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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第125話
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「あの、アイリスさん」
私がその人の方を向くと、なんだか緊張した様子で話しかけられた。
「一緒にきてほしい場所があるんです」
「分かった」
チューブは抜いてもらえた。
思ったより、痛くなかった。
「これ、何?」
「これは、お風呂っていうんです。ここで体を洗うんですよ」
知らない。
私の知らない世界がそこにある。
「えっと、洗っちゃいますね」
私を椅子に座らせ、彼女は丁寧に洗いはじめた。
...私には、よく分からなかったが、私にもできるように詳しく教えてくれた。
どうしてこんなに親切にしてくれるんだろう。
そんな疑問が頭を過った。
ー*ー
『アイリスさんをお風呂にいれてあげてほしい』
カムイが私に頼んだ内容は、そういうものだった。
「まずは髪から洗うのがいいと思います」
「...分かった」
汚れていないように見えて、結構汚れていた。
(な、なんだか気まずいです)
「どうでしょう?」
「ありがとう」
嫌がられているのでは...と思っていたので、お礼を言われるととても嬉しかった。
「体は...」
「それは分かる。水道の近くにあった石鹸を使っていたから」
寒い時季は、どうやって体を洗っていたのだろうか。
「それより、目...」
「...!」
眼帯を外していたことをすっかり忘れていた私は、どうやって説明しようか悩んだ。
(ちゃんと言わないと、ですよね)
「私の左眼は生まれつきで...」
私は事情を話した。
私のことを話せば、アイリスさんがもっと心を開いてくれるかもしれない。
そう希望を持って、話した。
「それなら、他の人には言ってはいけないの?」
「はい。カムイやエリックさん...あと他に知っている方がいらっしゃいますが、普段はいつも隠しています」
「...そう。分かった」
私は勇気を出して、言ってみることにした。
「あ、あの!私のことをお話したので、一つだけお願いを聞いていただけませんか?」
「何をすればいいの?」
「私のこと、名前で呼んでください」
「...いいの?」
「はい!」
『あの』、と呼ばれると、なんだか距離を感じる。
だから、これが私の今の精一杯だ。
「分かった。...メル」
「ありがとうございます!湯船に浸かりすぎると風邪をひいてしまいますから、そろそろあがりましょう」
「分かった」
私はすぐにアイリスさんの体を拭いた。
「あとでまたヘアアレンジしてもいいですか?」
アイリスさんは、強く頷いてくれた。
(それにしても...)
アイリスさんの体には、古傷の痕があった。
カムイには話しておいた方がいいだろうか。
ー**ー
俺はメルたちがバスルームにいる間、エリックと話していた。
「きみは女性が苦手だろう?本当に大丈夫なの?」
「ああ。不思議と彼女のことは嫌いになれない」
...それは明らかに、恋のはじまりなのではないだろうか。
そうつっこみたくなる衝動を抑えつつ、俺はエリックにアイリスのことで分かっていることを話した。
「どうやら何か事故に巻きこまれたことがあるらしい。擦り傷の量が尋常じゃなかった」
「...そうか」
エリックのカップを持つ手が震えている。
「取り敢えず、俺にできることはやるよ」
「俺も、できることはなんでもしよう」
「いいお湯でした」
「メル、ありがとう」
メルの頭を撫でると、とっても嬉しそうににこにこしていた。
「これって、どうやって使うの?」
「それはドライヤーだ。髪を乾かす時に使うもので...」
エリックが丁寧に教えているところを見ていると、なんだか微笑ましかった。
「メル、眼帯は...」
俺は迂闊だった。
入浴するということは、眼帯を外さなければならないということだ。
それなのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。
(メル、無理してないかな)
「メル、ごめん」
「眼帯を外したのですが...アイリスさんには、気味悪がられませんでした」
メルはほっとした様子で俺にそう話してくれた。
「よかったね、メル」
「はい!」
「メル...ヘアアレンジ、してほしい」
「分かりました!」
いつの間に仲良くなったのか、メルをちゃんと名前で呼んでいる。
(俺たちのことも、呼んでくれないかな)
「アイリス、俺たちも名前で呼んでくれないかな?」
「...分かった」
やはりメルと比べると、警戒心が異常に強いようだ。
「俺が休みの日は俺と過ごせばいい。だが、それ以外は基本的にカムイたちと過ごしてほしい。一人で家においておくのはきっと危険だからな」
「...分かった、エリック。よろしく」
「...!」
エリックの頬が熟れた林檎のように赤くなっていた。
(本人が気づくまで黙っておこう)
俺は心のなかでそう思った。
窓の外を見ると、もう月がのぼりはじめていた。
「そろそろ帰った方がいいよ。暗くなったら危ないから」
「そうさせてもらう。...アイリス、俺と手を繋いでくれ」
「分かった」
