179 / 220
Until the day when I get married.-Light of a new request-
第137話
しおりを挟む
「アイリス、行きたい場所はあるか?」
「ない」
「ほしいものは?」
「ない」
「...我儘を言っていいんだぞ」
「充分」
私はほしいものを沢山手に入れた。
一緒にいてくれる人、美味しいご飯...。
気持ちを伝えたいと思った。
「私は、私なんてずっといなければいいと思ってた」
「...」
エリックは黙って聞いてくれた。
「でも、エリックたちのお陰で生きる意味をもらった。だから、これ以上は欲張らない」
私がエリックの方をみると、エリックは私を強く抱きしめた。
「もっと欲張っていい。今まで一人で努力してきた分は報われていいはずだ」
「...分かった」
でも、私はこういう時にどうすればいいのか分からない。
「...今日は一応これを被っておいてほしい」
「分かった」
出掛ける前、私はエリックから渡された外套を羽織り、フードを目深に被った。
「すまない」
「どうして謝るの?」
「すまないな...」
エリックはまた私を強く抱きしめた。
ー**ー
「...で、その怪我の悪化なわけか」
「すまない」
俺は思わずため息をついた。
エリックがナタリー程に力加減を分かっていないというのは意外だった。
「アイリスさん、もう動いて大丈夫ですよ」
「ありがとう」
今日はメルにも手伝ってもらい、包帯を巻きなおした。
メルとアイリスが話しているのを遠くで見ながら、俺はエリックと話していた。
「それにしても...外套でくるなんて考えたね」
「俺が無理に着せた」
「そうなんだ」
エリックは珍しく落ち着かない表情をしていた。
「アイリスのことなら心配しないで。俺がなんとかするから」
「今回は記事が撤回できたからいいものの...次もできるとは限らないんだぞ?」
「真犯人は分かってるから」
間違いなくあいつだ。
写真の提供者もあいつなのだろう。
どんな方法を使ったのかは知らないが、卑怯なことに変わりはない。
(あとはあいつがいそうな場所が分かればいいんだけど...)
「それにしても、どうやって記事を止めた?」
「ちょっとお願いしただけだよ」
権力行使したなんて、できればエリックには知られたくない。
「紅茶を淹れました」
「ありがとう、メル」
「...いただきます」
メルの手を見ると、何か紙が収まっていることに気づいた。
「それ何?」
「アイリスさんがお手紙をくれたんです」
メルは本当に嬉しそうに、にこにこしながら言っていた。
「字が上達したんだね」
「エリックに教えてもらった」
「エリックは教えるのが上手いからね」
「褒めても何も出ないぞ」
エリックは照れくさそうにあたりをきょろきょろ見回した。
(俺の家の家具しかないのに)
俺は思わずくすっと笑った。
それを見たエリックは少し不機嫌そうにしていたが、落ち着きを取り戻したようにティーカップに目を向けた。
「...エリック」
「どうした?」
「熱があるの?」
アイリスはエリックが恥ずかしがっているのに気づかず、風邪をひいたと思っているようだ。
「アイリスさん、エリックさんは...照れているんです」
「照れてる?」
「はい。エリックさんは照れ屋さんなんですよ」
「...意外」
アイリスは不思議そうにエリックを見ていた。
(アイリスもメルに負けないくらい天然な所もあるんだな...)
ー*ー
アイリスさんが、出会った頃より話をしてくれるような気がする。
私はそれが嬉しかった。
「アイリスさん、もしよければ紅茶の淹れ方を教えましょうか...?」
「知りたい」
「分かりました」
私がいつものように淹れると、アイリスさんはそれをじっと見ていた。
「一緒にやってみましょう」
「...こう?」
「はい!それでそのまま...」
教えているうち、腕が痛みだした。
ピリピリと痺れるような痛み。
(傷がある場所が痛みます...)
「エリック、そろそろ帰った方がいいんじゃない?暗くなると危険だし、ここに長居するのも危ないと思う」
「ああ、そうだな。アイリス、行くぞ」
「ありがとう」
「あ...」
そうして二人は帰っていってしまった。
「メル、痛くなったら言う約束だったよね...?」
「...っ、気づいていたんですか?」
「メルのことなら分かるよ」
カムイはむすっとした表情で私を見ている。
約束を破ったのだ、怒られても当然だ。
だが、カムイは私を抱きしめてくれた。
「無理しないでって約束したでしょ?」
「ごめんなさい」
「今度やったら、一番痛い薬で治療するね」
「それだけはやめてください...!」
「じゃあ、ちゃんと言って。心配なんだ」
「...っ、はい」
耳元で囁かれて、私はくすぐったくなるのを一生懸命我慢した。
「...よし」
私の頭をぽんと撫でて、カムイはそっと離れた。
治療をすぐに済ませ、カムイは捜査資料を見せてくれた。
「俺が集めた情報だよ。これで役にたつかは分からないけど...」
「あの...殺人現場に残されていたものとか、分かりますか?」
「待ってて、全部見せるから」
こうして、二人での調査が本格的にはじまった。
(この資料は...)
