路地裏のマッチ売りの少女

Until the day when I get married.-Light of a new request-

第１２７話

ｰ＊＊ｰ
早朝、俺はとある古い新聞記事を読み直していた。
(確定だけど、絶対に違うとも言い切れない)
メルには勿論、エリックにも話すことはできない。
本人も覚えていないだろう。
「おはようございます、カムイ」
「...！おはよう、メル。よく眠れた？」
「はい！」
メルはにこにこしている。
...よかった、気づかれなかったようだ。
「もしかすると、もうアイリスさんがくるかもしれませんね」
メルが嬉しそうに言っている。
俺も嬉しいが、それより...
「メルの目の前には俺がいるんだけどな...」
「あ、えっと、」
「...ごめん。他の人のことをメルがそんなふうに嬉しそうに話すのはいいことだと分かっているんだ。でも、どうしても妬いてしまう」
「カムイ...」
心が狭い男だと、我ながら思う。
嫌われても仕方ないと思いつつ、この思いを抑えきれない。
「こんな俺は、嫌い？」
「いえ、私をとても大切に思ってくれているのが分かりますから。それに、私もカムイが他の女性と楽しく話しているのを見ると...なんだかもやもやするんです」
メルが嫉妬していることがあったなんて、男娼婦との一件以来、全く知らなかった。
「お互い様だね」
「はい」
二人で笑いあっていると、扉をたたく音がした。
俺は躊躇なくドアを開けた。
「やあエリック。アイリスも早かったね」
ｰ＊ｰ
「アイリスさん、こんにちは」
「...おはよう」
アイリスさんは少し眠そうだ。
「すまない、今日は早番でな...」
「ご飯は食べてきたの？」
「一応な」
「了解。それじゃあメル、取り敢えず準備しておいで？」
「ごめんなさい！」
私は着替えていないことに今さら気づいた。
待たせないようにとすぐに身支度を終え、私はカムイの近くへ駆け寄った。
「お待たせしました！」
エリックさんは既に仕事へ行ってしまっていた。
(お茶だけでも淹れて差しあげられればよかったのですが...)
「アイリスさんは何か飲みますか？」
「...この間のものが、飲みたい」
「分かりました」
アールグレイを淹れ、テーブルに並べる。
砂糖も入れ、よく混ぜる。
「どうぞ」
「ありがとう」
「カムイもどうぞ」
「無理してない？」
傷が酷くなっていないか、心配してくれているようだ。
「全然痛くないです、ありがとうございます」
(カムイはとっても優しいです)
「行こうか」
「はい！...あ、アイリスさん。私と手を繋いでいただけますか？」
「分かった」
私はアイリスさんとも手を繋いだ。
(今日はどこをまわるのでしょうか？)
ｰ＊＊ｰ
しばらく歩いていると、前回とは別の射的屋があった。
「わあ...」
「...」
「二人ともやってみる？やり方は俺が教えるから」
「お願いします」
「分かった」
アイリスは乗り気ではないのかもしれない...はじめる前はそう思っていた。
「いい？これをこうして...」
俺が説明したあと、メルたちは撃っていた。
弾は六発。
メルはそのうち二発当てた。
「当たりました！」
...撫でたい。
アイリスの方に目をやると、そこには驚きの光景が広がっていた。
パンパン！
「...すごいです、全部当たってます！」
初心者が、全弾命中させる？
そんなことがあり得るのだろうか。
(やはり彼女は...)
「カムイのお陰。ありがとう」
「それは違うと思うよ。きっと、アイリスの実力だ」
「どういうことですか？」
メルは意味が分かっていないようだったが、アイリスにはしっかりと伝わったようだ。
「そんなこと、ない。私がもっと上手だったなら、あの人は帰ってきてくれたかもしれない」
「アイリス、さん？」
アイリスの様子がおかしい。
俺は地雷を踏んでしまったようだ。
「ごめん。この話は終わりにしようか」
ｰ＊ｰ
そこまで聞いて、なんとなく理解した。
(アイリスさんの過去と関係があるのでしょうか)
「...別にいい。あなたがたになら聞かれても、いい」
「嫌なことなんですか？」
「私はずっと、あそこで待ってた」
「待ってたって...誰を？」
「それは、」
その途中で何かの合図が鳴る。
「何かイベントがはじまるみたい」
そのときアイリスさんはとても震えていた。
「アイリスさん、言いたくないことは無理に話さなくていいんですよ」
「ありがとう」
これ以上話をさせるのは負担をかけてしまうと思った。
私が途中で話をきると、カムイがこっそり頭をぽんと撫でてくれた。
「行こうか」
「はい！」
「...分かった」
だが、行っている途中で私は腕に痛みを感じた。
(人がいっぱいで、なんだかふらふらします...)
「メル！」
私はなんとかカムイとアイリスさんの手を握り、ふらふらと歩いていく。
「ごめんなさい...」
「それより早く、家に帰ろう」
「このまま倒れたら、危ない」
二人とも優しくしてくれて、私の体はいつの間にかソファーの上に横になっていた。
(どうやって帰ってきたのか、記憶がありません...)
「寝てていいよ」
カムイの声が降ってきて、私はそのまま眠りについた。