路地裏のマッチ売りの少女

黒蝶

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Until the day when I get married.-New dark appearance-

第106話

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ー**ー
そこはまさしく、戦場だった。
「メル、さがって」
(メルが光ってたって言った時から予想はしていたけど...)
俺はナイフを目の前に迫った男へと投げつける。
「ぐあっ...!」
ナイフの柄の部分が当たるように計算していたので、気絶させただけですんだ。
「...」
俺はナイフを回収した。
このホテルは建築様式が珍しく、高そうな見た目をしている。
だがそれは...庶民でも気軽に高級ホテルに泊まった気分になれるようにという、支配人の考えに基づいて造られたものであって、料金もそれなりに安い。
つまり、いくら人気があるとはいえ、強盗に渡せる程の金はないのだ。
この強盗たちは、ここが高級ホテルだと勘違いしているようだ。
「カムイ...!」
メルが怯えている。
メルが見た光、それはきっと...
パン!
「やっぱり、銃なんですね...」
ー*ー
私が、ちゃんと伝えていれば...こんなことにはならなかったのに。
「動くな!殺されたいのか!」
「きゃあああ!」
悲鳴と、脅迫。
怖くて足が動かなくなる。
私が動けなくなりそうになった瞬間、カムイが咄嗟に引っ張ってくれた。
「流石にこの人数を相手にするのは俺でも分が悪すぎる...。せめて、助けを呼ばないと」
「どうするんですか?」
「...どうしようか」
私たちが入ってきたドアは、いつの間にか強盗らしき人たちによって閉められていた。
他のドアにも、男の人たちが立っている。
(あれは...)
「カムイ、あそこからなら出られそうです」
私は床を指さした。
「どういうこと?」
「あの床だけ、板が違います。もしかすると...」
「一か八か、やってみようか」
「はい!」
偶然なのか、強盗らしき人たちは私たちに気づいていない。
二人で少しだけ壊れそうになっていた床板をはずすと、外への道が見えた。
「よし、これでなんとかなりそうだね」
「はい!」
私たちが慎重に降りようとすると、近くに強盗らしき人がやってきた。
「おまえら、何してる?」
「い、いえ...俺たちは何もしていません。だから、命だけは...」
「...ちっ」
カムイが蹴られそうになったとき、私は咄嗟に前に出た。
「...っ」
「メルっ、」
「今は抑えてください...」
私はお腹の痛みを堪え、なんとかやりすごした。
強盗らしき人が去っていく。
それから私たちは、急いで穴へと飛びこんだ。
ー**ー
「カムイ、急ぎましょう。他の方たちが傷つけられてしまいますから...」
...メルは無理をしている。
見ていてそれは分かった。
だが、メルが言っていることも事実だ。
「そうだね、早く行こう」
(強盗が間抜けで助かったな...)
俺はメルの歩調にあわせる。
この近くに、交番があったはずだ。
「カムイ、あそこです!」
「事情を話してこよう」
「はい!」
俺たちの雰囲気で察したのか、交番の警官たちは、まともに取り合ってくれた。
「あそこのホテルです。強盗は...」
(何人だっただろう?)
「多分、十六人くらいです」
メルはしっかりと視ていたらしい。
「ご協力、感謝します!」
何十人もの警官が、ホテルへと向かっていった。
「...っ」
「傷、見せて」
ほとんど誰もいなくなった交番で、俺はメルの手当てをすることにした。
「部屋を借りられますか?」
「こちらへどうぞ!」
「ありがとうございます」
俺はメルの服を捲った。
(...これは酷い)
ー*ー
「酷い内出血だ...。ついでに、手の包帯も換えるね」
「ごめんなさい...」
「メルが謝ることじゃないよ」
カムイは私の頭を撫でてくれた。
「でも、」
「でもはなし。それに、俺が避けられなかったせいでもあるから...」
カムイは顔を青くして言った。
「カムイも、怪我してます」
「え...?」
顔を擦りむいているのを見つけた。
私はカムイくらい上手く手当てができるわけじゃない。
でも、とても痛そうだったので、放っておけなかった。
「...はい、終わりました」
「器用だね。ありがとう」
カムイは私が蹴られた場所を避けるように、そっと抱きしめてくれた。
「カムイ...」
「あの、失礼します!」
その直後、外から声がした。
「!」
ー**ー
「すいません、ホテルの件が片づきましたので、お戻りいただけると幸いなのですが...」
「はい、ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
俺たちは警官にお礼を言って、そのままホテルへと戻った。
「お客様、本当にありがとうございました。助けを呼んでいただいたそうで...」
「いえ、俺たちは当然のことをしただけです」
メルも隣で、にこにこしている。
その様子はとても落ち着いていて、いつものメルだった。
...よかった。
「あの、お部屋は一応傷つけられていないようですが...その...」
言いたいことは分かる。
強盗が入ったのだ。
今すぐに出ていく人たちもいるだろう。
「俺は、そのままここに泊まりたいです。メルはどうかな?」
「私もです。私、ここから見える景色が好きですから」
そう言っているメルは、無理をしている様子はない。
「ありがとうございます。これから、ディナーの準備をいたします。お部屋の方に持っていきますので、それまでおくつろぎくださいませ」
支配人は、深く頭をさげていた。
「頭をあげてください。俺たちは、ただの泊まり客ですから。行こう、メル」
「はい!」
俺はメルの手をしっかりと繋ぎ、そのまま部屋を目指した。
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