路地裏のマッチ売りの少女

Until the day when I get married.-Light of a new request-

第１３６話

ｰ＊＊ｰ
その日の夕方、俺たちは早速メアの元を訪れていた。
「僕に何か用なの...って、きみも一緒？」
少し眠そうな顔で面会室に現れたメアは、メルがいることに驚いていた。
「今日はお願いがあってきたんです」
「改まって、何？」
「実は今...というよりは昔から調べている事件を追っているんだけど、行き詰まってて」
「どんなの？」
「『アイリーン』って知ってる？」
「『魔弾の狙撃手スナイパーアイリーン』？彼女が関係しているの？」
やはり何か知っているようだ。
「数年前に殺されたんだ」
「知ってる」
「俺の恩人なんだ」
「...それは知らなかった。彼女は娘がいたはずだけど、僕が知っているのは僕の父親が彼女をずっと妬んでたこと。アイリーンの方が仕事が上手くて人付き合いが上手くて...できることが多かったみたい」
メアは寂しげに、嘘偽りなく全てを語ってくれた。
「...ありがとう」
「気をつけてね。アイリーンの娘...どうやら事件の容疑者みたいだから」
俺はその言葉に耳を疑った。
「どういうことですか？」
俺が言う前にメルが口を開いた。
「ぼうやのお友だちがきていたんだ。『知り合いが容疑者扱いされてる』って言ってた。そこに載ってた写真、アイリーンにそっくりだったよ」
それは間違いなくアイリスのことをさしていた。
ｰ＊ｰ
はじめは聞いたことを信じられなくて。
でもやっぱり、アイリスさんのことなのだろうか。
「明日の新聞に載るらしい。お友だちは止めるつもりみたいだけど...」
「ありがとう。行こう、メル」
「はい！メアさん、おやすみなさい」
「おやすみ。また何かあったら聞きにおいで」
(メアさん、なんだか前より優しくなった気がします)
そんなことを考えながら、私はカムイの後を追った。
「これから新聞社に行く。一緒にきてくれる？」
「はい！」
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「こんばんは。調査できたのですが...」
カムイが不思議な手帖を見せると、その人たちは頭を下げた。
「あの、どうしてみなさん土下座のような姿勢に...」
「権力行使。本当はやりたくないんだけど、緊急だから仕方ない」
「そういうものなんですか？」
「うん、そういうもの。...さて、明日の朝刊を見せていただけますか？」
記者の一人と思われる人が、深々と頭を下げながら持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
私はそれに目をとおした。
(『連続殺人の容疑者と思われる少女』って、やっぱりアイリスさんの写真です)
「あの、一つ聞いてもいいですか？」
「なんでしょう？」
私は疑問をぶつけることにした。
「この写真は、どこで手に入れたんですか？」
ｰ＊＊ｰ
メルに言われてはじめて気づいた。
住所不定のアイリスの写真を撮るのは、まず不可能なはずだ。
それが何故こんなにもピンポイントで写っているのだろうか。
「その写真は男性の方からいただきました」
「その人の名前は？」
「分かりません」
(情報提供者の名前は普通聞くのに)
「この記事を公開しないでいただきたいのですが...。現在調査中の事件に大きく関わっている可能性があるので、穏便に済ませてほしいです」
「分かりました、すぐに作り変えます」
俺はなんとか説得できた。
帰り道、メルが俺に聞いてきた。
「大きく関わっては、ないですよね...？」
「うん、大きくはないと思う。エリックに連絡しないと」
「そうですね！」
ｰ＊ｰ
連続殺人事件...もしかすると、関係ないわけではないのかもしれない。
「メル？」
「ごめんなさい、少し考え事をしていて...」
「事件のこと？」
「はい」
「俺も気になった。すごい凶悪犯みたいだし...。それよりも気になった部分があったんだけど」
カムイはいつの間にもらってきたのか、明日の朝刊...になるはずだった記事を手にしていた。
「ここの部分、引っ掛からない？」
(『ワイヤーのようなものが凶器』...これって！)
「メルも気づいたみたいだね」
ワイヤーということは、あの人が関わっている可能性があるということだ。
この事はエリックさんには知らせるのだろうか。
「エリック、明日休みだよね？」
家に着いてから、カムイは早速エリックさんに状況を説明していた。
『礼を言う』
「別にいいよ。ただ、真犯人を見つけないと、またアイリスが疑われてしまうかもしれない。俺たちは独自に調査するよ」
『俺も個人的に調べてみる』
私は俺たちという言葉に反応してしまっていた。
こんなときにそんなことを言っている場合ではないのに、私は嬉しくてどんな顔をすればいいか分からなかった。
「勝手に『俺たち』なんて言っちゃったけど、よかった？」
「はい！とっても嬉しいです！」
「...メルを危険な目には遭わせないって誓うから」
「ありがとうございます」
カムイは私の腰をぎゅっと引き寄せ、そのままキスをした。
カムイと一緒なら何も怖くないと思った。