路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-New dark appearance-

第118話

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カムイたちからの連絡を受け、俺はパレード及び剣舞が行われる会場に向かっていた。
「...くくっ」
服は騎士団の服装。
顔に十字架の傷跡。
...どうやら探している人物らしかった。
「少しいいだろうか」
「なんでしょう?」
男は苛ついたような口調で話す。
メルやカムイを巻きこまずに済むのなら、それに越したことはない。
「あなたが持っているワイヤーは、何に使うのかと思ってな」
「...ちっ!」
男は走りだす。
「待て!」
男はひたすら走る。
人ごみに紛れられ、とうとう俺は見失ってしまった。
...すまない、カムイ。
すまない、メル。
捕まえられなかった...。
そんな思いを胸に抱えながら、俺は男を一旦諦め二人の元へ向かった。
ー**ー
『待て!』
通信機から入ってきたのは、そんなエリックの声だった。
「エリック?」
『はっ、はあ...』
しばらくして、荒い息づかいが聞こえてきた。
『すまない。逃がしてしまった...』
「気にしないで。怪我はない?」
『...ああ』
声が近くで聞こえる。
「エリックさん、すごい汗です...!」
「メル、すまないな」
「...?」
メルはきょとんとしている。
エリックの顔が知られたことは、正直言って少しまずい。
エリックを見た瞬間、即行逃げてしまう場合がある。
(犯人がきてくれるといいけど...)
「ワイヤーの話を持ち出した瞬間、目つきが変わった。奴で間違いない」
「...分かった」
エリックがそう言うなら、それを信じようと思った。
それならば、犯人がこの近くまできていてもおかしくはないはずだ。
もしかすると、犯行の準備をしているかもしれない。
「...メル、この近くで何でもいいから変わったことはある?」
メルは眼帯を少しだけずらし、一生懸命辺りを見回している。
「えっと...あっちの道に、細い糸があります!」
俺の目には何も見えなかった。
ー*ー
「すまない、俺には何も見えないんだが...」
「俺も見えない」
「近づいたら見えると思います」
私は素早く左眼を隠して、通りの反対側へと二人の手をひいた。
「ここです」
やっぱりそこには、細い糸がぴんと張られていた。
「すごいね、メルは」
カムイがよしよしと頭を撫でてくれた。
(やっぱり褒められるのは嬉しいです...)
「よし、俺が切る」
エリックさんは折り畳み式ナイフをポケットから取り出し、それを切りはじめた。
「あの、少しだけ待っていただけませんか...?」
「分かった」
私は少しだけ左眼が使えるようにして、糸を見た。
(あっちに繋がっているように見えます...あ!)
「カムイ、見つけました!」
「本当?」
「はい!お顔に傷があります」
「俺はここで糸を切ってから追いつく。二人は早く行ってくれ」
「メル、その人の所へ連れていって」
「はい!」
私はカムイと小走りで傷がある男の人の所へ向かった。
ー**ー
結局、メルに手伝わせる形になってしまった。
「ごめんね、メル」
「...話してほしかったです。最近カムイが私に教えてくれなかったことは、この事だったんですよね?」
「そうだよ」
「私には、何もできないと思います。でも、それでも話してほしかったです...」
メルが不安げな表情をしているのが、その声だけで伝わってくる。
(そんな顔をさせたくなかったのに)
「いました、あの人です」
『こちらエリック、ワイヤーは切った。どっち方面へ向かえばいい?』
「えっと、大きな通りの方です」
『了解』
エリックがくるまで待つべきだと思った。
だが、男は新たな武器を取り出した。
「カムイ、あのナイフに細い糸がついてます!」
「しまった、隠し武器だ!」
あれほど気をつけてと言ったのに、ここから見えるお偉いさんは油断している。
「...くっ!」
ー*ー
男がナイフを投げたと同時に、カムイがナイフを投げつけた。
キィィィン!
「なっ...」
カムイはナイフをナイフで弾きかえした。
でもそのナイフはひゅんと音をたて、カムイの方へ飛んでいく。
「カムイ!」
腕がビキビキと痛む。
でも、カムイに傷ついてほしくない。
ひゅん!
「ぁ...」
細い糸が、私にあたった。
「メル!」
閉じかけていた傷口が、また開いた音がした。
ナイフはカムイが止めてくれた。
「きゃあ!」
「なんだ!」
周りが騒ぎになってしまった。
私は痛む腕を押さえ、カムイの方を向いた。
「カムイ、怪我はありませんか?」
「何してるの、メル...」
「そんなお顔をしないでください。私は平気ですから...」
「...」
男は黙ったままこちらを向く。
その時、後ろから聞き覚えのある声がした。
「現行犯だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「...」
メルが怪我をしている。
もしかすると、前の怪我が悪化したのかもしれない。
カムイが怒りを抑えているのが見える。
「待て!」
俺は迷いなく男を確保しようと動いた。
だが、男の動きは全く読めない。
「そのままそこで止まれ」
「...」
俺が近づこうとした瞬間だった。
「エリックさん、近づいちゃダメです!その人の回りに、細い糸がいっぱいあります!」
メルは左眼を押さえながら俺に力いっぱい訴えた。
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