路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-New dark appearance-

第108話

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ー**ー
俺が起きると、メルが嬉しそうに近づいてきた。
「おはようございます、カムイ!」
「おはようメル。いつもより元気だね」
「ノート、ありがとうございます」
メルはにこにこしている。
どうやら、ノートの返事を早速読んだらしい。
「俺は、思ったことを書いただけだから」
メルが嬉しそうにしていると、俺も嬉しくなる。
俺の頬も、きっとゆるんでしまっているだろう。
昔は、そんな自分が嫌いだった。
何も守れなかったくせに、笑う資格があるのか分からなかった。
だが、今は笑う意味があるのだと信じたい。
「カムイ、朝御飯の時間ですよ」
この目の前の笑顔が見られるのなら、俺は笑っていたい。
「もうそんな時間か...」
「お部屋まで持ってきてくださるのでしょうか?」
「そうだと思うよ」
「楽しみです...!」
メルの目がキラキラしている。
(さて、何が出るんだろう...)
ー*ー
「やっぱりホテルのオムレツは、とってもふわふわです!どうしてこんなにふわふわになるんでしょうか...」
私は、何度かカムイと一緒に試してみたことがあるが、このふわふわにはならない。
(何が足りないのでしょう...)
「...ははっ」
「カムイ?」
「ごめんごめん、すごく真剣な顔でオムレツとにらめっこしてるなって...」
カムイがクスクスと笑っている。
「少しだけ、真面目に考えてたんです」
ちょっとだけむっとすると、カムイが頭を撫でてくれた。
「二人でまた作ってみよう。きっと上手にできるはずだよ」
「はい...!」
「今日は夕方まではゆっくりして、それから馬車がくるからそれに乗って...夜、途中で止まってもらって、花を見よう」
「はい」
夜が待ちきれなくて、つい舞いあがってしまう。
部屋にティーセットがあったので、紅茶を淹れることにした。
(なんだか、久しぶりな感じがします)
ー**ー
メルがそわそわしている。
夜まで待ちきれない...といったところだろうか。
「カムイ、アールグレイでいいですか?」
「なんでもいいけど...無理してない?」
「していませんよ?」
メルはご機嫌なようだ。
せっせと紅茶を淹れている。
 ただ、時折腹部を気にしているようだ。
「メル、あとで包帯換えようね」
「...あのお薬は、少しだけ痛いです」
古傷にも滲みてしまっているのかもしれない。
そんなことを考えながら、でも手当てはしようねとメルに言い聞かせた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「...っ」
「ごめんね」
これで何度目だろうか。
こうして手当てをするのは、
傷つけてしまったのは、
辛い思いをさせているのは、何度目だろうか。
「...よし、終わったよ」
「うう...」
メルはうるうるとした目でこちらを見ている。
その度に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ごめん」
「カムイは何も悪くないです。ただ、お薬が痛いだけです」
「帰ったら別のものがあるから、そっちの滲みない方にしようね」
よしよしと頭を撫でると、メルの表情はぱあっと明るくなって、陽だまりのように温かいものになった。
「夕方まで寝ててもいいからね」
「少しだけ寝ます...」
とろんとしたメルの目が、とても可愛らしく見える。
「...おやすみ」
ー*ー
次に私が目を開けると、そこは馬車の中だった。
「カムイ、あの...」
「ごめんね、なんだか起こすのが嫌で...そのまま運んできちゃった」
ということは、馬車の御者さんに...そう思うと、恥ずかしくなってしまった。
「さあ、ちょうど寄り道ポイントに着いたみたいだ」
「わあ...!すごく綺麗なお花です!」
「これが噂の月下美人か...」
「ゲッカビジン、ですか?」
「うん。この花はね、一晩で散ってしまうんだ」
「たった一日でですか?こんなに綺麗なのに...」
カムイから色々な説明を聞きながら、私はその花をじっと見つめた。
「でも、今日二人で見られてよかった」
「私もそう思います」
二人で沢山見てまわって、それからすぐに馬車へと戻った。
「次に咲くときも、見にこられるでしょうか...」
「次に咲くとき、か。...そのときは、またこうして一緒に見よう、メル」
「はい!」
散りゆくその姿がまた綺麗で、私は馬車から見えなくなるまでずっと外を見ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
帰ったあと、私たちはすぐに部屋へと戻った。
「久しぶりのおうちです...」
「そうだね。...お腹は痛くない?」
「はい、平気です」
「よかった」
「また紅茶を淹れてもいいですか?」
「勿論だよ。ただし、無理しない程度にね?」
「分かりました」
私はいつものように紅茶を淹れる。
目の前で美味しそうに飲んでくれるカムイを見て、このひとときも私の幸せの一部なのだと感じた。
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