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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第124話
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「えっと...どうしましょうか」
その人は戸惑っていた。
...私の腕を見て。
「すみません、もう一度だけさっきのものを着ていただけますか?」
「分かった」
「カムイ、その...」
「ごめん、点滴をつけたままだと、着替えられないよね」
お医者さん、なのだろうか。
チューブのようなものを丁寧に外してくれた。
それからもう一度着替えた。
「...着心地が変とかありませんか?」
「特にない」
「よかったです!とっても可愛いですよ」
「ありがとう」
何故ここまでしてくれるのか、私には分からない。
でも、なんだか心がほっこりしたような気がした。
ー*ー
「あ、ちょっと待ってくださいね...。これでいい、はずです」
部屋を出ようとしたアイリスさんを引き止め、私なりにできることをしてみた。
私はアイリスさんと一緒に部屋を出る。
「着替え終わったのか」
アイリスさんはこくりと頷いた。
「アイリスの髪、メルがやったでしょ」
「カムイ、どうして分かったんですか?」
私より短い黒髪のアイリスさんのヘアアレンジは少しだけ難しく感じたが、一生懸命やってよかったと思った。
(そういえば...)
私は重要なことに気づいた。
「ごめんなさい、自己紹介をしていませんでしたね...。私はメルです。そちらがカムイで、そちらの方がエリックがさんです」
「分かった」
私はどう答えていいのか、分からなくなってしまった。
「よろしくね、アイリス」
「...どうしてよろしくなの?」
「アイリス、きみは家がないんだろ?」
「...そうだけど」
表情を変えないまま、アイリスさんはそう答えた。
「だったら俺の所へくればいい」
「エリック、きみは...」
「別にいい。部屋もあるし、不足しているものがあるというのなら全て揃える」
「...どうして、そこまでしてくれるの?」
アイリスさんの表情は、少しだけ歪んでいるように見えた。
「俺たちは困っている人を見捨てられるほど、氷の心は持っていないんだ。お節介な人に捕まったと思って、エリックと一緒に暮らしてみたらどうかな?」
アイリスさんは無言で頷いた。
今までどんな生活をしてきたのかとか聞きたいことは沢山あるが、私にはどこまで踏みこんでいいのか分からなかった。
ー**ー
俺たちといた方が、一緒にいられる時間は長いと思う。
だがエリックは、俺たちの状況を見て判断したのだろう。
犯人に顔を知られている俺たちは、いつメアの父親から狙われるか分からない。
俺だけでは、メルを守るのが精一杯だろう。
「アイリス、繋ぐよ」
色々考えながら、俺は点滴チューブを再びアイリスの細い腕に繋いだ。
「ありがとう」
「どういたしまして。メル、スープはあれでよかった?」
「はい!ありがとうございます」
メルはみんなの分をよそって、テーブルへ運んでくれようとしていた。
「運ぶのは俺がやるよ。怪我が悪化したら、元も子もないでしょ?」
「ありがとうございます。それなら、紅茶を淹れますね。エリックさんはコーヒーですか?」
「ああ。ありがとう」
メルが淹れているのを、アイリスが不思議そうに見ている。
「すまない、お手洗いを...」
「行っておいでよ。エリックが帰ってくるまでに終わらせておくから」
エリックはすまなさそうに奥の扉に消えていった。
「そういえば、アイリスさんはどうしますか?...って、アイリスさん、ストップです!」
「メル、どうした...」
メルの方を向いて、俺は言葉を失った。
アイリスは口いっぱいに茶葉を詰めこんで、首をかしげていた。
ー*ー
「これは食べ物ではないの?」
私は呆然と立ちつくした。
(私より酷い生活だったのでしょうか...)
「取り敢えず吐きだしてこい」
「ふぁふぁった」
口をもごもごさせながら、アイリスさんはお手洗いへと向かった。
みんな、何も言えなかった。
酷すぎて、どんな言葉をかけたらいいのか分からない、が正しいのかもしれない。
(私にできるのは、これだけです)
私は戻ってきたアイリスさんに話しかけた。
「アイリスさん、これは茶葉というんですよ」
「茶葉...?」
「はい!こうしてこうやって...」
私は紅茶を淹れるところを実演した。
「こういう飲み物になるんです。人によって好みがありますが、お砂糖は入れた方がいいと思います」
「分かった」
アイリスさんはそう言って、エリックさんの隣に座った。
「スープもできたし、食べようか」
「はい!」
「これ、どうやって食べるの?」
アイリスさんは紅茶を気にしているようだった。
「いいか、これはまず、砂糖を溶かして...」
エリックさんが説明しているのを、アイリスさんは真剣に聞いていた。
「スープは分かる?」
アイリスさんはこくりと頷いて、スープを飲みはじめた。
「メル、一つお願いがあるんだけど...」
「私にできることなら、なんでもやります」
「アイリスを...ほしいんだけど、いいかな?」
「はい、勿論です!」
「ありがとう」
カムイは私をそっと撫でて、スープを口にしていた。
(アイリスさんとも、仲良くなれるでしょうか?)
その人は戸惑っていた。
...私の腕を見て。
「すみません、もう一度だけさっきのものを着ていただけますか?」
「分かった」
「カムイ、その...」
「ごめん、点滴をつけたままだと、着替えられないよね」
お医者さん、なのだろうか。
チューブのようなものを丁寧に外してくれた。
それからもう一度着替えた。
「...着心地が変とかありませんか?」
「特にない」
「よかったです!とっても可愛いですよ」
「ありがとう」
何故ここまでしてくれるのか、私には分からない。
でも、なんだか心がほっこりしたような気がした。
ー*ー
「あ、ちょっと待ってくださいね...。これでいい、はずです」
部屋を出ようとしたアイリスさんを引き止め、私なりにできることをしてみた。
私はアイリスさんと一緒に部屋を出る。
「着替え終わったのか」
アイリスさんはこくりと頷いた。
「アイリスの髪、メルがやったでしょ」
「カムイ、どうして分かったんですか?」
私より短い黒髪のアイリスさんのヘアアレンジは少しだけ難しく感じたが、一生懸命やってよかったと思った。
(そういえば...)
私は重要なことに気づいた。
「ごめんなさい、自己紹介をしていませんでしたね...。私はメルです。そちらがカムイで、そちらの方がエリックがさんです」
「分かった」
私はどう答えていいのか、分からなくなってしまった。
「よろしくね、アイリス」
「...どうしてよろしくなの?」
「アイリス、きみは家がないんだろ?」
「...そうだけど」
表情を変えないまま、アイリスさんはそう答えた。
「だったら俺の所へくればいい」
「エリック、きみは...」
「別にいい。部屋もあるし、不足しているものがあるというのなら全て揃える」
「...どうして、そこまでしてくれるの?」
アイリスさんの表情は、少しだけ歪んでいるように見えた。
「俺たちは困っている人を見捨てられるほど、氷の心は持っていないんだ。お節介な人に捕まったと思って、エリックと一緒に暮らしてみたらどうかな?」
アイリスさんは無言で頷いた。
今までどんな生活をしてきたのかとか聞きたいことは沢山あるが、私にはどこまで踏みこんでいいのか分からなかった。
ー**ー
俺たちといた方が、一緒にいられる時間は長いと思う。
だがエリックは、俺たちの状況を見て判断したのだろう。
犯人に顔を知られている俺たちは、いつメアの父親から狙われるか分からない。
俺だけでは、メルを守るのが精一杯だろう。
「アイリス、繋ぐよ」
色々考えながら、俺は点滴チューブを再びアイリスの細い腕に繋いだ。
「ありがとう」
「どういたしまして。メル、スープはあれでよかった?」
「はい!ありがとうございます」
メルはみんなの分をよそって、テーブルへ運んでくれようとしていた。
「運ぶのは俺がやるよ。怪我が悪化したら、元も子もないでしょ?」
「ありがとうございます。それなら、紅茶を淹れますね。エリックさんはコーヒーですか?」
「ああ。ありがとう」
メルが淹れているのを、アイリスが不思議そうに見ている。
「すまない、お手洗いを...」
「行っておいでよ。エリックが帰ってくるまでに終わらせておくから」
エリックはすまなさそうに奥の扉に消えていった。
「そういえば、アイリスさんはどうしますか?...って、アイリスさん、ストップです!」
「メル、どうした...」
メルの方を向いて、俺は言葉を失った。
アイリスは口いっぱいに茶葉を詰めこんで、首をかしげていた。
ー*ー
「これは食べ物ではないの?」
私は呆然と立ちつくした。
(私より酷い生活だったのでしょうか...)
「取り敢えず吐きだしてこい」
「ふぁふぁった」
口をもごもごさせながら、アイリスさんはお手洗いへと向かった。
みんな、何も言えなかった。
酷すぎて、どんな言葉をかけたらいいのか分からない、が正しいのかもしれない。
(私にできるのは、これだけです)
私は戻ってきたアイリスさんに話しかけた。
「アイリスさん、これは茶葉というんですよ」
「茶葉...?」
「はい!こうしてこうやって...」
私は紅茶を淹れるところを実演した。
「こういう飲み物になるんです。人によって好みがありますが、お砂糖は入れた方がいいと思います」
「分かった」
アイリスさんはそう言って、エリックさんの隣に座った。
「スープもできたし、食べようか」
「はい!」
「これ、どうやって食べるの?」
アイリスさんは紅茶を気にしているようだった。
「いいか、これはまず、砂糖を溶かして...」
エリックさんが説明しているのを、アイリスさんは真剣に聞いていた。
「スープは分かる?」
アイリスさんはこくりと頷いて、スープを飲みはじめた。
「メル、一つお願いがあるんだけど...」
「私にできることなら、なんでもやります」
「アイリスを...ほしいんだけど、いいかな?」
「はい、勿論です!」
「ありがとう」
カムイは私をそっと撫でて、スープを口にしていた。
(アイリスさんとも、仲良くなれるでしょうか?)
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