「おやすみなさい」
「...おやすみなさい」
アイリスはおとなしくエリックの手を控えめに握りながら、そのまま帰っていった。
(...さて、どうなることやら)
私がその人の方を向くと、なんだか緊張した様子で話しかけられた。
「一緒にきてほしい場所があるんです」
「分かった」
チューブは抜いてもらえた。
思ったより、痛くなかった。
「これ、何?」
「これは、お風呂っていうんです。ここで体を洗うんですよ」
知らない。
私の知らない世界がそこにある。
「えっと、洗っちゃいますね」
私を椅子に座らせ、彼女は丁寧に洗いはじめた。
...私には、よく分からなかったが、私にもできるように詳しく教えてくれた。
どうしてこんなに親切にしてくれるんだろう。
そんな疑問が頭を過った。
ー*ー
『アイリスさんをお風呂にいれてあげてほしい』
カムイが私に頼んだ内容は、そういうものだった。
「まずは髪から洗うのがいいと思います」
「...分かった」
汚れていないように見えて、結構汚れていた。
(な、なんだか気まずいです)
「どうでしょう?」
「ありがとう」
嫌がられているのでは...と思っていたので、お礼を言われるととても嬉しかった。
「体は...」
「それは分かる。水道の近くにあった石鹸を使っていたから」
寒い時季は、どうやって体を洗っていたのだろうか。
「それより、目...」
「...!」
眼帯を外していたことをすっかり忘れていた私は、どうやって説明しようか悩んだ。
(ちゃんと言わないと、ですよね)
「私の左眼は生まれつきで...」
私は事情を話した。
私のことを話せば、アイリスさんがもっと心を開いてくれるかもしれない。
そう希望を持って、話した。
「それなら、他の人には言ってはいけないの?」
「はい。カムイやエリックさん...あと他に知っている方がいらっしゃいますが、普段はいつも隠しています」
「...そう。分かった」
私は勇気を出して、言ってみることにした。
「あ、あの!私のことをお話したので、一つだけお願いを聞いていただけませんか?」
「何をすればいいの?」
「私のこと、名前で呼んでください」
「...いいの?」
「はい!」
『あの』、と呼ばれると、なんだか距離を感じる。
だから、これが私の今の精一杯だ。
「分かった。...メル」
「ありがとうございます!湯船に浸かりすぎると風邪をひいてしまいますから、そろそろあがりましょう」
「分かった」
私はすぐにアイリスさんの体を拭いた。
「あとでまたヘアアレンジしてもいいですか?」
アイリスさんは、強く頷いてくれた。
(それにしても...)
アイリスさんの体には、古傷の痕があった。
カムイには話しておいた方がいいだろうか。
ー**ー
俺はメルたちがバスルームにいる間、エリックと話していた。
「きみは女性が苦手だろう?本当に大丈夫なの?」
「ああ。不思議と彼女のことは嫌いになれない」
...それは明らかに、恋のはじまりなのではないだろうか。
そうつっこみたくなる衝動を抑えつつ、俺はエリックにアイリスのことで分かっていることを話した。
「どうやら何か事故に巻きこまれたことがあるらしい。擦り傷の量が尋常じゃなかった」
「...そうか」
エリックのカップを持つ手が震えている。
「取り敢えず、俺にできることはやるよ」
「俺も、できることはなんでもしよう」
「いいお湯でした」
「メル、ありがとう」
メルの頭を撫でると、とっても嬉しそうににこにこしていた。
「これって、どうやって使うの?」
「それはドライヤーだ。髪を乾かす時に使うもので...」
エリックが丁寧に教えているところを見ていると、なんだか微笑ましかった。
「メル、眼帯は...」
俺は迂闊だった。
入浴するということは、眼帯を外さなければならないということだ。
それなのに、どうして今まで気づかなかったのだろう。
(メル、無理してないかな)
「メル、ごめん」
「眼帯を外したのですが...アイリスさんには、気味悪がられませんでした」
メルはほっとした様子で俺にそう話してくれた。
「よかったね、メル」
「はい!」
「メル...ヘアアレンジ、してほしい」
「分かりました!」
いつの間に仲良くなったのか、メルをちゃんと名前で呼んでいる。
(俺たちのことも、呼んでくれないかな)
「アイリス、俺たちも名前で呼んでくれないかな?」
「...分かった」
やはりメルと比べると、警戒心が異常に強いようだ。
「俺が休みの日は俺と過ごせばいい。だが、それ以外は基本的にカムイたちと過ごしてほしい。一人で家においておくのはきっと危険だからな」
「...分かった、エリック。よろしく」
「...!」
エリックの頬が熟れた林檎のように赤くなっていた。
(本人が気づくまで黙っておこう)
俺は心のなかでそう思った。
窓の外を見ると、もう月がのぼりはじめていた。
「そろそろ帰った方がいいよ。暗くなったら危ないから」
「そうさせてもらう。...アイリス、俺と手を繋いでくれ」
「分かった」
「おやすみなさい」
「...おやすみなさい」
アイリスはおとなしくエリックの手を控えめに握りながら、そのまま帰っていった。
(...さて、どうなることやら)
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