路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
184 / 220
Until the day when I get married.-Light of a new request-

第141話

しおりを挟む
ー**ー
「こんにちは。今日はどうしたのかな?」
「こ、転んだ!」
最近、子どもがよく怪我でやってくる。
(...虐待も視野にいれた方がよさそうだな)
『虐待』...そういえば、アイリスの体の傷はどうやってついたものなのだろう。
虐待ではなさそうだが、だからこそ原因が分からない。
「お大事に」
俺は少年を見送ったあと、出掛ける準備をはじめた。
「カムイ、メアさんの所へ行くんですか?」
「うん。メルも一緒にきてくれる?」
「はい!」
メアの元を訪ねてから数日。
もしかすると、何か情報を得られるかもしれない。
そう思った俺は、もう一度メアの所へ行こうと決意した。
「カムイ、お待たせしました!」
「行こうか」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぼうや...僕、疲れたよ」
「メアさん、どうかされたんですか?」
「取り敢えず、まとめたから」
メアは紙の束を渡してくれた。
俺はざっと目をとおすことにした。
【アイリーンの死因は絞殺。
付近で男性を目撃したとの情報あり。
バーで自慢げに語っていた男性がいたらしく、恐らく同一人物。
近くにワイヤーが落ちていた】
「囚人のうちの一人が言ってたよ。『男は殺人を楽しんでいるようで、手慣れてる』って」
メアは複雑そうな表情をしていた。
...恐らく俺たちが考えていることは同じだろう。
ー*ー
メアさんの様子を見て、私は二人がどう予想したのかなんとなく分かった。
「メルはどう思う?」
「ワイヤーが落ちていたんですよね?...そのワイヤーって、誰かが持っていたりするのでしょうか?」
「確かに。『落ちていた』所を見ているなら、彼が持っているかも。ここって意外と検査が甘いから、隠し持っているのかも。ぼうやたちが次にくる前に聞いておくよ」
メアさんはへらっと笑って言ってくれた。
「この資料、ありがたく読ませてもらうよ。ありがとう」
「メアさん、またです」
「...なんだか不思議だ」
メアさんは不思議だと繰り返し言いながら、私たちを見送っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「メル、ありがとう」
「...?どうしてお礼を言うんですか?」
「メルに言われるまで気づかなかったから。それに...メルがいてくれるから、俺は頑張れる」
カムイは私の頭をそっと撫で、馬車まで優しく手をひいてくれた。
「あの、アイリスさんたちの所には行かなくていいんですか?」
「資料を置いたら一応行ってみようか」
「はい!アップルパイを焼いて持っていきたいです」
「そうだね、そうしよう」
カムイは柔らかい表情で私の方を見ていた。
ー**ー
なんだかゆっくり料理を作るのは、とても久しぶりに感じた。
「りんごはこれでいいですか?」
「うーん...もう少し小さく切ろうか」
「はい!」
メルは真面目に慎重に、細かく切っていく。
その姿がなんだか可愛らしくて...。
抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて、俺はオーブンの準備をした。
「メル、メルが淹れた紅茶を飲みたい。...いいかな?」
「はい!」
メルはふわふわとした笑顔で俺の願いを聞いてくれた。
「...っと、その前に」
「?」
俺はメルの腕をそっと見た。
「包帯を巻き直してもいいかな?」
「分かりました」
最近ようやくメルの右腕の怪我が治ってきているので、寝ている間は薬を塗るだけにして様子を見ることにしている。
だが、やはり外に出たときに何かの拍子でぶつかったりすると心配なので、起きているうち...特に出掛ける時には包帯を巻くことにしている。
(痕には残らなさそうだから、本当によかった)
ー*ー
パイを作り終えた頃には、外は茜色に染まっていた。
「そろそろ行こうか」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はい...ああ、おまえたちか」
エリックさんは少し疲れた様子で私たちを見ていた。
「アイリスさん、こんばんは」
「...こんばんは」
何があったのか、二人とも顔が夕陽くらい赤い。
「あの、カムイ。お二人とも具合が悪そうなので帰った方が...」
私がそこまで言うと、カムイは笑いを堪えていた。
「メル、耳かして」
「...?はい」
カムイはこそこそっと教えてくれた。
「二人はお互いを意識しすぎて赤くなっているんだと思うよ」
「そうなんですか?」
たしかに、二人とも耳まで真っ赤だ。
熱ではここまで赤くはならない。
「お二人とも、アップルパイ食べませんか?」
「あー...今日はマドレーヌを作って食べたんだ。だが、夕食を作っていないから、その代わりにするなら丁度いい」
「...分かった」
二人はいつもどおりに振る舞おうとしているようだが、なんだかいつもと違って見える。
(何かできることは...)
「カムイ、エリックさんたちがもしよければ、今日はキッチンを御借りして、四人で夕食を食べませんか?」
「いいね!エリック、アイリス。二人はどう?」
「キッチンを貸すのはいいが、材料が何もないぞ?」
「...卵ならある、かも」
「それで充分です!」
卵で作れるものはだいたい決まっている。
カムイも同じ事を考えていたようで、私が考えていたことを口にしていた。
「それならキッシュとオムレットを作ろう。...エリックとアイリスはキッシュをお願い」
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

【完結】元悪役令嬢の劣化コピーは白銀の竜とひっそり静かに暮らしたい

豆田 ✿ 麦
恋愛
 才色兼備の公爵令嬢は、幼き頃から王太子の婚約者。  才に溺れず、分け隔てなく、慈愛に満ちて臣民問わず慕われて。  奇抜に思える発想は公爵領のみならず、王国の経済を潤し民の生活を豊かにさせて。  ―――今では押しも押されもせぬ王妃殿下。そんな王妃殿下を伯母にもつ私は、王妃殿下の模倣品(劣化コピー)。偉大な王妃殿下に倣えと、王太子の婚約者として日々切磋琢磨させられています。  ほら、本日もこのように……  「シャルロット・マクドゥエル公爵令嬢!身分を笠にきた所業の数々、もはや王太子たる私、エドワード・サザンランドの婚約者としてふさわしいものではない。今この時をもってこの婚約を破棄とする!」  ……課題が与えられました。  ■■■  本編全8話完結済み。番外編公開中。  乙女ゲームも悪役令嬢要素もちょっとだけ。花をそえる程度です。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...