「ない」
「ほしいものは?」
「ない」
「...我儘を言っていいんだぞ」
「充分」
私はほしいものを沢山手に入れた。
一緒にいてくれる人、美味しいご飯...。
気持ちを伝えたいと思った。
「私は、私なんてずっといなければいいと思ってた」
「...」
エリックは黙って聞いてくれた。
「でも、エリックたちのお陰で生きる意味をもらった。だから、これ以上は欲張らない」
私がエリックの方をみると、エリックは私を強く抱きしめた。
「もっと欲張っていい。今まで一人で努力してきた分は報われていいはずだ」
「...分かった」
でも、私はこういう時にどうすればいいのか分からない。
「...今日は一応これを被っておいてほしい」
「分かった」
出掛ける前、私はエリックから渡された外套を羽織り、フードを目深に被った。
「すまない」
「どうして謝るの?」
「すまないな...」
エリックはまた私を強く抱きしめた。
ー**ー
「...で、その怪我の悪化なわけか」
「すまない」
俺は思わずため息をついた。
エリックがナタリー程に力加減を分かっていないというのは意外だった。
「アイリスさん、もう動いて大丈夫ですよ」
「ありがとう」
今日はメルにも手伝ってもらい、包帯を巻きなおした。
メルとアイリスが話しているのを遠くで見ながら、俺はエリックと話していた。
「それにしても...外套でくるなんて考えたね」
「俺が無理に着せた」
「そうなんだ」
エリックは珍しく落ち着かない表情をしていた。
「アイリスのことなら心配しないで。俺がなんとかするから」
「今回は記事が撤回できたからいいものの...次もできるとは限らないんだぞ?」
「真犯人は分かってるから」
間違いなくあいつだ。
写真の提供者もあいつなのだろう。
どんな方法を使ったのかは知らないが、卑怯なことに変わりはない。
(あとはあいつがいそうな場所が分かればいいんだけど...)
「それにしても、どうやって記事を止めた?」
「ちょっとお願いしただけだよ」
権力行使したなんて、できればエリックには知られたくない。
「紅茶を淹れました」
「ありがとう、メル」
「...いただきます」
メルの手を見ると、何か紙が収まっていることに気づいた。
「それ何?」
「アイリスさんがお手紙をくれたんです」
メルは本当に嬉しそうに、にこにこしながら言っていた。
「字が上達したんだね」
「エリックに教えてもらった」
「エリックは教えるのが上手いからね」
「褒めても何も出ないぞ」
エリックは照れくさそうにあたりをきょろきょろ見回した。
(俺の家の家具しかないのに)
俺は思わずくすっと笑った。
それを見たエリックは少し不機嫌そうにしていたが、落ち着きを取り戻したようにティーカップに目を向けた。
「...エリック」
「どうした?」
「熱があるの?」
アイリスはエリックが恥ずかしがっているのに気づかず、風邪をひいたと思っているようだ。
「アイリスさん、エリックさんは...照れているんです」
「照れてる?」
「はい。エリックさんは照れ屋さんなんですよ」
「...意外」
アイリスは不思議そうにエリックを見ていた。
(アイリスもメルに負けないくらい天然な所もあるんだな...)
ー*ー
アイリスさんが、出会った頃より話をしてくれるような気がする。
私はそれが嬉しかった。
「アイリスさん、もしよければ紅茶の淹れ方を教えましょうか...?」
「知りたい」
「分かりました」
私がいつものように淹れると、アイリスさんはそれをじっと見ていた。
「一緒にやってみましょう」
「...こう?」
「はい!それでそのまま...」
教えているうち、腕が痛みだした。
ピリピリと痺れるような痛み。
(傷がある場所が痛みます...)
「エリック、そろそろ帰った方がいいんじゃない?暗くなると危険だし、ここに長居するのも危ないと思う」
「ああ、そうだな。アイリス、行くぞ」
「ありがとう」
「あ...」
そうして二人は帰っていってしまった。
「メル、痛くなったら言う約束だったよね...?」
「...っ、気づいていたんですか?」
「メルのことなら分かるよ」
カムイはむすっとした表情で私を見ている。
約束を破ったのだ、怒られても当然だ。
だが、カムイは私を抱きしめてくれた。
「無理しないでって約束したでしょ?」
「ごめんなさい」
「今度やったら、一番痛い薬で治療するね」
「それだけはやめてください...!」
「じゃあ、ちゃんと言って。心配なんだ」
「...っ、はい」
耳元で囁かれて、私はくすぐったくなるのを一生懸命我慢した。
「...よし」
私の頭をぽんと撫でて、カムイはそっと離れた。
治療をすぐに済ませ、カムイは捜査資料を見せてくれた。
「俺が集めた情報だよ。これで役にたつかは分からないけど...」
「あの...殺人現場に残されていたものとか、分かりますか?」
「待ってて、全部見せるから」
こうして、二人での調査が本格的にはじまった。
(この資料は...)
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる