路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

文字の大きさ
上 下
173 / 220
Until the day when I get married.-Light of a new request-

第131話

しおりを挟む
それは、昔の話。
「待っててね」
「分かった」
その結果、こなかった。
帰ってきてくれなかった。
行かないで。
「置いて、いかないで」
「アイリス」
「...!」
目を開けると、エリックが私を覗きこんでいた。
「魘されていたが...」
「もう平気」
「そうか。...熱はないみたいだな。何か食べられそうか?」
「...多分」
エリックが私の手を握った。
...温かい。
なんだか安心する。
「体によさそうなものを作ってくる」
エリックは私に微笑んで、キッチンへ行ってしまった。
その手を離したくないと思ってしまった。
また置いていかれるのが、怖くなってしまった。
側にいてほしいと思うのは、おかしいこと?
私、間違ってる...?
ー**ー
「カムイ、もう朝です!」
俺はメルに揺さぶられて、目を覚ました。
(ああ、夕方から今までずっと寝ていたのか)
それはメルも同じだったらしく、寝癖がついていた。
俺はそこをそっと撫でた。
「メル、寝癖がついてるよ」
「え、どこですか?」
「...ここ」
俺はそのまま髪に触れながら、そのまま顔を寄せて...
『カムイ、起きてるか?』
耳元で、タイミング悪くエリックの声がした。
「メル、ごめん。連絡が...」
「私のことは気にしないでください」
メルはいつものようににこにこしていたが、頬が少し赤くなっているのを見逃さなかった。
「...エリック。どうしたの?」
『アイリスに何か食べさせたいのだが、何を作ればいいんだ?』
「うーん、それなら...ちょっと待って」
俺が思い浮かんだのは、すりりんごだ。
あれなら食べられそうだと思った。
だが、アイリスは出会った頃のメル以上に栄養が不足している。
「メル、風邪の時とか、食べた料理って何かある?」
「そうですね...ポリッジはどうでしょうか?」
「ポリッジって、あの?」
「はい!ポリッジにアーモンドミルクを入れて...それで完成というものが、体調が悪いときはいいと、おばあさまが言っていました」
「俺も母から聞いた気がする。ありがとう」
俺は懐かしく思いながら、エリックに作り方を説明した。
(本当に懐かしい)
ー*ー
カムイがアイリスさんのことを考えている姿を見ると、なんだか心がざわざわする。
(私、最低です...)
「メル?」
「なんでも、ありません」
「なんでもないっていう顔じゃないけど...もしかして、ちょっと焼きもちだったりする?」
「...!」
どうしてカムイには分かってしまうのだろう。
なんだか誤魔化しとおす自信がなくて、私は正直に打ち明けることにした。
「多分、そうだと思います。カムイがアイリスさんの話を笑顔でしているところを見ると、なんだかもやもやするんです」
「ごめんね、気づけなくて」
「いえ、いいんです!困らせたいわけではありませんから」
「でもやっぱり、メルが嫉妬してくれると嬉しいと思ってしまう。...俺も相当末期かも」
カムイは朝食を作る手を止め、私を優しい腕でそっと包みこんでくれた。
右腕の包帯をそっと解いていく。
「ここ、手当てしなおすね」
「この体勢でですか?」
「うん。動かないで」
ぎゅっと抱きしめられたまま器用に腕に手当てを施されて、私は恥ずかしくて顔を下に向けた。
「俺の方を見て」
体を離したあと、カムイはくすっと笑って私の顔をあげさせた。
「やっぱり照れてる顔も可愛い」
(心臓がばくばくです...!)
ー**ー
やはり俺は、メルのことになると少々鈍感になるらしい。
(もっと早く気づければよかったのに)
俺は申し訳なさでいっぱいになった。
普段の他人の行動ならあっという間に理解できるのに、何故メルのことになると気づくのが遅くなるのだろうか。
「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
「ううん。俺の方こそ、ごめんね」
「あの...」
「?」
「カムイが嫉妬するときは、どういう時ですか?」
突然の質問に、俺は激しく動揺した。
「メルが他の男の人と楽しく話しているところを見たときとか...あげだすとキリがないな」
「そうなんですか...?」
「うん。メルが誰かと話すたび、俺はいつも嫉妬してるよ」
笑顔を独り占めできたら...そう思ってしまう俺は、心が狭いのかもしれない。
「カムイは、いつも冷静そうなのに」
「前にも言ったかもしれないけど、俺はそんなに冷静じゃいられないよ」
頭をわしゃわしゃと撫でると、メルはくすぐったそうにしていた。
「多分、アイリスの体調は明日にはよくなると思う。明後日あたり、誘ってみようか」
「はい!」
メルの晴れやかな表情を見て、俺は少しほっとした。
嫌がられるかもしれないと思いつつ、話題に出さないといけないことだった。
だが、先程嫉妬したと話したばかりなのに、言ってしまってもいいのか迷った。
「カムイ」
「どうしたの?」
「その、一緒にお弁当を作りたいです」
頬を真っ赤にして言われたそのお願いを俺は当然断れるはずもなく、美味しいものを作ろうねと約束した。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

なにをおっしゃいますやら

基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。 エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。 微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。 エブリシアは苦笑した。 今日までなのだから。 今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...