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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第141話
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ー**ー
「こんにちは。今日はどうしたのかな?」
「こ、転んだ!」
最近、子どもがよく怪我でやってくる。
(...虐待も視野にいれた方がよさそうだな)
『虐待』...そういえば、アイリスの体の傷はどうやってついたものなのだろう。
虐待ではなさそうだが、だからこそ原因が分からない。
「お大事に」
俺は少年を見送ったあと、出掛ける準備をはじめた。
「カムイ、メアさんの所へ行くんですか?」
「うん。メルも一緒にきてくれる?」
「はい!」
メアの元を訪ねてから数日。
もしかすると、何か情報を得られるかもしれない。
そう思った俺は、もう一度メアの所へ行こうと決意した。
「カムイ、お待たせしました!」
「行こうか」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぼうや...僕、疲れたよ」
「メアさん、どうかされたんですか?」
「取り敢えず、まとめたから」
メアは紙の束を渡してくれた。
俺はざっと目をとおすことにした。
【アイリーンの死因は絞殺。
付近で男性を目撃したとの情報あり。
バーで自慢げに語っていた男性がいたらしく、恐らく同一人物。
近くにワイヤーが落ちていた】
「囚人のうちの一人が言ってたよ。『男は殺人を楽しんでいるようで、手慣れてる』って」
メアは複雑そうな表情をしていた。
...恐らく俺たちが考えていることは同じだろう。
ー*ー
メアさんの様子を見て、私は二人がどう予想したのかなんとなく分かった。
「メルはどう思う?」
「ワイヤーが落ちていたんですよね?...そのワイヤーって、誰かが持っていたりするのでしょうか?」
「確かに。『落ちていた』所を見ているなら、彼が持っているかも。ここって意外と検査が甘いから、隠し持っているのかも。ぼうやたちが次にくる前に聞いておくよ」
メアさんはへらっと笑って言ってくれた。
「この資料、ありがたく読ませてもらうよ。ありがとう」
「メアさん、またです」
「...なんだか不思議だ」
メアさんは不思議だと繰り返し言いながら、私たちを見送っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メル、ありがとう」
「...?どうしてお礼を言うんですか?」
「メルに言われるまで気づかなかったから。それに...メルがいてくれるから、俺は頑張れる」
カムイは私の頭をそっと撫で、馬車まで優しく手をひいてくれた。
「あの、アイリスさんたちの所には行かなくていいんですか?」
「資料を置いたら一応行ってみようか」
「はい!アップルパイを焼いて持っていきたいです」
「そうだね、そうしよう」
カムイは柔らかい表情で私の方を見ていた。
ー**ー
なんだかゆっくり料理を作るのは、とても久しぶりに感じた。
「りんごはこれでいいですか?」
「うーん...もう少し小さく切ろうか」
「はい!」
メルは真面目に慎重に、細かく切っていく。
その姿がなんだか可愛らしくて...。
抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて、俺はオーブンの準備をした。
「メル、メルが淹れた紅茶を飲みたい。...いいかな?」
「はい!」
メルはふわふわとした笑顔で俺の願いを聞いてくれた。
「...っと、その前に」
「?」
俺はメルの腕をそっと見た。
「包帯を巻き直してもいいかな?」
「分かりました」
最近ようやくメルの右腕の怪我が治ってきているので、寝ている間は薬を塗るだけにして様子を見ることにしている。
だが、やはり外に出たときに何かの拍子でぶつかったりすると心配なので、起きているうち...特に出掛ける時には包帯を巻くことにしている。
(痕には残らなさそうだから、本当によかった)
ー*ー
パイを作り終えた頃には、外は茜色に染まっていた。
「そろそろ行こうか」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はい...ああ、おまえたちか」
エリックさんは少し疲れた様子で私たちを見ていた。
「アイリスさん、こんばんは」
「...こんばんは」
何があったのか、二人とも顔が夕陽くらい赤い。
「あの、カムイ。お二人とも具合が悪そうなので帰った方が...」
私がそこまで言うと、カムイは笑いを堪えていた。
「メル、耳かして」
「...?はい」
カムイはこそこそっと教えてくれた。
「二人はお互いを意識しすぎて赤くなっているんだと思うよ」
「そうなんですか?」
たしかに、二人とも耳まで真っ赤だ。
熱ではここまで赤くはならない。
「お二人とも、アップルパイ食べませんか?」
「あー...今日はマドレーヌを作って食べたんだ。だが、夕食を作っていないから、その代わりにするなら丁度いい」
「...分かった」
二人はいつもどおりに振る舞おうとしているようだが、なんだかいつもと違って見える。
(何かできることは...)
