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Until the day when I get married.-Light of a new request-
第123話
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母が帰ってこなくなって八年。
持っていたものを売って生活するしかなく、纏うものはボロ切れ一枚。
これを全て売れば、帰ってきてくれるかもしれない。
私はその希望を捨てられなかった。
「...いいにおい」
食べたい。
なんでもいいから食べたい。
近くにあった蛇口を捻る。
この水だけが、私の食事。
何か味があるものを食べたい。
いつから食べていないんだろう。
「私、何のためにここにいるの...?」
答えが返ってくるはずないのに、私はいつの間にか声にだしていた。
...助けて。
お願い。
この世界から、私を連れ出して。
私に気づいて。
この思いはきっと、誰にも届かない。
...近くで人の声がする。
賑やかな、声がする。
それを最後に私の意識は途切れた。
ー*ー
「迫力満載でした!」
「そうだね」
私があたりを見回すと、見たことがない屋台があった。
「カムイ、あれは一体...」
「ああ、あの屋台は何か飲み物を売ってるみたい。行ってみる?」
「はい!」
私たちが屋台の方へ向かっていたとき、遠くに何かが転がっているのが見えた。
(よく見えません...)
布のように見えるが、動きがなんだか変だ。
ただの布なら飛ばされてもおかしくないのに、ずっと転がっている。
「メル、どうしたの?」
私はカムイが声をかけてくれたことにも気づかず、不思議な布に近づいた。
(...布じゃ、ないみたいです)
「メル?」
私を追いかけてきてくれたカムイが私の手を掴む。
「ごめんなさい、どうしても気になることがあって...」
私が近くに行くと、微かに声が聞こえた。
「カムイ、この方は生きています!」
そこにあったものは布じゃない。
一人の少女が倒れていた。
ー**ー
メルは本当によく気づく。
「そうだね、この子は生きてる」
「...でも、どうしてこんなにボロボロなのでしょうか?」
メルはそう口にしたあと、はっとした表情を浮かべていた。
(歳はメルと同じか少し下くらいか。もしかすると、メルと同じような目に遭っていたのかもしれない)
俺はエリックに連絡をいれた。
「エリック、緊急事態だ。俺の家にきて」
俺はその子を抱きあげようとしたが、メルがじっと見ていたので手伝ってもらうことにした。
「メル、この子のことを支えてくれる?」
「はい!」
俺は左から、メルは右から少女を支えた。
治療すれば、まだ助けられる。
...まだ間に合う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はあ...はあ...」
「メルはそのままそこで休んでて?」
メルに無理をさせないようにと思ったのに、また無理をさせてしまった。
「ごめんなさい」
「ありがとう。俺一人じゃ無理だったよ」
メルは嬉しそうに微笑んでいた。
俺は急いで処置を済ませた。
「緊急事態って...そういうことか」
「エリックさん」
エリックは走ってきてくれたのか、額に汗が滲んでいた。
「この子を拾ったんだ。身元を調べてほしい。傷が異常に多いのも、この服装も気になる」
「分かった」
「...っ」
少女が目を覚ましたようだ。
「あの、聞こえますか?」
「...誰?」
しっかりと聞こえているようだ。
「きみが倒れていたのを見つけたんだ。今は点滴をして、足りない水分とかを補ってる。それで、」
「...して」
「?」
話している途中で、小さな声で何か言われた。
「どうして私を助けたの...?」
少女はそう言って、涙をながしていた。
ー*ー
「えっと...取り敢えず、使ってください」
私はハンカチを差し出した。
「...ありがとう」
しばらく静寂がながれたあと、エリックさんが質問しはじめた。
「名前は?」
「アイリス」
「歳は?」
「十四」
私より大人な雰囲気があるので、年上の方だと思っていた。
「家族は?」
「いない」
「どのくらい一人で生活していた?」
「八年」
ということは、私がマッチを売っていたのと変わりないくらいの歳から、ずっと一人でいたことになる。
「カムイ、カムイがいいなら何か食事を作りたいのですが...」
「いきなり食べるとお腹がびっくりするから、スープをお願いできるかな?」
「はい!」
私はキッチンへ急いだ。
すると少女が...アイリスさんがついてきていた。
「ダメですよ、寝てないと...」
「移動した方がいいかと」
「...いいよ。じゃあ、もっとアイリスのことを教えてもらえるかな?」
「...」
聞いたこと以外、ほとんど何も話さない。
何か理由があるのだろうか。
「アイリス、きみはどうやって生活してきた?」
「持っていたものを、全て売って」
「全て、ですか?」
アイリスさんはこくりと頷いた。
(だからお洋服もボロボロなのでしょうか)
私はあることを思いついた。
「カムイ、スープをお願いできますか?」
「いいけど...何をするの?」
私の洋服を少し縮めれば着られるはずだ。
だから...
「お裁縫です。アイリスさんが好きな色を教えてください」
「...紫」
「分かりました!」
私は早速作業に取りかかることにした。
ブラウスを縮めて...紫のスカートのゴムを調節した。
「アイリスさん、着てみていただけますか?」
アイリスさんは驚いた様子だったが、すぐに立ちあがった。
「どこで着替えればいい?」
「このお部屋でお願いします」
アイリスさんがちゃんと着てくれた。
(よかった、ぴったりです!)
持っていたものを売って生活するしかなく、纏うものはボロ切れ一枚。
これを全て売れば、帰ってきてくれるかもしれない。
私はその希望を捨てられなかった。
「...いいにおい」
食べたい。
なんでもいいから食べたい。
近くにあった蛇口を捻る。
この水だけが、私の食事。
何か味があるものを食べたい。
いつから食べていないんだろう。
「私、何のためにここにいるの...?」
答えが返ってくるはずないのに、私はいつの間にか声にだしていた。
...助けて。
お願い。
この世界から、私を連れ出して。
私に気づいて。
この思いはきっと、誰にも届かない。
...近くで人の声がする。
賑やかな、声がする。
それを最後に私の意識は途切れた。
ー*ー
「迫力満載でした!」
「そうだね」
私があたりを見回すと、見たことがない屋台があった。
「カムイ、あれは一体...」
「ああ、あの屋台は何か飲み物を売ってるみたい。行ってみる?」
「はい!」
私たちが屋台の方へ向かっていたとき、遠くに何かが転がっているのが見えた。
(よく見えません...)
布のように見えるが、動きがなんだか変だ。
ただの布なら飛ばされてもおかしくないのに、ずっと転がっている。
「メル、どうしたの?」
私はカムイが声をかけてくれたことにも気づかず、不思議な布に近づいた。
(...布じゃ、ないみたいです)
「メル?」
私を追いかけてきてくれたカムイが私の手を掴む。
「ごめんなさい、どうしても気になることがあって...」
私が近くに行くと、微かに声が聞こえた。
「カムイ、この方は生きています!」
そこにあったものは布じゃない。
一人の少女が倒れていた。
ー**ー
メルは本当によく気づく。
「そうだね、この子は生きてる」
「...でも、どうしてこんなにボロボロなのでしょうか?」
メルはそう口にしたあと、はっとした表情を浮かべていた。
(歳はメルと同じか少し下くらいか。もしかすると、メルと同じような目に遭っていたのかもしれない)
俺はエリックに連絡をいれた。
「エリック、緊急事態だ。俺の家にきて」
俺はその子を抱きあげようとしたが、メルがじっと見ていたので手伝ってもらうことにした。
「メル、この子のことを支えてくれる?」
「はい!」
俺は左から、メルは右から少女を支えた。
治療すれば、まだ助けられる。
...まだ間に合う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はあ...はあ...」
「メルはそのままそこで休んでて?」
メルに無理をさせないようにと思ったのに、また無理をさせてしまった。
「ごめんなさい」
「ありがとう。俺一人じゃ無理だったよ」
メルは嬉しそうに微笑んでいた。
俺は急いで処置を済ませた。
「緊急事態って...そういうことか」
「エリックさん」
エリックは走ってきてくれたのか、額に汗が滲んでいた。
「この子を拾ったんだ。身元を調べてほしい。傷が異常に多いのも、この服装も気になる」
「分かった」
「...っ」
少女が目を覚ましたようだ。
「あの、聞こえますか?」
「...誰?」
しっかりと聞こえているようだ。
「きみが倒れていたのを見つけたんだ。今は点滴をして、足りない水分とかを補ってる。それで、」
「...して」
「?」
話している途中で、小さな声で何か言われた。
「どうして私を助けたの...?」
少女はそう言って、涙をながしていた。
ー*ー
「えっと...取り敢えず、使ってください」
私はハンカチを差し出した。
「...ありがとう」
しばらく静寂がながれたあと、エリックさんが質問しはじめた。
「名前は?」
「アイリス」
「歳は?」
「十四」
私より大人な雰囲気があるので、年上の方だと思っていた。
「家族は?」
「いない」
「どのくらい一人で生活していた?」
「八年」
ということは、私がマッチを売っていたのと変わりないくらいの歳から、ずっと一人でいたことになる。
「カムイ、カムイがいいなら何か食事を作りたいのですが...」
「いきなり食べるとお腹がびっくりするから、スープをお願いできるかな?」
「はい!」
私はキッチンへ急いだ。
すると少女が...アイリスさんがついてきていた。
「ダメですよ、寝てないと...」
「移動した方がいいかと」
「...いいよ。じゃあ、もっとアイリスのことを教えてもらえるかな?」
「...」
聞いたこと以外、ほとんど何も話さない。
何か理由があるのだろうか。
「アイリス、きみはどうやって生活してきた?」
「持っていたものを、全て売って」
「全て、ですか?」
アイリスさんはこくりと頷いた。
(だからお洋服もボロボロなのでしょうか)
私はあることを思いついた。
「カムイ、スープをお願いできますか?」
「いいけど...何をするの?」
私の洋服を少し縮めれば着られるはずだ。
だから...
「お裁縫です。アイリスさんが好きな色を教えてください」
「...紫」
「分かりました!」
私は早速作業に取りかかることにした。
ブラウスを縮めて...紫のスカートのゴムを調節した。
「アイリスさん、着てみていただけますか?」
アイリスさんは驚いた様子だったが、すぐに立ちあがった。
「どこで着替えればいい?」
「このお部屋でお願いします」
アイリスさんがちゃんと着てくれた。
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