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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第134話
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ー**ー
「八年前の話をする前に、俺の昔話をしてもいい?」
「はい」
メルは真剣な表情で俺の方を見ている。
俺は深呼吸をしてから、ゆっくりと話した。
「これは、今から十年前の話なんだけど...」
ーーーーーーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーーーーーーー
十年前、俺はまだ未熟だった。
失敗したことも何度かあり、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「おまえ、刑事だな!」
「...ちっ」
俺は二十人ほどの大男に包囲されていた。
(ここで殺られるわけには...)
そんなとき、たまたま通りかかった女性が銃で援護してくれた。
「平気?」
「あなたは?」
「私はきみと同じようなものよ。きみのお友だちに頼まれてきたの」
後ろを見ると、エリックが立っていた。
「無茶をするなと言っただろ!」
「...ごめん」
「まあまあ、若いっていいことよ。私はもうすぐ四つになる娘が待っているから、そろそろお暇させていただくわね」
「ありがとうございました」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「俺はそのお陰で、なんとかその場を切り抜けられたんだ」
「そんなことがあったんですね」
「うん。そして...その女性が八年前、突然死んだんだ」
ー*ー
八年前...。
アイリスさんの『お母さん』が帰ってこなかった年と一致する。
(...もしかして)
「その助けてくれた女性がアイリスさんのお母様なんですか?」
「俺の考えではね」
「何か根拠があるんですか?」
「ここからは新聞記事の話なんだけど...」
カムイがバッグの中からとても古い新聞紙を取り出した。
「これなんだけど...」
そこには、私が知らないことがたくさん書いてあった。
【とある女性、謎の死を遂げる
若き女性、アイリーンさんが死亡しているのを近所の人間が路地裏で発見した。
死亡推定時刻は不明。
警察によるとアイリーンさんは銃の使い手で、警察に協力していたという。
『美人スナイパー』の謎の死に、警察は混乱している。
今後についての会議が近々行われるという噂もあるが、果たして警察は無念を晴らせるのか?】
その記事の横には、アイリスさんに似ている写真が載っていた。
「メルも似てると思った?」
「はい、すごく」
「そうなんだよね...」
カムイが一人で焦っていた理由がようやく分かったような気がした。
「あの人が娘を置いていくはずがない。あんなに大切そうに話してくれたんだ。だから...」
「アイリスさんはお母様が亡くなられたことを知らないから、置いていかれたと思っている...ということでしょうか?」
「俺はそう思ってる」
ー**ー
「一つ教えてほしいのですが、この事件は解決したんですか?」
「ううん。結局何一つ分からなかった。分からないままなんだ...」
だから俺は、今でもこっそりと調査をしている。
当時の資料から犯人を探すのは困難だと知りながら、俺は諦めていない。
諦められない。
「私にも、何かできますか?」
「紅茶を淹れて、ゆっくり休んで。俺のことはいいから、怪我を治す方が先だよ」
「怪我を、治す...」
メルは呟いたあと、無理をしないと約束してくれた。
「アイリーンさんとのこと、もっと教えてください」
「俺が分かる範囲でよければ」
「そのあともお会いしたんですか?」
「うん。今度は俺が助けたんだ」
ーーーーーーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーーーーーーー
「ごめん、手が滑っちゃって」
「...けっ!」
そいつらはそそくさと逃げていった。
俺がくる前から、勝負は決まっていたようだった。
「ありがとう。助かったわ」
「俺は通りかかっただけなので」
「今日も娘が待っているの。だから帰らせてもらうわね」
だが、彼女は怪我をしていた。
「その怪我で動いていいわけないだろ!」
俺はつい怒鳴ってしまった。
そのあとは黙々と手当てを済ませ、その場からそそくさと立ち去った。
数日後、家にお菓子の詰め合わせが届いた。
『私は住所不定だから、何処にだって現れるわ。今度、娘と遊んであげてちょうだいな。あなたと娘はあまり歳が離れてないと思うから』
...そんなメモと一緒に。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それが最後の連絡だよ」
「優しい方だったんですね」
「彼女に学んだことはたくさんあったからね」
ー*ー
カムイは苦笑まじりに話してくれた。
「あのとき、もっと話を聞いてあげればよかったって後悔したよ。娘さんがどこにいるかも分からなくて...」
カムイは表情に侮しさを滲ませていた。
私には、何ができるだろうか。
「カムイ、その資料を見せてほしいのですが...」
「八年前の事件の?」
「はい!何か分かるかもしれません」
「...俺の前でだけだからね?」
「ありがとうございます」
話をしていると時間はあっという間で、気づいたときには家の前で馬車が止まっていた。
「メル」
カムイがいつものように、私に手を伸ばしてくれる。
「ありがとうございます」
このとき私も...恐らくカムイも知らなかった。
この事件が八年前だけではなく、今をも脅かそうとしていたことに。
「八年前の話をする前に、俺の昔話をしてもいい?」
「はい」
メルは真剣な表情で俺の方を見ている。
俺は深呼吸をしてから、ゆっくりと話した。
「これは、今から十年前の話なんだけど...」
ーーーーーーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーーーーーーー
十年前、俺はまだ未熟だった。
失敗したことも何度かあり、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「おまえ、刑事だな!」
「...ちっ」
俺は二十人ほどの大男に包囲されていた。
(ここで殺られるわけには...)
そんなとき、たまたま通りかかった女性が銃で援護してくれた。
「平気?」
「あなたは?」
「私はきみと同じようなものよ。きみのお友だちに頼まれてきたの」
後ろを見ると、エリックが立っていた。
「無茶をするなと言っただろ!」
「...ごめん」
「まあまあ、若いっていいことよ。私はもうすぐ四つになる娘が待っているから、そろそろお暇させていただくわね」
「ありがとうございました」
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「俺はそのお陰で、なんとかその場を切り抜けられたんだ」
「そんなことがあったんですね」
「うん。そして...その女性が八年前、突然死んだんだ」
ー*ー
八年前...。
アイリスさんの『お母さん』が帰ってこなかった年と一致する。
(...もしかして)
「その助けてくれた女性がアイリスさんのお母様なんですか?」
「俺の考えではね」
「何か根拠があるんですか?」
「ここからは新聞記事の話なんだけど...」
カムイがバッグの中からとても古い新聞紙を取り出した。
「これなんだけど...」
そこには、私が知らないことがたくさん書いてあった。
【とある女性、謎の死を遂げる
若き女性、アイリーンさんが死亡しているのを近所の人間が路地裏で発見した。
死亡推定時刻は不明。
警察によるとアイリーンさんは銃の使い手で、警察に協力していたという。
『美人スナイパー』の謎の死に、警察は混乱している。
今後についての会議が近々行われるという噂もあるが、果たして警察は無念を晴らせるのか?】
その記事の横には、アイリスさんに似ている写真が載っていた。
「メルも似てると思った?」
「はい、すごく」
「そうなんだよね...」
カムイが一人で焦っていた理由がようやく分かったような気がした。
「あの人が娘を置いていくはずがない。あんなに大切そうに話してくれたんだ。だから...」
「アイリスさんはお母様が亡くなられたことを知らないから、置いていかれたと思っている...ということでしょうか?」
「俺はそう思ってる」
ー**ー
「一つ教えてほしいのですが、この事件は解決したんですか?」
「ううん。結局何一つ分からなかった。分からないままなんだ...」
だから俺は、今でもこっそりと調査をしている。
当時の資料から犯人を探すのは困難だと知りながら、俺は諦めていない。
諦められない。
「私にも、何かできますか?」
「紅茶を淹れて、ゆっくり休んで。俺のことはいいから、怪我を治す方が先だよ」
「怪我を、治す...」
メルは呟いたあと、無理をしないと約束してくれた。
「アイリーンさんとのこと、もっと教えてください」
「俺が分かる範囲でよければ」
「そのあともお会いしたんですか?」
「うん。今度は俺が助けたんだ」
ーーーーーーーーーーーーーーー【回想】ーーーーーーーーーーーーーーー
「ごめん、手が滑っちゃって」
「...けっ!」
そいつらはそそくさと逃げていった。
俺がくる前から、勝負は決まっていたようだった。
「ありがとう。助かったわ」
「俺は通りかかっただけなので」
「今日も娘が待っているの。だから帰らせてもらうわね」
だが、彼女は怪我をしていた。
「その怪我で動いていいわけないだろ!」
俺はつい怒鳴ってしまった。
そのあとは黙々と手当てを済ませ、その場からそそくさと立ち去った。
数日後、家にお菓子の詰め合わせが届いた。
『私は住所不定だから、何処にだって現れるわ。今度、娘と遊んであげてちょうだいな。あなたと娘はあまり歳が離れてないと思うから』
...そんなメモと一緒に。
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「それが最後の連絡だよ」
「優しい方だったんですね」
「彼女に学んだことはたくさんあったからね」
ー*ー
カムイは苦笑まじりに話してくれた。
「あのとき、もっと話を聞いてあげればよかったって後悔したよ。娘さんがどこにいるかも分からなくて...」
カムイは表情に侮しさを滲ませていた。
私には、何ができるだろうか。
「カムイ、その資料を見せてほしいのですが...」
「八年前の事件の?」
「はい!何か分かるかもしれません」
「...俺の前でだけだからね?」
「ありがとうございます」
話をしていると時間はあっという間で、気づいたときには家の前で馬車が止まっていた。
「メル」
カムイがいつものように、私に手を伸ばしてくれる。
「ありがとうございます」
このとき私も...恐らくカムイも知らなかった。
この事件が八年前だけではなく、今をも脅かそうとしていたことに。
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