「カムイ、エリックさんたちがもしよければ、今日はキッチンを御借りして、四人で夕食を食べませんか?」
「いいね!エリック、アイリス。二人はどう?」
「キッチンを貸すのはいいが、材料が何もないぞ?」
「...卵ならある、かも」
「それで充分です!」
卵で作れるものはだいたい決まっている。
カムイも同じ事を考えていたようで、私が考えていたことを口にしていた。
「それならキッシュとオムレットを作ろう。...エリックとアイリスはキッシュをお願い」
「こんにちは。今日はどうしたのかな?」
「こ、転んだ!」
最近、子どもがよく怪我でやってくる。
(...虐待も視野にいれた方がよさそうだな)
『虐待』...そういえば、アイリスの体の傷はどうやってついたものなのだろう。
虐待ではなさそうだが、だからこそ原因が分からない。
「お大事に」
俺は少年を見送ったあと、出掛ける準備をはじめた。
「カムイ、メアさんの所へ行くんですか?」
「うん。メルも一緒にきてくれる?」
「はい!」
メアの元を訪ねてから数日。
もしかすると、何か情報を得られるかもしれない。
そう思った俺は、もう一度メアの所へ行こうと決意した。
「カムイ、お待たせしました!」
「行こうか」
「はい!」
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「ぼうや...僕、疲れたよ」
「メアさん、どうかされたんですか?」
「取り敢えず、まとめたから」
メアは紙の束を渡してくれた。
俺はざっと目をとおすことにした。
【アイリーンの死因は絞殺。
付近で男性を目撃したとの情報あり。
バーで自慢げに語っていた男性がいたらしく、恐らく同一人物。
近くにワイヤーが落ちていた】
「囚人のうちの一人が言ってたよ。『男は殺人を楽しんでいるようで、手慣れてる』って」
メアは複雑そうな表情をしていた。
...恐らく俺たちが考えていることは同じだろう。
ー*ー
メアさんの様子を見て、私は二人がどう予想したのかなんとなく分かった。
「メルはどう思う?」
「ワイヤーが落ちていたんですよね?...そのワイヤーって、誰かが持っていたりするのでしょうか?」
「確かに。『落ちていた』所を見ているなら、彼が持っているかも。ここって意外と検査が甘いから、隠し持っているのかも。ぼうやたちが次にくる前に聞いておくよ」
メアさんはへらっと笑って言ってくれた。
「この資料、ありがたく読ませてもらうよ。ありがとう」
「メアさん、またです」
「...なんだか不思議だ」
メアさんは不思議だと繰り返し言いながら、私たちを見送っていた。
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「メル、ありがとう」
「...?どうしてお礼を言うんですか?」
「メルに言われるまで気づかなかったから。それに...メルがいてくれるから、俺は頑張れる」
カムイは私の頭をそっと撫で、馬車まで優しく手をひいてくれた。
「あの、アイリスさんたちの所には行かなくていいんですか?」
「資料を置いたら一応行ってみようか」
「はい!アップルパイを焼いて持っていきたいです」
「そうだね、そうしよう」
カムイは柔らかい表情で私の方を見ていた。
ー**ー
なんだかゆっくり料理を作るのは、とても久しぶりに感じた。
「りんごはこれでいいですか?」
「うーん...もう少し小さく切ろうか」
「はい!」
メルは真面目に慎重に、細かく切っていく。
その姿がなんだか可愛らしくて...。
抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて、俺はオーブンの準備をした。
「メル、メルが淹れた紅茶を飲みたい。...いいかな?」
「はい!」
メルはふわふわとした笑顔で俺の願いを聞いてくれた。
「...っと、その前に」
「?」
俺はメルの腕をそっと見た。
「包帯を巻き直してもいいかな?」
「分かりました」
最近ようやくメルの右腕の怪我が治ってきているので、寝ている間は薬を塗るだけにして様子を見ることにしている。
だが、やはり外に出たときに何かの拍子でぶつかったりすると心配なので、起きているうち...特に出掛ける時には包帯を巻くことにしている。
(痕には残らなさそうだから、本当によかった)
ー*ー
パイを作り終えた頃には、外は茜色に染まっていた。
「そろそろ行こうか」
「はい!」
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「はい...ああ、おまえたちか」
エリックさんは少し疲れた様子で私たちを見ていた。
「アイリスさん、こんばんは」
「...こんばんは」
何があったのか、二人とも顔が夕陽くらい赤い。
「あの、カムイ。お二人とも具合が悪そうなので帰った方が...」
私がそこまで言うと、カムイは笑いを堪えていた。
「メル、耳かして」
「...?はい」
カムイはこそこそっと教えてくれた。
「二人はお互いを意識しすぎて赤くなっているんだと思うよ」
「そうなんですか?」
たしかに、二人とも耳まで真っ赤だ。
熱ではここまで赤くはならない。
「お二人とも、アップルパイ食べませんか?」
「あー...今日はマドレーヌを作って食べたんだ。だが、夕食を作っていないから、その代わりにするなら丁度いい」
「...分かった」
二人はいつもどおりに振る舞おうとしているようだが、なんだかいつもと違って見える。
(何かできることは...)
「カムイ、エリックさんたちがもしよければ、今日はキッチンを御借りして、四人で夕食を食べませんか?」
「いいね!エリック、アイリス。二人はどう?」
「キッチンを貸すのはいいが、材料が何もないぞ?」
「...卵ならある、かも」
「それで充分です!」
卵で作れるものはだいたい決まっている。
カムイも同じ事を考えていたようで、私が考えていたことを口にしていた。
「それならキッシュとオムレットを作ろう。...エリックとアイリスはキッシュをお願い」
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