落ちていた。
メルは黙ってふいてくれた。
そのあとは俺が泣き止むまで、ずっと手を握ってくれていた。
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「すまない、今は何時だ?」
俺がすっかり泣き止んだ頃、エリックが起きてきた。
「二時だよ」
「もうそんな時間か」
「それより、これ見て」
俺はメルと一緒にまとめたノートをエリックに見せた。
「これは...。これを裁判で使うのか?」
「そう思ってる。あとは記述で何ヵ所か気になる部分を書きだしておいたよ」
「感謝する」
エリックは安心したようにノートを読んでいた。
(これで釈放されればいいけど...問題は妨害が入らないかどうかだな)
ー*ー
私はエリックさんに破片を組みたてたものを渡した。
「これは、紙袋のものか?」
「はい!完成させておきました」
「ありがとう」
エリックさんはとても大切に袋にしまっていた。
「裁判まで、部屋を借りてもいいか?」
「俺はいいけど、どうして?」
「...一人でいると、不安なんだ」
私には、その気持ちがなんとなく分かるような気がした。
もしカムイが無実なのに捕まってしまったら...きっと今よりずっと落ち着いていられないと思う。
きっと、エリックさんも同じなのだと思った。
「カムイ、久しぶりに三人で一緒に過ごすのもいいと思います」
「そうだね」
恐らくカムイも、エリックさんが思っていることを察しているのだろう。
「資料の読み直しをしましょう」
「それもそうだね」
「俺が見ておかしいと思ったところも、言っていいか?」
「勿論」
私は紅茶を淹れなおしながら、心のなかで呟いた。
(アイリスさん、もう少しだけ待っていてください)
















ーーアイリスの裁判まで、あと二日。
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