路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-Light of a new request-

第131話

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それは、昔の話。
「待っててね」
「分かった」
その結果、こなかった。
帰ってきてくれなかった。
行かないで。
「置いて、いかないで」
「アイリス」
「...!」
目を開けると、エリックが私を覗きこんでいた。
「魘されていたが...」
「もう平気」
「そうか。...熱はないみたいだな。何か食べられそうか?」
「...多分」
エリックが私の手を握った。
...温かい。
なんだか安心する。
「体によさそうなものを作ってくる」
エリックは私に微笑んで、キッチンへ行ってしまった。
その手を離したくないと思ってしまった。
また置いていかれるのが、怖くなってしまった。
側にいてほしいと思うのは、おかしいこと?
私、間違ってる...?
ー**ー
「カムイ、もう朝です!」
俺はメルに揺さぶられて、目を覚ました。
(ああ、夕方から今までずっと寝ていたのか)
それはメルも同じだったらしく、寝癖がついていた。
俺はそこをそっと撫でた。
「メル、寝癖がついてるよ」
「え、どこですか?」
「...ここ」
俺はそのまま髪に触れながら、そのまま顔を寄せて...
『カムイ、起きてるか?』
耳元で、タイミング悪くエリックの声がした。
「メル、ごめん。連絡が...」
「私のことは気にしないでください」
メルはいつものようににこにこしていたが、頬が少し赤くなっているのを見逃さなかった。
「...エリック。どうしたの?」
『アイリスに何か食べさせたいのだが、何を作ればいいんだ?』
「うーん、それなら...ちょっと待って」
俺が思い浮かんだのは、すりりんごだ。
あれなら食べられそうだと思った。
だが、アイリスは出会った頃のメル以上に栄養が不足している。
「メル、風邪の時とか、食べた料理って何かある?」
「そうですね...ポリッジはどうでしょうか?」
「ポリッジって、あの?」
「はい!ポリッジにアーモンドミルクを入れて...それで完成というものが、体調が悪いときはいいと、おばあさまが言っていました」
「俺も母から聞いた気がする。ありがとう」
俺は懐かしく思いながら、エリックに作り方を説明した。
(本当に懐かしい)
ー*ー
カムイがアイリスさんのことを考えている姿を見ると、なんだか心がざわざわする。
(私、最低です...)
「メル?」
「なんでも、ありません」
「なんでもないっていう顔じゃないけど...もしかして、ちょっと焼きもちだったりする?」
「...!」
どうしてカムイには分かってしまうのだろう。
なんだか誤魔化しとおす自信がなくて、私は正直に打ち明けることにした。
「多分、そうだと思います。カムイがアイリスさんの話を笑顔でしているところを見ると、なんだかもやもやするんです」
「ごめんね、気づけなくて」
「いえ、いいんです!困らせたいわけではありませんから」
「でもやっぱり、メルが嫉妬してくれると嬉しいと思ってしまう。...俺も相当末期かも」
カムイは朝食を作る手を止め、私を優しい腕でそっと包みこんでくれた。
右腕の包帯をそっと解いていく。
「ここ、手当てしなおすね」
「この体勢でですか?」
「うん。動かないで」
ぎゅっと抱きしめられたまま器用に腕に手当てを施されて、私は恥ずかしくて顔を下に向けた。
「俺の方を見て」
体を離したあと、カムイはくすっと笑って私の顔をあげさせた。
「やっぱり照れてる顔も可愛い」
(心臓がばくばくです...!)
ー**ー
やはり俺は、メルのことになると少々鈍感になるらしい。
(もっと早く気づければよかったのに)
俺は申し訳なさでいっぱいになった。
普段の他人の行動ならあっという間に理解できるのに、何故メルのことになると気づくのが遅くなるのだろうか。
「気を遣わせてしまって、ごめんなさい」
「ううん。俺の方こそ、ごめんね」
「あの...」
「?」
「カムイが嫉妬するときは、どういう時ですか?」
突然の質問に、俺は激しく動揺した。
「メルが他の男の人と楽しく話しているところを見たときとか...あげだすとキリがないな」
「そうなんですか...?」
「うん。メルが誰かと話すたび、俺はいつも嫉妬してるよ」
笑顔を独り占めできたら...そう思ってしまう俺は、心が狭いのかもしれない。
「カムイは、いつも冷静そうなのに」
「前にも言ったかもしれないけど、俺はそんなに冷静じゃいられないよ」
頭をわしゃわしゃと撫でると、メルはくすぐったそうにしていた。
「多分、アイリスの体調は明日にはよくなると思う。明後日あたり、誘ってみようか」
「はい!」
メルの晴れやかな表情を見て、俺は少しほっとした。
嫌がられるかもしれないと思いつつ、話題に出さないといけないことだった。
だが、先程嫉妬したと話したばかりなのに、言ってしまってもいいのか迷った。
「カムイ」
「どうしたの?」
「その、一緒にお弁当を作りたいです」
頬を真っ赤にして言われたそのお願いを俺は当然断れるはずもなく、美味しいものを作ろうねと約束した。
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